ステップアップ投資の実績
以前の記事『退職後は、生活水準を落とさず生活「費」水準を落とす』で、退職後の生活費水準(目標代替率)を60%に抑制した場合に必要な資金総額を想定しました。資産運用の他に、働くことや地方移住などを含めた生活費の抑制を念頭に置いて、約2800万円という水準を算出しました。
そこで今回のコラムでは、2800万円を60歳までに創り上げる考え方をまとめてみます。結論から言えば、資産0円の30歳でスタートしても、30代で月額4万円、40代で月額5万円、50代で月額6万円と年代に合わせて資産形成の金額を少しずつ増やしていく「ステップアップ投資」を実践すると、たとえば年率3%の運用であれば、60歳で2800万円に到達することができます。
資産形成比率を考える
これまで、退職後のお金との向き合い方では引き出す時に「額」ではなく「率」を重視するよう提言してきました。現役世代でも同じように「率」を考えることが大切です。と言いながら、30代で4万円、40代で5万円、50代で6万円というのは「額」の表示で、「率」になっていません。
しかし、この“年代が上がるにつれて資産形成の金額を引き上げていく”という考え方は、実際には年収に対する「率」での議論とも言えるのです。
ちょっと説明していきましょう。60歳で退職後の生活用に2800万円を用意するという考えは、退職直前年収600万円を前提にしていました。その人の30代からの年収の推移を、30代で400万円、40代で500万円、50代で600万円と想定すると、月額4万円、5万円、6万円はそれぞれほぼ年収の12%という水準になります。
この考え方は、以前『20代から資産形成を始めるべきか』でお話ししたSavings rate とか資産形成比率と呼ぶものです。12%が資産形成比率として望ましいものかどうかの判断は人それぞれですが、年収が上がれば資産形成の金額も引き上げていくという考え方は大切なものと言えます。
ちなみに、米国のフィデリティでは資産形成比率15%を推奨していますし、英国では法律で2018年から企業年金への拠出率は年収の最低8%と定められています。米英での考え方を少し取入れていくことも考えてみたいところです。
積立投資の意味
ところでこうした事例を提案すると、多くの方から「そんなに投資に回せない」といったご意見をいただきます。でもよく聞いてみると、「財形貯蓄をしている」とか「確定拠出年金の会社拠出がそれだけあるとは知らなかった」といった声も聞かれます。
いろいろかき集めてみると、意外にあとちょっとでできる水準の方もいらっしゃるのではないでしょうか。「節約をして残った資金を投資に回す」のではなく「収入から先に投資のために天引きして、そのあとの資金で生活する」という考え方が、積立投資には必要だと思います。
さて皆さんの資産形成比率はどれくらいになるでしょうか。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史