米連邦公開市場委員会(FOMC)でバランスシート(BS)の縮小開始が決定されました。マーケットでは、日米の金融政策の方向性の違いから円安が進むのではないかとの見方も出ているようです。そこで今回は、米金融政策を推進力に円安が進むのかどうかを中心にドル円の行方を探ってみたいと思います。

利上げ観測は強まったが・・・

FOMCの結果を受けて、ドル円相場は円安方向に動きました。FOMCメンバーが適切と考える金利目標を示す“ドット・チャート”で16人中12人が年内の利上げを支持したことで、追加利上げ観測が強まったとの見方が背景となっています。

とはいえ、ドット・チャートそのものの見通しでは、利上げ見通しは後退しています。前回6月のFOMCでは、年内は金利据え置きとの予想が4人、1回の利上げが8人、2回の利上げが4人でした。今回は据え置きが人名、1回が11人、2回が1人となっています。従来と比べ、2回としていた委員が減っているだけで、その他に変化は見られません。

より具体的な数字で確認すると、年末の金利見通しの加重平均値は9月が1.328%と6月の1.375%から低下しています。同様に、2018年末の金利見通しが6月の2.227%から9月は2.039%へと低下しているほか、最終的に何%まで引き上げるのかを示唆する長期見通しも6月の3.0%から9月は2.8%に低下しています。

長期見通しは2015年6月の3.75%から断続的な引き下げに歯止めがかからない状況となっています。サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は22日、「長期見通しは2.5%まで低下するのではないか」との見解を示していますので、まだ下げ余地がありそうです。

BS縮小の金融引き締め効果を過大評価?

BS縮小は10月から毎月100億ドルで開始され、3カ月ごとに100億ドルずつ、来年10月に500億ドルに達するまで引き上げられる予定です。

ところで、バーナンキFRB前議長は2011年3月の議会証言で「1500億ドルから2500億ドルの資産買い入れは0.25%の利下げに相当する」との試算を紹介しています。

来年12月までの累計は4500億ドルですので、前議長の試算を逆に当てはめると2回から3回分の利上げに相当することになります。さらに、2019年は通年で6000億ドル縮小することになりますので、影響が試算通りであるならば、かなり早いペースで金融が引き締まることをうかがわせます。

ただし、資産の購入と残高の縮小では効果が同じとは限りません。ニューヨーク連銀が今年4月に公表した試算によると、BS縮小による長期金利の押し上げ効果は年間で0.2%以下と推計されていますので、こちらの計算ではBS縮小による金融引き締め効果はかなり限定的となります。

バーナンキ前議長の試算が1人歩きをしている恐れもありますので、BS縮小の影響が実際に確認できる段階になるまでは予断を持たないことが肝要となりそうです。

「金融政策の方向性の違いで円安進行」の落とし穴

FRBがBS縮小を開始した一方で、日銀は出口政策を封印したままとなっていることを踏まえ、日米金融政策の方向性の違いにより円安が進むとの声も聞かれています。

ただ、FRBは昨年12月から今年6月までに3回の利上げを実施していますが、この間のドル円相場は円高に振れています。

ところで、為替レートの決定理論に金利平価説があります。ざっくり言うと、高金利通貨は下落するということです。たとえば、ドルの金利が円よりも2%高い場合、現在1ドル=102円であれば、1年後にドルの価値は100円に下がると考えます。

金利が高いのに通貨価値が下がることに違和感があるかもしれませんが、金利差はおおむねインフレ格差に等しくなりますので、“高インフレ通貨は下落する”と言い換えると理解しやすいかもしれません。

ここで、先ほどの例に戻り、ドルと円の金利差が2%から3%に拡大したとします。この場合、現在の為替レートが102円から103円となり、1年後に100円になるように調整されると考えると、米金利が上昇してもなぜ結果的に円高になっているのかをうまく説明できそうです。

このように考えると、FRBが利上げするとドル円相場は一時的に円安方向に振れますが、時間の経過とともに円がジリ高になることが想定されるからです。

また、国際通貨基金(IMF)は2017年の購買力平価を1ドル=100.78円と推計していますので、中長期的にドル円は100円の方向に収れんしていく可能性も否めないでしょう。

こうした状況を踏まえると、米利上げでいったんは円安に振れたとしても、その後は円高に押し戻されることも想定内となりそうです。年初からの円高にはこの影響が反映されているのかもしれません。

低インフレは“ミステリー”、景気拡大なら懸念ぜず?

今回のFOMCでの最大のサプライズは、イエレン議長が「インフレの鈍化はミステリー(謎)」と発言したことではないでしょうか。

FRBの9月景気見通しでは、インフレ見通しが低下した一方で、GDP成長率が上方修正されています。成長が加速する中でなぜ物価の伸びが鈍化しているのか、FRBにはその理由が分からないことを正直に認めたわけです。

その一方で、景気の拡大が続いていることから、緩やかな利上げは正当化されるともしており、利上げ継続の判断が物価から景気拡大にシフトしたことを匂わせています。

そもそもマーケットが年内の利上げ見送りを想定していたのは物価が低すぎるからでした。しかし、低インフレは“謎”と言われてしまっては、もはや利上げ見送りの理由とはならないのかもしれませんので、このサプライズが円安を招いた可能性もありそうです。

米利上げの判断、インフレから景気にシフト?

9月FOMCではドット・チャートでの利上げ見通しが後退しましたが、市場が予想したほどにはハト派とならなかったことからドル円は円安に向かいました。

ただし、FRBが昨年12月から断続的に利上げをしてきた中で、この間のドル円相場は円高に振れています。米利上げが必ずしも円安に結び付いていないことから、金融政策の方向性の違いを背景とした円安見通しには慎重さが求められるのかもしれません。

BS縮小も決定されましたが、マーケットはその金融引き締め効果を過大評価している恐れがあり、今後の推移を注意深く見守る必要がありそうです。

イエレン議長は低インフレはミステリーと開き直りとも受け取れる発言をしていますので、利上げ判断の軸足が物価から景気見通しへとシフトする公算もありそうです。

LIMO編集部