人生100年時代と言われている今、60歳近くになると、定年した後をどのように過ごすか考える方が増えてきました。
長生きは喜ばしいことですが、その分、老後資金も多く必要になり、長生きをリスクと捉える方もいます。
しかし、不安や不足にばかり目を向けても仕方がありません。
まずは、夫婦で将来、どのくらい年金がもらえるのか確認して、老後の暮らし方を話し合いましょう。
2023年度の年金額が3年ぶりの引き上げとなり、その最初の支給日が6月に迫っています。
今回は、年金制度の基本的事項を確認してから、夫婦のケースごとに受け取る年金額を試算します。
【注目記事】4月分から「厚生年金はモデル夫婦で年5.8万円増!」では国民年金のみの夫婦は?
1. 公的年金制度の1階部分は国民年金、2階部分は厚生年金
日本の公的年金制度は、日本に住んでいる20~60歳未満のすべての人が加入している国民年金(基礎年金)と、会社員・公務員等が加入している厚生年金の2階建て構造になっています。
自営業者は国民年金のみの加入になるため、老後に受け取る年金は老齢基礎年金のみです。
厚生年金に入っている会社員・公務員は、老齢基礎年金に、報酬比例の老齢厚生年金が上乗せされた年金を受け取ります。
国民年金や厚生年金から支払われる年金には、原則、65歳から受け取る老齢年金、病気やケガで障害認定を受けた場合に受け取る障害年金、加入者が亡くなった際に遺族が受け取る遺族年金があります。
国民年金に40年(480か月)加入すると満額で受け取れる老齢基礎年金は、年間79万5000円(2023年度67歳以下の新規裁定者)、月額に換算すると6万6250円になります。
もし、加入期間が480か月よりも少ない場合は、その分が減額されます。
一方、厚生年金の支給額は、標準報酬月額(給与の平均月額)などをもとに保険料が計算され、加入期間と報酬に応じた年金額になります。
2. 夫婦の「年金月額」はいくら?共働き・扶養内パート・専業主婦での試算方法
国民年金や厚生年金の概要がわかったところで、夫婦2人分で受け取る年金を試算しますが、その前に、平均的な厚生年金月額の目安を紹介します。
2.1 厚生年金の平均年金月額
老齢厚生年金受給権者の2022(令和4)年度の平均年金月額(老齢基礎年金含む)は、14万3965円。
男女別の平均年金月額は、男性が16万3380円、女性が10万4686円となっています。
続いて、共働き・扶養内パート・専業主婦のそれぞれのケースでの年金額を、以下の計算式をもとにシミュレーションします。
2.2老齢厚生年金(報酬比例分)の計算式
3. 夫婦で受け取る年金はいくら?1:会社員(夫)と会社員(妻)の場合
- 2003(平成15)年4月以降に就職
- 夫婦ともに厚生年金保険の加入期間は38年(456か月)
※なお、20歳から2年間は国民年金に加入して、通算加入期間は40年とする。
- 老齢基礎年金は満額の年額79万5000円(2023年分)→月額:6万6250円
3.1 夫の年金
平均標準報酬額:41万円(27等級)
《年金額の計算》
- 41万円×5.481/1000×456月=102万円
- 年額約102万円を月額に換算すると約8万5000円
- 老齢基礎年金の月額6万6250円+老齢厚生年金の月額8万5000円=15万1250円
3.2 妻の年金
平均標準報酬額:24万円(19等級)
《年金額の計算》
- 24万円×5.481/1000×456月=約60万円
- 年額約60万円を月額に換算すると約5万円
- 老齢基礎年金の月額6万6250円+老齢厚生年金の月額5万円=11万6250円
→夫婦でもらえる年金:15万1250円+11万6250=26万7500円
なお、今回の計算ではスライド調整率を考慮していません。
4. 夫婦で受け取る年金はいくら?2:会社員(夫)と扶養内パート(妻)の場合
- 2003(平成15)年4月以降に就職
- 夫婦ともに厚生年金保険の加入期間は38年(456か月)
※なお、20歳から2年間は国民年金に加入して、通算加入期間は40年とする。
- 老齢基礎年金は満額の年額79万5000円(2023年分)→月額:6万6250円
4.1 夫の年金
平均標準報酬額:41万円(27等級)
《年金額の計算》
- 41万円×5.481/1000×456月=102万円
- 年額約102万円を月額に換算すると約8万5000円
- 老齢基礎年金の月額6万6250円+老齢厚生年金の月額8万5000円=15万1250円
4.2 妻の年金
平均標準報酬額:8万8000円(4等級)
《年金額の計算》
- 8万8000円×5.481/1000×456月=約22万円
- 年額約60万円を月額に換算すると約1万8000円
- 老齢基礎年金の月額6万6250円+老齢厚生年金の月額1万8000円=8万4250円
→夫婦でもらえる年金:15万1250円+8万4250=23万5500円
なお、今回の計算ではスライド調整率を考慮していません。
5. 夫婦で受け取る年金はいくら?3:会社員(夫)と専業主婦の場合
- 2003(平成15)年4月以降に就職
- 夫婦ともに厚生年金保険の加入期間は38年(456か月)
※なお、20歳から2年間は国民年金に加入して、通算加入期間は40年とする。
- 老齢基礎年金は満額の年額79万5000円(2023年分)→月額:6万6250円
5.1 夫の年金
平均標準報酬額:41万円(27等級)
《年金額の計算》
- 41万円×5.481/1000×456月=102万円
- 年額約102万円を月額に換算すると約8万5000円
- 老齢基礎年金の月額6万6250円+老齢厚生年金の月額8万5000円=15万1250円
5.2 妻の年金
専業主婦のため老齢基礎年金の月額6万6250円のみ
→夫婦でもらえる年金:15万1250円+6万6250=21万7500円
なお、今回の計算ではスライド調整率を考慮していません。
共働き・扶養内パート・専業主婦のケースでの受け取る年金をざっくりと計算したところ、約5~6万円ほどの収入の差となることが確認できます。
老後の収入の目安がわかれば、次は、老後の生活費の目安をみておいた方がよいでしょう。
総務省の家計調査報告によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の平均消費支出は平均約24万円となっています。
6. 老後資金は「年金収入ー支出額」で目安を立てる
個々のご家庭で支出はさまざまであるため、参考程度のお話になりますが、先ほどのそれぞれのケースでの収支バランスは以下のとおりになります。
- 会社員(夫)と会社員(妻)の場合:26万7500円-24万円=2万7500円
- 会社員(夫)と扶養内パート(妻)の場合:23万5500円-24万円=▲4500円
- 会社員(夫)と専業主婦の場合:21万7500円-24万円=▲2万2500円
現役時代は、共働き・扶養内パート・専業主婦と夫婦の働き方があり、それに伴う家計管理をされていたと思います。
しかし、老後に受け取る年金は、現役時代の収入のように、1.5~2倍というほどの差は生まれません。
現役時代の金銭感覚を老後に引きずると、経済面での長生きリスクを抱えてしまうことになります。
そうならないためにも、家計を年金収入枠内に収めるよう、経費のスリム化を図りましょう。
また、家の修繕や車の買い替え、将来の病気治療にかかるお金をリスト化して、現在の蓄えで、賄えるかどうかも確認しておく必要があるでしょう。
参考資料
- 厚生労働省「令和5年度の年金額改定についてお知らせします」
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要」
- 厚生労働省年金局「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「は行 報酬比例部分 」
- 全国健康保険協会「(東京都)令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
舟本 美子