前回の記事では、米国シリコンバレーにある巨大IT企業の企業価値がパロアルトの住宅価格と相関関係が高いことをテーマにしました。今回は場所をワシントン州シアトル大都市圏に移して、同様な法則が見られるかを検証してみます。
世界の時価総額トップ企業の一角には、シアトル大都市圏に本社を置くマイクロソフト社とアマゾン社があります。では、シアトル大都市圏の加重平均住宅価値合計(=S&Pコアロジック・ケ-スシラー・シアトル住宅価格指数)の推移はどうなっているか、下のグラフで見てみましょう。すると、過去5年で1.6倍になっていることがおわかりいただけると思います(前回お伝えしたSFベイ・シリコンバレーのパロアルトほどの価格上昇はありませんね)。
前回同様、時価総額の大きい地元企業3社合計の業績と企業価値を、以下の表のように時系列的にならべてみました。ここからは、売上高・EBITDA[デットサービス・減価償却前営業キャッシュフロー]の伸び率(過去5年で1.5倍)以上に、時価総額・企業価値の伸び率(過去5年で2.2倍)が大きいことが分かります。
特にボーイング社、次いでマイクロソフト社のバリュエーションが2015年以降大幅に楽観的になっていることがわかります。この2社の売上高・EBITDAの数値は大きく伸びていないにもかかわらず、株価が大きく上昇していることがやや気になりますね。中でもボーイング社は、工場内のオートメーション化による従業員削減で営業キャッシュフローを維持・増加させてきています。このように見てくると、バリュエーションについてはシリコンバレーの巨大IT企業3社合計よりも楽観的と言えるでしょう。
ご参考までに、下のグラフはシアトル大都市圏の雇用状況を示したものです。非農業部門の雇用者数は過去5年間で20%増加していますが、大きく伸ばした分野はやはりIT部門従事者でした。住宅に対する旺盛な需要の存在が垣間見えるところだと考えます。
次に供給面を見てみましょう。米国政府の国勢調査によれば、2011-2016年の6年間におけるシアトル大都市圏での住宅新築許認可件数120,863戸に対し、非農業部門雇用者増加数は293,000人、許認可件数は戸当たり2.37人(サンノゼ大都市圏は新築許認可件数38,385戸、戸当り5.36人)となっています。
比較的許認可が取りやすいテキサス州ダラス都市圏の場合、新築許認可件数318,982戸に対して、非農業部門雇用増加数は612,500人となっており、許認可戸あたり1.92人です。このダラスとの比較で見ると、シアトル大都市圏も十分に供給が足りていると言えましょう。また、これらの地域には十分な供給があるため、シリコンバレー地域との価格上昇率に差が出てきているものと考えられます。
実は、最近でこそ影響力が薄まってきたとはいえ、シアトルの不動産市況は歴史的にボーイング社の業績に左右されると言われてきました。それは上掲のシアトル大都市圏の従業員数トップ10からもおわかりになるかと思います。マイクロソフトやアマゾンのエンジニアを含めたIT関連従業員数は、ボーイング社の従業員数とは未だに比べものにならないほど小さな数字なのです。
ボーイング社はもともと民間航空機向け中心でしたが、1997年にロサンゼルスの南にあるロングビーチをベースにしたマクダネルダグラス社(本社:ミズーリ州)を吸収合併。その後、軍需向けにリソースを事業拡大するため2001年に本社をシカゴに移転させていますが、主力工場のいくつかがロングビーチやシアトルに所在しています。そして、ソ連崩壊後は大規模なレイオフを何度も繰り返してきました(1995年、1998年、2001年、2009年、2013年以降毎年)。
こうしたボーイング社従業員数の推移を参考に、ある不動産市場調査会社が行った調査では、アパート稼働率の過去推移に対して、ボーイング社の現地雇用者数および全シアトル都市圏での雇用者数の推移に明らかな相関関係が見られたのです(前者が66%に対して後者は69%)。つまり、ボーイング社の雇用者数はシアトル都市圏での雇用者数の推移とほぼ同じ動きをしており、不動産市況に与える影響が極めて大きいことが数値上証明されているわけです。
前回のシリコンバレー巨大企業群の時価総額(企業価値)に続き、今回のシアトル大都市圏地元企業による雇用者数規模・時価総額(企業価値)でも不動産価格との相関がおわかりいただけたかと思います。
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