人生95年時代のゴール設定
現在の高齢者が現役時代だった頃は「定年までに老後に資産を創り終える」のが目標でした。しかし、これから定年を迎える人たちにとって退職後の生活年数はもっと長いものを想定せざるを得ません。
現在60歳の女性はその20%が96歳まで生きると計算され、男性でも2割が91歳まで生きる時代です。男性の余命の方が少し短いのですが、退職後の生活を考えるのであれば、女性の余命を考慮して、「退職後の生活は95歳まで生きること」を想定する時代といえます。
となると、65歳まで働いても、退職後の生活年数は30年もあります。もう「退職時点をゴールにした退職後の生活資産を創り出す」という考え方はとても持ちません。そこで考えたいのが、ゴールの時点を一気に95歳に伸ばして 、その時点まで資産を持たせるという考え方です。言い方を変えると「95歳で資産0円」をゴールにする考え方です。
使いながら運用する時代を設定
退職後の生活資金を考えるには、そこから年齢を遡ってそれぞれの年齢における途中経過目標を設定することが有効だと思います。
たとえば、75歳くらいになったらもう後は働くことはもちろん、運用だってしたくないという方は、「その後の20年間は毎月、公的年金に加えて10万円ずつ使う資産が欲しい」と設定すれば、それを念頭に75歳時点で2400万円の資産が残っていれば20年間持ちます(=10万円 × 12か月 × 20年)。
さらに60歳から75歳は退職していると想定されることから資産を引き出して生活費に充てるものの、残りの資産を運用すれば、その運用の力で資産の減り方を抑えることができます。あまり無理な運用は避ける必要がありますから、ある程度資産が減ることを容認することが必要です。
たとえば、毎年残高の4%を引き出して残りを年率3%で運用できればおおよそ資産は毎年1%ずつ減っていくことになります(手数料や税金は考慮していません)。
毎年1%ずつ減らしながら75歳で2400万円残るというのは60歳時点で2800万円ほどあれば可能です。また前述の使うだけの時代も含めて60歳から95歳までの引き出し総額は4000万円を超える規模になります。退職しても運用を続けることの重要性がよくわかります。この時期を「使いながら運用する時代」と呼ぶことにしましょう。
そして最後に60歳で2800万円を創り出す資産形成へと遡って考えていきます。こうした95歳から遡って途中経過目標を作っていくことを私は「逆算の資産準備」と呼んでいます。逆算の資産準備にかかわる詳細はこれからのコラムで紹介していきます。
合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史