政府の「働き方改革」によって、日本の職場環境が大きく変わりつつあります。
政府は働き方改革のひとつとして「残業」の改正を進めており、現時点で「残業時間の上限の規制」や「月60時間超の残業に対する割増賃金率の引上げ」などの改正を実施しています。
このように政府は、働き方改革に向けて着実に政策を進めていますが、実際のところ現状どのくらいの影響・効果が出ているのでしょうか。
本記事では、実際の調査データをもとに「残業」に関する実態を解説していきます。
働き方改革によって、「残業」の何が変わったのかもあわせて見ていきましょう。
84%が「残業の有無や平均時間」等を重視して転職活動をすると回答
エン・ジャパン株式会社では、約1万人のユーザーを対象に「残業」に関する調査を実施しています。
調査概要は下記のとおりです。
- 調査方法:インターネットによるアンケート
- 調査対象:『エン転職』を利用するユーザー
- 調査期間:2023年2月22日~3月28日
- 有効回答数:1万2940名
- リリース公開日:2023年5月8日
上記調査の結果、約8割の人が「残業の有無や平均時間等が転職活動における企業選びに影響する」と回答しています。
上記調査を男女別にみると、「とても影響する」と回答した男性が44%、女性は54%となっており10ポイントの差がありました。
転職するにあたって、とくに女性のほうが残業の有無や平均時間を意識して企業選びをしていることが見て取れます。
女性の場合は育児や家事を両立している人も多く、企業選びの時点で「残業の有無や平均時間」を重視していると考えられます。
働き方改革によって残業の増減は変わった?
「働き方改革」により、時間外労働の上限規制が設けられるようになりました。
具体的には、働き方改革による改正前までは、法律上の残業時間の上限はありませんでしたが、改正後は上限が設けられ、原則月45時間・年360時間以上の残業はできなくなりました。
上記の改正により、特別な事情がない限りは上限を超えて残業をすることができず、特別な事情によって残業をする場合でも、下記の条件が設けられています。
- 年720時間以内
- 複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
- 月100時間未満(休日労働を含む)
上記に違反した場合は、罰則として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるケースもあります。
このように、働き方改革によって原則として月45時間、つまり1日2時間程度の残業の上限が設けられましたが、果たして実際は残業時間に増減の影響はあったのでしょうか。
エン・ジャパン株式会社の「自社の残業時間の増減」に関する調査によると、半数は「変わらない」と回答しています。
また減少傾向は24%、増加傾向は26%となり、働き方改革による、残業時間の影響は現状あまりないことがうかがえます。
エン・ジャパン株式会社の同調査による「業種別の残業時間の増減」では、残業時間が増加傾向だった職種として、「コンサルティング・士業」が最多で、次いで「商社」「サービス(飲食・教育・福祉など)」「マスコミ・広告・デザイン」が挙げられました。
一方で、残業時間が減少傾向だった業種は「メーカー(機械・電気・電子など)」が最多で、次いで「メーカー(素材・食品・医薬品・アパレルなど)」、「運輸・交通・物流・倉庫」という結果になりました。
業種によって、残業時間の増減傾向に差は出ましたが、どの業種も半数が「変わらない」と回答していることから、業種別に見ても働き方改革の改正による明確な残業時間の効果はあまり見られません。
約6割は「月60時間を超える割増賃金引き上げ」を知らないと回答
働き方改革により「残業時間の上限の規制」以外にも、「月60時間超の残業割増賃金率」の改正も行われました。
具体的には、2023年4月1日より中小企業の割増賃金率が50%に引き上げられています。
以前までは、月60時間超の残業割増賃金率が大企業は50%、中小企業は25%でしたが、この春から中小企業も50%に引き上げとなった形です。
とはいえ、2023年4月1日から施行されたばかりのため、改正を認知していない人も一定数いるようです。
実際に、エン・ジャパン株式会社の調査では、約6割の人が「月60時間を超える残業代の割増率が50%に引き上げ」について知らないと回答しています。
前章で紹介した調査において、残業時間に変化がない人が多いことや減少傾向よりも増加傾向である人が多いことから、月60時間超の残業をしている人も一定数いると考えられます。
今後の政府の政策においては、働き方改革を進めるとともに、当事者である労働者に改正内容が認知されるための発信も必要になるのではないでしょうか。
働き方改革による効果は現状みられず…今後政府に期待することは
日本では、政府の働き方改革により「残業時間の上限の規制」や「月60時間超の残業に対する割増賃金率の引上げ」が実施されるようになりました。
しかし現状は、残業時間の削減につながっておらず、依然として「残業時間が変わらない」「残業時間が増加傾向にある」人が多いようです。
また、改正内容について認知していない人も多く、約6割の人は「月60時間超の残業に対する割増賃金率の引上げ」について知らないと回答しています。
上記のことから、今後の政府の働き方改革においては、より実用的な残業時間削減の政策を進めるとともに、政策案や改正内容が働く当事者に認知されるような発信が大切になるでしょう。
参考資料
太田 彩子