投信1編集部による本記事の注目点
- 今回の東京モーターショーでは国内外の主要メーカーから電気自動車(EV)のコンセプトモデルが多く披露され、さながら「東京EVショー」といった趣でした。
- 「水素・燃料電池戦略ロードマップ」(2016年3月22日付け改訂版)では、水素ステーションを16年度内に4大都市圏を中心に100カ所程度、20年度までに160カ所程度、さらに25年度までに320カ所設置するとされています。
- 水素ステーション普及の前提として、FCVをまずは2020年までに4万台程度普及させるとのことですが、現状、トヨタ「MIRAI」の販売台数は1500~2000台程度と見られることを考えると、その目標達成は難しい状況にあると言えそうです。
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10月28日から一般公開がスタートした「東京モーターショー2017」(東京ビッグサイト)が、11月5日に閉幕した。総来場者数は77万1200人で、前回(2015年)の81万2500人からは約4万人の減少となった。
今回の開催では、国内外の主要自動車メーカーから、特に電気自動車(EV)のコンセプトモデルが多く披露され、「東京EVショー」と表現しても過言ではないほどの展示であった。
日産の「LEAF NISMO Concept」や、三菱自の「MITSUBISHI e-EVOLUTION」、ホンダの「Honda Urban EV Concept」などはワールドプレミアとして公開され、フォルクスワーゲンの「I.D.BUZZ」やメルセデス・ベンツ「Concept EQA」は、日本初公開のモデルとしてベールを脱いだ。
一方で、次世代環境対応車としてその動向が期待されている燃料電池車(FCV)も、性能を大きく進化させたモデルが発表され、確実に来場者の注目を集めた。
トヨタが示すFCVのさらなる可能性
14年に量産型のセダンタイプFCV「MIRAI」を世界に先駆けて発売したトヨタは、FCVのポテンシャルを示すコンセプトモデルとして「FINE-Comfort Ride」を公開した。電動車ならではの自由なレイアウトを活かし、インホイールモーターの採用やタイヤを四隅に配置することで高い静粛性とスムーズな走りを実現。さらに、水素をエネルギー源とする大電力量を活かすことで、約1000kmの航続距離を実現している。
また、FCバスコンセプト「SORA」は、現在東京で運行している2台のFCバスの進化版だ。18年から順次導入を進め、今後100台以上が都心エリアで運行されることとなる。
メルセデス・ベンツが世界初のPHFCV
メルセデス・ベンツが発表した新型「GLC F-CELL」は、燃料電池とバッテリー技術を融合させた世界初の100%電気駆動のプラグインハイブリッドFCVだ。水素に加えて、蓄えた電気によっても走行可能としている。
水素タンクの容量は4.4kgで、航続距離は437kmを達成。これに大型LiBによるEV航続距離49kmを加えることができる。同社によると「燃料電池は、長い航続距離、短い燃料充填時間、水だけの排出というメリットを持つ。必要なインフラが整備されるマーケットなら、どこでも必ずや将来有望な技術になる」としている。
水素ステーションの設置拡充とFCVの普及拡大へ
日本では、経済産業省 水素・燃料電池戦略協議会が、16年3月22日に改訂版を発表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」において、水素ステーションを16年度内に4大都市圏を中心に100カ所程度、20年度までに160カ所程度、さらに25年度までに320カ所設置するとし、さらに、20年代後半までに水素ステーション事業の自立化を目指す方針だ。
5月19日には、トヨタ、日産、ホンダ、JXTGエネルギー、出光、岩谷産業、東京ガス、東邦ガス、日本エア・リキード、豊田通商、日本政策投資銀行の11社が水素ステーションの本格整備に向けた協業の検討開始で合意し、覚書を締結するなど、業界を挙げて取り組みを強化している。
しかし一方で、その前提としてFCVを20年までに4万台、25年までに20万台、30年までに80万台程度普及させるとしているが、現状、トヨタの「MIRAI」の販売台数はわずか1500~2000台程度と見られ、「20年までに4万台」という目標達成は難しい状況にあるのが実情だ。
車両の普及が遅れることで、水素ステーションの自立化も後ろ倒しとなれば、さらに普及は足踏みをするという負の連鎖が続くこととなり、関係各社はいかにしてこの流れを断ち切るのか、今後の動向が注目されるところだ。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水聡
投信1編集部からのコメント
EV vs. FCVという図式は、かつての液晶テレビとプラズマテレビによる競争の記憶をよみがえらせます。その当時、液晶は「プラズマに比べて大型化が難しい」「黒がきれいに出ない」と言われたものの、結果を言えば、エコシステムが拡大した液晶テレビに軍配が上がりました。
では、自動車の場合はどうかというと、現時点ではEVのほうに分があるように見えます。果たして、テスラのような新規参入組でも挑戦ができるEVという駆動アーキテクチャが普及して覇権を握るのでしょうか。そしてその時、トヨタがどう動くのかに注目です。
電子デバイス産業新聞×投信1編集部
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