80日間世界一周フライトに挑戦するホンダジェット
ホンダジェットの販売が好調です。約30年前に開発が開始された同機は2003年に初飛行に成功し、2015年に米連邦航空局(FAA)から型式証明を取得して商用機としての販売を開始しました。そして、2017年1-6月期には競合のセスナを抜いて超小型機のセグメントで最多数の顧客引渡しを達成しています。
さらに、ホンダジェットの好調さを加速する可能性がある動きとして注目されるのが、8月4日から行われている80日間で世界一周(世界26か国)を目指すプロジェクトです。
このプロジェクトを実行しているのはホテル業を営むジュリアン・マックイーン氏らです。同氏が購入したホンダジェットで米フロリダ州を飛び立ち、大西洋を横断して南ヨーロッパ、中東、インド、オーストラリア、東南アジア、日本を経由し10月中旬に米国に戻る予定とされています。
現時点ではまだフライト途中ですが、このプロジェクトが成功すれば、ホンダジェットにとって初めての世界一周フライトということになり、同機の性能とポテンシャルに一段と注目が集まり、今後の受注に弾みがつくことが期待されます。
苦戦が伝えられるMRJ
こうした明るい話題とは対照的に、苦戦ばかり伝えられているのがMRJです。8月22日には、米オレゴン州ポートランドで試験飛行中にエンジントラブルが発生したと報じられています。
ちなみに、その後のインタビュー記事でMRJを開発製造する三菱航空機の水谷久和社長は、「影響は出ないと思っている。今のスケジュールをきちんと守るのが重要」とコメントし、今回のアクシデントにより2020年半ばに予定されている顧客への初号機納入がさらに遅れる可能性を否定しています。
とはいえ、今回のアクシデントはMRJのセールスポイントの一つである低燃費の米プラット&ホイットニー社(P&W)の新型エンジンに生じたものであるため、原因がどこにあったかが早期に解明されることを願いたいと思います。
MRJの比較対象として気にしたいのはカナダとブラジルの企業
ここで改めて注意したいのは、最近では絶好調のホンダジェット、不振のMRJと単純に比較されることが多いものの、実際にはホンダジェットも、1997年の開発開始から20年という長い年月を経て今があるということです。
MRJの発端は、2002年に経産省がまとめた小型ジェット機開発案「環境適応型高性能小型航空機」からですが、MRJの事業化を行うために三菱航空機が発足したのは2008年です。そこを起点とすれば、まだ9年目に過ぎないとも言えます。
また、ホンダジェットは乗員を含め7人乗りでカタログ価格も450万ドル(約5億円)であるのに対し、MRJは90人乗りで価格も約4,700万ドル(約52億円)と、両機には大きな違いがあります。
このため、むしろMRJが気にすべき相手というのは超小型機セグメントのホンダジェットではなく、海外の競合企業、具体的にはカナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルということになります。
航空機と鉄道を手掛けるボンバルディア
ボンバルディアはカナダに本社を置く重電コングロマリットです。2016年12月期の売上高は約1.81兆円、売上構成比は鉄道関連が約46%、ビジネス航空機が35%、商用航空機が16%となっています。なお、営業利益は2014年12月期から3期連続で赤字となっており、株価も3年前に比べて35%程度下落した水準にあります。
このように、業績や株価面では冴えないボンバルディアですが、同社が展開しているリージョナルジェット「CRJシリーズ」は、1991年の初飛行以来26年間にわたり実績を積み重ねているため、MRJとしても侮れない相手ということになります。
なお、最近の業績悪化は、同社が2008年から開発に取り組んでいるMRJよりやや大きめの「Cシリーズ」(110~130席)の開発負担が重荷となっているためで、一部では中国企業から買収される可能性も報じられています。
最大のライバルとなるエンブラエル
エンブラエルはブラジルに本社を置く航空機メーカーです。2016年12月期の売上高は約6,700億円、売上構成比は商用航空機が57%、エグゼクティブ向け航空機が28%、防衛関連が15%となっています。2016年12月期の営業利益率は2.9%で黒字を確保していますが、2013年12月期に計上した11.8%をピークに低下傾向が続いています。
株価については、ボンバルディアと同様に3年前に比べて35%程度下落した水準と、あまり芳しくありません。また、時価総額も約4,600億円とほぼボンバルディアと同水準で、三菱重工の1.4兆円の約3割程度に過ぎません。
こちらも株価や業績面ではあまりぱっとしませんが、MRJと同じ低燃費と低騒音を強みとするP&Wの新型エンジンを搭載している「E-JETシリーズ」の新モデルが、今後MRJにとっては最も警戒すべき相手となりそうです。
ちなみに、MRJと直接競合する88席のE190-E2は2021年に引き渡しが予定されています。よって、MRJは今度こそ、なんとしても2020年半ばの納入時期を守る必要があります。
まとめ
これまで三菱重工はMRJの開発に既に数千億円を投じたと報じられており、もしかしたら、そのお金を使えば海外の競合企業を買収することも可能であったかもしれません。とはいえ、M&Aだけでは日本の航空機産業を発展させたり、雇用を生み出すことはできません。
これだけの開発費を投入したからには、ぜひ最後まであきらめずに、ホンダジェットに続き「安心、安全」で「快適、高性能」な世界最高水準のジェット旅客機を作り上げてほしいと願わずにいられません。
LIMO編集部