筆者はむかし、フィリピンのとある島でボランティア活動をしていました。ホームステイ先は裕福ではなかったので、おかずは焼き魚や魚のスープ、卵の両面焼きが多かったように記憶しています。
そんな中、週に何回か豚肉の日がありました。「今日のごはんは豚肉かな?」となんとなく思っていたのに、魚が食卓に並べられていた時は、新鮮で美味しいものに変わりはないものの少し落胆してしまいました。
期待が大きいほど、予想通りの結果ではなかったときの落胆度合いは大きいものでしょう。それは日々の生活だけではなく、みなさんが将来受け取る公的年金にもあてはまるかもしれません。
実は、公的年金にも現役時代と同じように色々と天引きされるお金があります。額面をまるっと受け取れると期待していると、思わぬ落胆を招いてしまう可能性があります。
実際に、年金の額面と実際の振込額(手取り額)の違いにがっかりした方も少なくないようです。
そこで今回は、いまのシニア世代の「平均年金受給額」と「年金から天引きされるもの」について、厚生年金にフォーカスして確認していきたいと思います。
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1. 【厚生年金】日本の公的年金制度は「2階建て」
最初に、日本の公的年金制度について、おさらいをしておきます。
日本の公的年金は「2階建て構造」と呼ばれており、20~60歳未満の国内に住むすべての人が加入する「国民年金」と、会社員や公務員などが加入する「厚生年金」から成り立っています。
1.1 【1階部分:国民年金の対象者】
- 第1号被保険者:自営・20歳以上の学生など
- 第2号被保険者:会社員・公務員など
- 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養される配偶者
1.2 【2階部分:厚生年金の対象者】
厚生年金保険に加入している会社や官公庁などの適用事業所に一定時間勤務する70歳未満の方
国民年金の保険料は一律のため、全期間(480カ月=40年)のうち未納や免除などの納付状況によって受給額に個人差が生じます。一方、厚生年金は現役時代の収入により保険料が決定されるため、加入期間や収入によって個人差にバラツキが見られます。
では、いまのシニアはどのくらいの厚生年金をもらっているのかをくわしく見ていきましょう。
2. 【厚生年金】受給額「月15万円超(額面)」のシニアはどれくらいいるのか
厚生労働省の「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より、いまのシニア世代の厚生年金の平均年金月額について細かく確認していきましょう。
2.1 【厚生年金】男女別の平均年金月額
- 〈男性〉平均年金月額:16万3380円
- 〈女性〉平均年金月額:10万4686円
※国民年金部分を含む
平均月額の男女差は約6万円です。
先述した通り、厚生年金の場合は現役時代の年収や、厚生年金に加入して働いていた期間の長さが老後の年金額に直結します。
くわえて、女性の場合は、育児や子育て、介護などで働き方が変わることが多い傾向にあるため、受給額において大きな男女差が生じると考えられるでしょう。
とはいえ、近年、働き方の男女差は縮まりつつあります。いまの現役世代がセカンドライフを迎えるころには、男女の年金格差も小さくなっているかもしれませんね。
次に、厚生年金月額の人数を1万円刻みで確認します。
2.2 【厚生年金】男女合計の平均年金月額(1万円刻みで確認)
<全体>平均年金月額:14万3965円
- 1万円未満:9万9642人
- 1万円以上~2万円未満:2万1099人
- 2万円以上~3万円未満:5万6394人
- 3万円以上~4万円未満:10万364人
- 4万円以上~5万円未満:11万1076人
- 5万円以上~6万円未満:16万3877人
- 6万円以上~7万円未満:41万6310人
- 7万円以上~8万円未満:70万7600人
- 8万円以上~9万円未満:93万7890人
- 9万円以上~10万円未満:113万5527人
- 10万円以上~11万円未満:113万5983人
- 11万円以上~12万円未満:103万7483人
- 12万円以上~13万円未満:94万5237人
- 13万円以上~14万円未満:91万8753人
- 14万円以上~15万円未満:93万9100人
- 15万円以上~16万円未満:97万1605人
- 16万円以上~17万円未満:101万5909人
- 17万円以上~18万円未満:104万2396人
- 18万円以上~19万円未満:100万5506人
- 19万円以上~20万円未満:91万7100人
- 20万円以上~21万円未満:77万5394人
- 21万円以上~22万円未満:59万3908人
- 22万円以上~23万円未満:40万9231人
- 23万円以上~24万円未満:27万4250人
- 24万円以上~25万円未満:18万1775人
- 25万円以上~26万円未満:11万4222人
- 26万円以上~27万円未満:6万8976人
- 27万円以上~28万円未満:3万9784人
- 28万円以上~29万円未満:1万9866人
- 29万円以上~30万円未満:9372人
- 30万円以上~:1万4816人
※国民年金部分を含む
男女全体の厚生年金平均月額は14万3965円でした。平均値を超える15万円以上の年金(月額)をもらっているシニアは全体の半数以下という結果です。なかでも、女性だけでみると、約9%となりました。
3. 【厚生年金】「15万円」あれば老後は安泰なのか?
仮に毎月15万円を受け取れるとしても、いまの生活水準を考慮すれば足りないなと感じる方が多いのではないでしょうか。
将来もらえる年金額は「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で把握することができます。ここでの注意点は、「ねんきん定期便」に記載された年金額はいわゆる「額面」であること。
この額面から税金や保険料などが天引きされ、実際にもらえる金額は減ってしまいます。
4. 【厚生年金】年金から天引きされるもの
天引きされる内容は、受給開始後に毎年6月に郵送される「年金振込通知書」で確認することができます。
天引きされる金額は居住地や所得によって異なります。今回は東京都八王子市に住む女性(76歳)の例を挙げてみていきます。
4.1 【厚生年金】年金からの天引き その1「税金」
厚生年金が月額15万円の場合、年間収入は180万円です。収入が年金のみの場合は、所得税として4623円、住民税として1万6500円が天引きされます。
4.2 【厚生年金】年金からの天引き その2「介護保険料」
年金年額が18万円以上の場合、介護保険は強制的に年金から天引きされます。八王子市を例に挙げると、年金収入が180万円の方の介護保険料は年額7万9400円となります。
4.3 【厚生年金】年金からの天引き その3「健康保険料」
年金から天引きされる健康保険料は、「国民健康保険」か「後期高齢者医療制度」か、で変わります。今回の事例の女性は76歳なので、後期高齢者医療制度の保険料が天引きされます。
東京都後期高齢者医療広域連合の所得割率と均等割額を用いて計算すると、保険料は年間約4万8800円です。
5. 【厚生年金】額面15万円の場合の手取り額はいくらになるのか
天引きされる税金や保険料を合計すると、年間で約15万円。180万円-15万円=165万円。額面は15万円だとしても、毎月、税金や保険料で12万5000円が天引きされ、手取り月額は13万8000円となります。
※あくまでも概算です。また天引きされる金額は年度途中に決定するため、1年を通して同じ手取り金額になるとは限りません。
額面通り15万円もらえると思っていたら、予想外に天引きされていて落胆してしまうかもしれませんね。
6. 老齢年金の仕組みを正しく理解して老後の準備をはじめよう
今回は、老後の年金から天引きされる税金や保険料について確認しました。現役時代と同じように天引きされるお金が意外に多いなと衝撃を受けた方もいるかもしれません。
年金月額を少しでも増やすために「繰り下げ受給」という方法があります。しかし、年金額を増やしすぎた結果、天引き額が思いのほかアップして手取りがだいぶ減ってしまった、というような事態も考えられます。
年金や税金、社会保険などの制度は非常に複雑で分かりづらい部分が多いことは事実です。
とはいえ、このような公的制度を理解しておくことは将来のマネープランを考える上では必要な学習といえるでしょう。ゆとりある老後のためにいまからできることを少しずつ始めていけるといいですね。
参考資料
- 日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 被保険者のしおり」
- 厚生労働省「日本の公的年金は『2階建て』」
- 厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 東京都後期高齢者医療広域連合「保険料の算定方法」
- 八王子市「令和3年度(2021年度)から令和5年度(2023年度)の介護保険料(所得段階)」
- 日本年金機構「年金振込通知書」
田中 友梨