シリコンバレーの著名人が居を構えるパロアルト
パロアルトは、故ステーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグ、グーグル創業者たちなどの巨大IT企業エクゼクティブやスタンフォード大学関係者、弁護士のようなプロフェッショナル、金融関係者、ITエンジニアが多く住む街です。
また、I-280号線に向かう、メンロパーク市との境界を走るサンドヒルロード沿いには、セコイアキャピタル、KPCBなどの有力なベンチャーキャピタル(VC)が軒を連ねる金融街でもあります。
パロアルト市は、東はフリーモントから西はサンマテオに至る、東京都と神奈川県を合わせた程度の広さを持つシリコンバレーのど真ん中に位置し、巨大IT企業からスタートアップまでが数多く集積する世界有数のユニークな生態系をもつ都市と言えましょう。
この地域では、アジア系を中心とした移民(人口の30%超)を取り込むダイバーシティ(多様性)と、それをよしとするリベラル(穏健)な考え方が浸透しており、年率2桁の経済成長を達成しています。
ちなみに、以下に世界上場会社時価総額トップ5社を以下に並べてみました。すべてIT企業で住宅価格の上昇が著しいサンフランシスコ(SF)ベイとシアトルに本社を置く企業となっています。
パロアルトの住宅価格が高騰している背景とは
では、パロアルト市の戸建て住宅価格の、過去5年間の中間価格の推移を見てみましょう。
具体的な伸び率は以下の通りです。
過去5年強で住宅価格は2倍に跳ね上がり、また自己資金での投資前提でIRRベースでは15%超を達成するなど、住宅価格の値上がりでは全米でも指折りの地域です。もし、住宅ローンを利用すれば自己資金が5年で4〜6倍にもなる地域でもあります。
そもそもカリフォルニア州自体、またSFベイエリア、さらにパロアルト市自体が自然環境保全には非常に保守的で、新規開発を寄せ付けないコミュニティであるがゆえに供給量が限定されている一方、経済成長著しいシリコンバレーの中心地であることから、常に人気と需要の高い都市となっています。
ご参考までに、以下にシリコンバレーの雇用状況を全米と対比した図表をご紹介します。毎月第1週の金曜日に前月分の雇用統計が発表されるのは皆様もご存じだと思いますが、その内訳が1カ月遅れで発表されます。それらをまとめたのが以下の図表ですが、シリコンバレーが全米数値を常に上回っていることがおわかりになると思います。
下記グラフは、過去5年間のシリコンバレーにおけるIT関係雇用数の推移を表したものです。生活コストが全米比で極めて高いのにも関わらず、IT関係雇用数が上昇傾向にあることは特筆すべきことでしょう。IT関係雇用数は全体の雇用数に占める割合が少ないのですが、一つの目安になるかと思われます。
一方、米国の国勢調査によれば、2011〜2016年のサンノゼ大都市圏における住宅新築許認可件数は38,385戸です。ここからは、同期間の非農業部門雇用増加数205,900人に比して住宅が足りていない(戸当り5.36人)ことがおわかりになるかと思います。
比較的許認可が取りやすいテキサス州のダラス都市圏では、同期間の新築許認可件数318,982戸に対して、非農業部門雇用増加数は612,500人となっています。ダラスでは許認可戸あたり1.92人と、十分に供給が足りていると言えましょう。
新たに生まれるグローバル企業を支える不動産市場
カリフォルニア州では30年築以上の古い住宅が当たり前で、需要不足に悩む日本では考えられない環境であり、20年超の建物は価値がなくなると言われる日本とは真逆な状況と言えましょう。
こういう状況をお話すると「米国不動産はバブルだね」と言う日本人の方々は多いのですが、日本では失われた20年に加え、アベノミクスの量的金融緩和で1ドル10円以上円安誘導されて日本のものが安くなっているにもかかわらず、そのこと自体を忘れて米国の物価(値段)が高いと言っているということなのでしょう。
筆者の生活実感としては、物価は東京の2〜5倍であり、購買平価的には1ドル50円以下の円高がちょうどよい具合であることを考えると、現在の日本は極めて歪で、経済成長(という裏付け)なしには不動産価値は維持できないと考えざるを得ません。
その裏付けとして、巨大IT企業が過去5年間どのくらい成長したかを見てみます。わかりやすくするために、パロアルト周辺にルーツのあるアップル、グーグル、フェイスブックの3社の営業キャッシュフロー(いわゆるEBITDA〈デットサービス前償却前営業キャッシュフロー〉)・企業価値等がどのくらい成長したかを見てみます。下記は3社合計の数値です。
これらの企業収益の伸び率は、不動産価格の伸び率を上回っていることがわかります。企業収益が従業員の給与を押し上げ(ちなみにグーグルの新卒社員は年収10万ドル、中堅は20万ドル+億円価値のオプション)、株価上昇に伴うオプション実行による住宅購入から、企業城下町周辺の地価を押し上げたことが明確に伝わってきます。
ただし、ここ数年、特に2017年からのIT株価の大幅上昇を反映した企業価値(=時価総額+ネットデット)は企業収益上昇以上の値上がりを見せています。
具体的には、EBITDA倍率(2015年までは12倍程度だったのが2016〜2017年は16〜17倍と楽観的)から言って、人工知能・自動運転等の夢は見ることができるもののやや行き過ぎの感は否定できませんが、この地域の過去5年間は、株価>経済成長>不動産価値の順で上昇率が高くなっています。
最後に、投資対象としての不動産の優位性は、場所さえ間違わなければそこで活躍するプレーヤーが変わっても価値は維持できるという点です。
かつては、HP、インテル、シスコシステムズ、サンマイクロ、ヤフー等がシリコンバレーで生まれ、現在は主役がアップル、グーグル、フェイスブックの3社に交代しています。将来的にはウーバー、エアビーアンドビー、テスラ等に変わっていくのかもしれませんが、この地域の不動産は常にそれらのプレーヤーを支える存在となっているのです。
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