2. 高配当株の日本郵船。配当落ち後の株価に対する警戒感が強まったか

金融セクターに対する不安が一巡すると日本全体の株価は次第に回復に転じていきましたが、日本郵船はその後も冴えない値動きが続きました。

その理由の一つとして、3月末にかけて配当落ち後の株価下落リスクに対する警戒感が高まったことが背景にあると考えられます。

日本郵船は配当利回りが2023年2月28日時点で14.7%※と高いのが特徴です(※2023年2月28日の終値と2022年度の配当額より算出)。

配当落ちとは配当相当分だけ株価に下落圧力がかかるもので、一般的には配当利回りが高いと配当落後に株価が下落するリスクが想定されます。

そのため、高配当株は配当落ち前後の株価に対する警戒感が高まりやすい傾向にあります。この影響で日本郵船は他の株よりも株価の回復が鈍かったと考えられます。

3. 日本郵船の株価は通期決算や業績見通しも重しか

2023年5月には日本郵船の2023年3月期決算が発表されました。

日本郵船株式会社「2023年3月期 通期決算説明会」によれば、通期で見ると売上高で前期比3352億円の増収となる2兆6160億円、当期純利益でも同34億円増益の1兆125億円となるなど、順調な決算となりました。

しかし、四半期別で見ると、第4四半期は経常利益が1038億円と、前期の第4四半期の3048億円から大幅に減益となるなど、業績の減速感が出ています。

セグメント別で見ると、定期船の経常利益の減少が前年の第4四半期の2297億円から625億円へ急減しています。

この一因として、同社と商船三井、川崎汽船の合弁で運営されるONE社の持分に伴う収入が減少した影響と見られます。なお同資料によるONE社の決算説明によると、輸送需要の急減と短期的な運賃の下落が、業績悪化の主因となっています。

また、日本郵船は同時に2024年3月期の業績見通しも出していますが、こちらも売上高で前年比3160億円減収の2兆3000億円など、減収減益となる見通しに。コンテナの運賃下落などを主因に慎重な見通しを示しています。

こうした足元の業績の減速感や慎重な見通しは5月以降の日本郵船の株の下押し圧力となったと考えられ、年初来の安値圏からなかなか抜け出せない状況が続いていると思われるでしょう。

4. 日本郵船の株価のリスク

日本郵船の株価に対するリスクについては同社Webサイトの「リスク情報」を参考に考えてみましょう。株価に影響を与えうるリスク要因としては、例えば次の点に留意が必要です。

  • 重要な事故等による影響
  • 自然災害や伝染病などのリスク
  • 市況変動や資産価値の変動リスク

世界中に船舶を運行する日本郵船では、船舶の重大事故やテロ、犯罪による被害などが業績に大きな影響を与えるリスクがあります。

船舶の毀損や運搬荷物の破損・汚損による賠償、燃料を漏えいさせることによる環境破壊への負担などが業績悪化要因となり、株価の下落を引き起こす恐れがあります。

また、自然災害や伝染病の蔓延などもリスク要因に。新型コロナで経済活動が止まったために輸送需要が減ったり、その後は需要急回復に伴い船賃が急騰するなどの動きが見られました。同様に世界的な疾病や伝染病の蔓延などが業績に大きな影響をもたらす可能性があるでしょう。

また、地震や津波、台風などの自然災害が船舶や輸送網への被害をもたらし、業績変動をもたらすリスクもあります。

日本郵船はさまざまな市況変動の影響を受けます。例えば原油など資源価格の変動は同社の船舶を航行させるコストに影響します。

さらに、船賃も市況変動の影響を受けやすく下落すれば収益悪化要因になります。最後に、海運では多数の船舶などの固定資産を所有しています。資産価値が変動して船舶の価値が減少すれば、減損の発生要因となる場合があります。