「年収」が考え方の柱
現役世代の方が、退職後の生活を想定し、その準備を進めるために、「額」よりも「率」を考えるべきだという点をこれまでの記事で何度か述べてきました。今回はそれらを一度まとめてみようと思います。
まずは現在の「年齢」と「年収」からスタートします。『60歳で2800万円を創り上げる積立投資』では「資産形成比率」の考え方をお話ししました。資産形成に向けて、月額2万円とか、5万円といった定額で考えるのではなく、現在の「年収」の10%とか、12%といった「率」で考えましょうという内容でした。これによって年収に応じた資産形成の金額を想定することができます。
年収 × 資産形成比率 = 資産形成額
また現在の「年収」をもとにして、会社の先輩の実績や想定される賃金カーブなどを参考に、自身の退職直前の「年収」もある程度想定できます。もちろん転職などの可能性もありますが、それでもある程度の希望や期待を前提にして転職後の年収も想定できると思います。
退職直前の年収がわかれば、次は「目標代替率※」です。この数値は人によってある程度ばらつきがあると思いますが、差し当たり『退職後の生活水準、最終年収の何割くらいが妥当?』などでまとめた68%を使ってみます。退職直前年収と目標代替率を使って退職後の年収(年間に必要な生活費)が想定できます。
※ 退職後の生活資金を「最終年収の何割」という水準で考える場合の比率(ここでは68%)。
退職直前年収 × 目標代替率 = 退職後年収
退職後年収はその後の人生でずっと必要な金額だと想定すると、
退職後年収 × 退職後の生活年数 = 退職後の必要資金額
という計算で、退職後の生活に必要となる生活費の総額が計算できます。
資産形成比率と運用収益率のバランス
この資金総額を用意できるように2つの側面から対策を取ります。1つ目は退職後の対策です。退職しても、運用を続け「使いながら運用する時代」を想定すること(詳しくは『逆算の資産準備:いまや退職後も資産運用が必要な時代に』など)、できるだけ働くこと(『「退職後も働く」は実現できるのか?』)、そして生活費の水準を少しでも下げること(『退職後は、生活水準を落とさず生活「費」水準を落とす』)に目を向けてください。この3つを使って退職時点の必要資産額が推計できます。
2つ目は現役時代の資産形成です。退職時点で必要な資産額を達成するためには、毎年の資産形成額と運用収益率が大きく影響します。一般に運用収益率を低く設定すれば、資産形成額(資産形成比率)は大きくならざるを得ませんが、その達成度は高まります。逆に資産形成額を下げたければ、運用収益率は高くせざるを得ず、その分達成の信頼度が下がることになります。資産形成比率と運用収益率(それに見合う達成可能性)を見れば自ずとバランスが見えてくるはずです。
<<これまでの記事はこちらから>>
合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史