投信1編集部による本記事の注目点

  •  トヨタ自動車は、エコカーに不可欠な蓄電池や燃料電池(FC)はもちろん、最近では太陽電池(PV)の活用も積極的に検討しています。
  •  現在、世界中で開発が加速する自動運転車両は、センサー、通信機器など多くの電子機器を搭載するのでバッテリーに大きな負荷がかります。そのため、車載PVはバックアップ電源としての期待が高まっています。
  •  世界のPV市場は、これまで普及を牽引してきたFIT(固定価格買取制度)から脱却し、自分で発電した電力は自分で使うという「自家消費型」に大きく舵を切り始めています。

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トヨタ自動車(以下、トヨタ)が次世代エネルギー技術の開発に力を入れている。エコカーに不可欠な蓄電池や燃料電池(FC)はもちろん、最近では、太陽電池(PV)の活用も積極的に検討している。

各国がガソリンエンジンの販売禁止政策を打ち出すなか、自動車メーカーは電気自動車(EV)への転換を迫られている。トヨタも市場投入済みの燃料電池車(FCV)に加えて、19年には中国でEVを生産する計画を新たに打ち出している。

新型プリウスPHV(写真提供:電子デバイス産業新聞、以下同)


EV自体は排気ガスを出さないが、「Well to Wheels」の視点で考えると、自然エネルギーの活用は不可欠だ。そうした背景もあって、トヨタグループでは、色素増感太陽電池(DSC)、CZTS、ペロブスカイト太陽電池(PSC)などの次世代PV技術、さらには人工光合成といった再生可能エネルギーの技術開発に力を入れている。

車の電動化、自動運転、そして自然エネルギーの活用など、来るべき自動車産業のパラダイムシフトに、業界の覇者トヨタはどう向き合っていくのだろうか。

ガソリン車はもう走れない?

近年、各国政府が相次ぎガソリン車の終焉を宣言している。フランスが2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を終了する方針を発表したかと思えば、英国も同じ40年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を全面的に廃止するとぶち上げた。その他の欧州各国も似たような政策を検討しているという。

もちろん、今すぐガソリン車が消えてなくなるわけではない。あと20年の間にこの世に別れを告げるのであれば、心置きなく排ガスをまき散らしてガソリン車を満喫すればいい。各国の方針も政権交代などで180度転換する可能性もないとは言えない。ただ、客観的に考えれば、やはりエコカーへのシフトは避けて通れそうにない。

欧州では長年、燃費性能に優れるディーゼル車が重宝されてきたが、VWの排ガス不正問題ですっかり評判を落としてしまった。そこで、エコカーの期待の星として浮上してきたのがEVである。EVは航続距離、充電時間、電池寿命などの課題が多く、本格普及は難しいと思われていたが、とにかく、今は救世主の筆頭候補に祭り上げられている。

トヨタが長年取り組んできたガソリンハイブリッドは、もはやエコカーの範疇には入らないらしい。外部からの充電が可能なプラグインハイブリッドも微妙な立ち位置だ。排ガスゼロとなると、EVかFCVしか残らないが、FCVは技術ハードルが高く、限られたメーカーしか製造できない。

トヨタは世界に先がけFCVを市場投入し、特許を無償公開するなど、FCVの普及拡大を後押ししているが、お世辞にも追い風が吹いているようには見えない。

各国がEV化を推進する背景には、二酸化炭素排出削減による地球温暖化の抑制、というパリ協定の達成目標がある。

ちなみに、環境省がまとめた「2015年度温室効果ガス排出量(速報値)」によると、15年度における我が国の温室効果ガス排出量は13億2100万t(前年比3%減)だった。このうち、二酸化炭素排出量におけるエネルギー起源の内訳を見ると、産業部門が全体の3割強を占めており、以下、業務その他(商業・事業所)が20%、運輸が17%、家庭が15%となっている。EVへのシフトで運輸部門の二酸化炭素排出削減が期待されている。

Tesla「Model X」


EVは、90年代のカリフォルニア州におけるZEV規制で一躍脚光を浴びた。自動車メーカー各社はこぞってEVを投入したが、さほど普及が進まなかった経緯がある。ところが、00年代後半から、Tesla、三菱、日産が相次ぎEVの販売を開始し、今では欧州や中国のメーカーもEV開発に邁進している。ちなみに、16年の時点で世界のEV(PHV含む)販売台数は200万台に達している。

チョイ乗りEVは無視できない

ところで、地球温暖化は本当に進んでいるのか、果たして二酸化炭素が原因なのか、といった疑問の声は今でもある。これは世界の指導者の総意だと言われればそれまでだが、歴史を紐解くまでもなく、彼らの判断が正しい保証はどこにもない。

筆者は科学者ではないので、真偽についてはコメントできないが、少なくとも、地球温暖化問題の周辺には、排出権売買のようなきな臭いビジネスの匂いが漂っているのも事実である。

それはさておき、地球温暖化の実態がどうであれ、脱ガソリン車の流れが逆走することはないだろう。環境問題は無関係ではないが、自動車の電動化の本質は産業構造の変化、ゲームチェンジと捉えたほうが良さそうだ。電動化、IT化(コネクテッドカー)された車は、イメージとしては走るスマホのようなものだ。充電もスマホ感覚である。

内燃機関がなくなれば、車はずっと簡素になる。電池とモーターがあれば、誰でもEVを作ることができる、というのはさすがに言い過ぎだが、モジュール部品を組み合わせることで完成品ができあがる姿は、スマホビジネスに共通するところがある。

内燃機関という最大の参入障壁がなくなることで、異業種や新興国のプレーヤーも自動車メーカーに成り上がるチャンスが出てきた。もちろん、トヨタのようなトップメーカーのアドバンテージは大きいが、安かろう悪かろうとバカにできないのが今日の製造業の怖さである。そうやって、日本は半導体も液晶も太陽電池も負け続けてきた。

そもそもEVに過剰な性能や装備は必要ないだろう。「Fun to Drive」を否定する気はないが、レースカーのような走行性能、走る応接間のような豪華さは誰も求めていない。チョイ乗りEVで十分というニーズを軽視するべきではない。

EVでは、通信も走行も電気が必要だが、その電気をどうやって作り、貯蔵・充電するかが大きな技術課題となっている。トヨタグループでは、PVや人工光合成など、自然エネルギーを活用したデバイスを開発することで、こうした課題の解決を目指している。

次世代PVの研究に注力

まずは、トヨタグループが取り組むPVの研究開発の動向を見てみる。PVはグループ企業のアイシン精機、豊田中央研究所がDSC、CZTS、PSC、さらには新コンセプトPVの研究開発に取り組んでいる。

DSCでは、豊田中央研究所は材料の基礎解析とセルの作製、アイシン精機はセル&モジュールの作製からシステム構築までを担当。これまでに、モノリシック型DSCとLED&蓄電池を組み合わせた「葉っぱユニット」、DSCで発電した電気を携帯電話に充電できる「シースルー携帯電話スタンド」などの応用製品を試作しており、日本各地で実証試験を行うなど、実用化に向けた研究を進めている。

さらに、アイシン精機はNEDOの「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発プロジェクト(15~19年度)」に参画し、ガラス系透明基板、p型無機半導体、p型金属錯体半導体など、PSCの高効率&低コスト技術の開発に取り組んでおり、これまでに、新規p型半導体(ブロッキング層)やモジュールの新工法を開発している。

ブロッキング層の工法では、新たに溶液型精密スプレー法を開発した。プリカーサを「精密スプレー装置」で成膜したブロッキング層は、ALDで作製したものに匹敵する性能を実現している。また、大面積モジュールの均一塗布を実現するため、印刷法やスプレー法を検討しており、これまでに100×100mmの9直列モジュールを試作している。

銅、亜鉛、スズ、硫黄を原料とするCZTSは、バンドギャップが1.4eVの安定な化合物で、希少金属を使用しない、毒性がない、といった多くの利点がある。一方、成膜後の構造制御は難しく、CIGSのような傾斜構造ができないため、最適組成の幅が狭いといった課題がある。CZTSe系では、12年にIBMが12.6%の最高効率を報告している。

豊田中央研究所は08年にCZTSで6.8%の効率を報告したが、これまでに2層構造のCZTSで9.4%を実現している。CZTS内のバルク再結合が性能低下の要因になるため、効率向上に向けてCZTSの膜質向上に取り組んでいる。

一方、銅、スズ、ゲルマニウム、硫黄を構成元素とするCTGSは、バンドギャップが1.0eVで、高い光吸収係数、非毒性・非希少元素の材料として注目されている。Ge/Sn比の制御でバンドギャップの調整が可能だが、豊田中央研究所は、Ge/Sn比に傾斜をつけるため、Ge含有量の調整を行う2段階成膜法を開発した。試作したセルは、Ge/Sn比が表面では低く、Mo電極側で高い傾斜構造を有することでキャリア収集効率が向上し、CTGSでは最高効率となる6.7%を実現した。

太陽光励起レーザーと受光素子を組み合わせた新しい発電デバイスやアップコンバージョン(UC)型といった新コンセプトPVも提案している。

レーザーを応用した新規PVシステムのイメージ

レーザー応用のPVは、太陽光をレーザー(発振波長約 1.06μm)に変換し、これを結晶SiPVに照射して発電するというシステムである。太陽光励起レーザーアレイで受光し、ファイバーを経由してレーザー光をPVに照射するため、PVを屋外に置く必要がないという利点がある。

PVの膜厚はわずか50μmだが、光閉じ込め構造を適用することで、入射光に対して0.8~0.9という高い量子効率を得ており、20W/cm²のレーザー照射強度で変換効率30%を達成している。

一体型デバイスを用いた人工光合成のイメージ

UCは、既存のデバイス構造との組み合わせが可能で、結晶Siには、波長1.55μm帯光を0.98μmに変換するエルビウム(Er)イオンを用いたアップコンバーターが使用される。ただ、Erイオンは吸収帯域が狭いため、1.1~1.45μmの光を吸収し、そのエネルギーをErイオンに移動する増感材が必要になる。

母材のLa(Ga、Sc)3、CaTiO3などに、発光中心となるErイオン、増感材のNiイオンを共添加することで、広帯域応答UC発光を実現している。

人工光合成で有用化学品生成

人工光合成もトヨタグループの重要な研究テーマの1つだ。豊田中央研究所が人工光合成による有用化学品の生成に取り組んでいる。

人工光合成は化学的に水を分解して水素を生成するプロセスで、太陽光エネルギーを水素もしくは炭化水素に化学変換すると同時に、それを貯蔵することができる。大きくはPV電力を利用する方法と、光触媒(電極)を利用する方法があるが、植物と同様に、工業的にも水を電子源として利用することが重要となる。

水を酸化して酸素を生成する光アノードは酸化物や窒化物、水を還元して水素を生成する光カソードでは、酸化物、SiCなどの材料開発が進んでいる。コスト的には粉末酸化物光触媒が理想的だ。

光触媒のバンドギャップが水素発生電位と酸素発生電位を挟むバンド構造を持つ場合は、1段階光励起で水を水素と酸素に分解することができる。また、水素発生用と酸素発生用の2種類の光触媒を組み合わせて水を分解する2段階光励起(Zスキーム型)もある。

最終的には二酸化炭素を還元してメタノールを合成したいが、6電子還元のメタノールは合成が難しい。そこで、まずは2電子還元のギ酸(HCOOH)の生成に取り組む研究が多い。

豊田中央研究所は11年9月、水と二酸化炭素のみで有機物を合成する人工光合成を世界で初めて実証した。紫外光を吸収した酸化チタン/白金電極で水を酸化し、可視光を吸収したZnドープのInP/Ru錯体のハイブリッド光電極で二酸化炭素をギ酸に還元することに成功した。

この時の太陽光変換効率は0.04%だったが、13年には、水酸化反応にSrTiO3光電極、二酸化炭素還元反応にInP/Ru錯体ハイブリッド光電極を組み合わせたセルを採用したことで、効率は0.14%まで向上した。

SrTiO3光電極はギ酸を光分解しないため、1室セルが可能で、1室セルでも0.08%の変換効率でギ酸を生成することに成功している。

さらに、15年末には、水の酸化と二酸化炭素の還元を1つの素子で行う一体型デバイス(板状素子)も開発した。一体型デバイスはSi系3接合半導体電極とIn酸化物触媒を組み合わせている。光励起移動電子移動を確保するため、触媒と電位マッチングのとれたa-SiGe系半導体を用いており、酸化と還元の機能を一体化したことで電線が不要になった。

二酸化炭素が溶け込んだ水の中にデバイスを入れ、太陽光を照射するだけで人工光合成が可能になった。反応過程で若干の水素が発生するが、高いギ酸選択性があり、太陽光変換効率は4.6%を達成した。今後はメタノールなど有用化学品の生成に注力するという。

ついに車にPVが……