最年少中学生プロ棋士としてデビュー後に29連勝という偉業を成し遂げ、その勢いを維持して将棋界を席巻し、今年の春には最年少名人となった藤井聡太七冠。
2022年に獲得した賞金・対局料は1億2205万円。初の1億円超えと、自身初の首位ランクインを同時に達成しています(※)。
8月31日から始まる将棋のタイトル戦「王座戦」の挑戦者となった藤井聡太七冠。
前人未到の八冠制覇がかかる大一番は全国の注目を集めそうです。2016年12月のプロデビューから藤井ブームが続き、将棋界はメディアで取り上げられることも増えています。
ファンのSNS投稿や動画配信サービス、東京には将棋カフェもあり「将棋は高齢者の趣味」という印象は払しょくされてきた感も。
近畿圏や首都圏ではプロ棋士が運営する将棋教室が存在しており、夏休みは規模の大小問わず全国各地で大会が開催され、将棋好きな子ども達が集まり熱戦を繰り広げます。
そして8月は未来のプロ棋士を目指す子どもたちにとって、重要な試験が行われるのです。
それが「奨励会」の入会試験です。
※日本将棋連盟「2022年獲得賞金・対局料ベスト10」2023年02月03日
【将棋】王座戦だけじゃない!8月の将棋界が「熱い」理由とは?
野球やサッカーと同じように、将棋の世界もアマチュアとプロの世界がハッキリと分かれています。
プロになるには野球ではドラフト会議での指名を経て入団するのが一番オーソドックスで、契約を結べば晴れてプロ野球選手に。
将棋の場合は、毎年8月中旬頃に関西将棋会館と東京の将棋会館の2カ所で、同じ日程で行われる「奨励会入会試験」がドラフト会議に近い役割となります。
1/2
東京・将棋会館(渋谷区千駄ケ谷) show999/shutterstock.com
【奨励会】全国から集まる神童たち
プロ棋士への登竜門である養成組織「奨励会」に入会する資格を得るための試験であり、全国からその地域で「神童」と呼ばれる中学生から小学生の精鋭が集結します。
しかし、試験をパスしたから即プロ棋士になれるわけではないのです。そして、年に1回のみの開催なので試験に合格しなければ来年まで待たなければなりません。
プロ棋士たちが「修業時代」と口にするのはこの奨励会時代を指し、藤井聡太七冠も、羽生善治九段も奨励会を経てプロ棋士となりました。
【奨励会】8月中旬に行われる厳しい入会試験
2023年の奨励会入会試験は8月18日と19日に一次試験が、20日に二次試験が実施されます(※)。
一次試験は受験者同士の対局です。子ども同士とはいえ自分の将来の夢へ近づけるかどうかの真剣勝負。4勝しなければ二次試験へと進めず、3敗を喫した時点で失格となります。
一次試験を通過しても、二次試験は奨励会員との対局が待ち受けています。
二次試験で1勝すれば晴れて奨励会入会となりますが、プロ棋士への道は険しく長いものです。
スタートラインとなる6級でもアマチュア四段前後の実力があり、高い棋力を持つ同士が月2回の定例会でしのぎを削り、規定となる成績をクリアしなければ5級、4級へと昇級することができません。
アマチュアでもなくプロでもないという非常にアンバランスな存在なのが奨励会員で、10代、20代という青春時代を全て将棋に注ぎ込みプロになるために日々鍛錬しないといけません。
※級位受験者の場合
【奨励会】将棋のプロ棋士になれるのは「三段リーグ」を突破した者のみ
2/2
DRN Studio/shutterstock.com
奨励会入会試験という狭き門を突破したとしても、進学や成績(棋力)の伸び悩みでの退会、また満21歳までに初段到達が叶わない場合は強制退会と非常にシビアな世界が待ち受けています。
とくにプロである四段になるための最終関門である三段リーグは過酷さで有名です。
4月から9月、10月から3月の年2回、半年をかけて各18局行われるリーグ戦は、将棋ファンの注目を集め、インターネット上で「誰が抜けるか」が話題に上ります。
三段リーグに到達するのも大変な上、リーグ在籍者約40人の中で上位2名に入らなければプロ棋士になれないという厳しい世界。
そして、満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段昇段ができなかった場合も奨励会を強制退会となるのです。
編入試験などの特例もありますが、基本的に毎年プロ棋士は1年に4人しか誕生しません。
史上5人目の中学生プロ棋士でもあり、現在無敵の強さを誇る藤井聡太七冠でさえも、三段リーグ突破時には5敗をしており、その厳しさが分かります。
そのため、裏を返せば中学生プロ棋士は天才が集まる将棋界の中でも特別な存在なのです。
現在行われている三段リーグの成績上位者には中学生プロ棋士誕生の可能性のある奨励会員もおり、残り4局(8月18日現在)の結果は注目を集めそうです。
将棋は趣味以上の存在になることも
プロ棋士を目指す場合は子どもでも年齢に関係ない実力社会で自分の力を出すしかありませんが、趣味として楽しむには生涯を通じた趣味として長く付き合うことができます。
小学校では小学4年生頃から始まるクラブ活動でも将棋は鉄板のひとつですし、現在はアプリで初心者からでも気軽に楽しめるようになりました。
しかも、将棋の棋力は「アマ何段」と資格としても認められており、中学や高校生で全国大会に出場する腕前であれば大学進学の際でも大きなアドバンテージになります。
全国レベル大会で活躍する程の実力は必要ですが、将棋強豪校である早稲田大学、関西であれば立命館大学といった有名私立大学に自己推薦入試などで合格を目指すこともできます。
集中力を鍛える将棋は、子どもの成長を育むメリットも
このように将棋は強くなるための努力をし、棋力を向上させていけば単なる趣味以上の存在になります。
将棋をするには集中力も必要ですし、幅広い年齢の方と交流する機会も増えるでしょう。
お子さんが将棋に興味を持っていたり「強くなりたい!」と思っているなら、将棋教室に通ったり大会に参加して刺激を受けるのも良いですね。
真剣に将棋に向き合うことで養われる集中力や思考力は、子どもの成長を育んでくれる大切な財産となるでしょう。
参考資料
中山 まち子