2. 繰下げ受給で年金受給額を増やすことができる

国民年金、厚生年金をいくらもらえるのか、金額については加入期間や現役時代の収入で決まりますが、もうひとつ受け取る時期をずらすことで増減させることができます。

2.1 繰下げ受給と繰上げ受給

年金は受け取る時期によって年金額が変わる仕組みになっています。

65歳から年金受給を開始することを基準にして、それよりも前に受給を始めることを繰上げ受給、65歳を過ぎてから受給を始めることを繰下げ受給といいます。

繰上げ受給は早くから年金がもらえますが、支給額は基準となる65歳からもらう場合の受給額に対して少なく、繰下げ受給は65歳から年金受給開始まで待機時間がありますが、65歳からの受給額よりも多く支給されます。

65歳の定年以降も働く環境が整ってきて、働いているうちは年金をもらわずに暮らすなど、年金をいつからもらうのかの選択肢が広がってきました。

今回は、年金受給の開始時期を後ろ倒しにする「繰下げ受給」について確認していきましょう。

2.2 繰下げ受給の増額とは

老齢基礎年金と老齢厚生年金は、65歳から受け取らずに66歳以降75歳までの間で受け取り時期を繰下げることで、増額した年金を受け取ることができます。

老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることができます。

出所:日本年金機構「年金の繰下げ受給」

繰下げ受給をした場合に増額される年金額は、老齢基礎年金の額および老齢厚生年金の額に下記の増額率を乗じることにより計算します。

「増額率(最大84%)= 0.7% × 65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数」

繰り下げた期間によって年金額が増額され、その増額率が保たれたまま一生涯年金が支給されます。

繰下げ待機を選択した場合にも、繰下げ受給を選択せず、65歳からの年金をさかのぼって受け取ることを選択することができます。

ただし、70歳以降に65歳からの年金をさかのぼって受け取ることを選択した場合は、手続き時点から5年以上前の年金は時効により受け取ることができなくなります。

この場合は請求の5年前に繰下げ受給の申出があったものとみなして、増額された年金を一括で受け取ることができます(※1)。

(※1)参照:日本年金機構 年金の繰下げ受給 繰下げ加算額「65歳からの年金をさかのぼって受け取るときの特例について(令和5年4月1日施行)」

3. 繰り下げ受給の注意点3つ

繰下げ受給には、いくつか注意点があります。

繰下げ受給による年金の加算される対象には、老齢基礎年金の振替加算額(※2)および老齢厚生年金の加給年金額(※3)は含まれません。

また繰下げ待機期間中は、加給年金額や振替加算を受け取ることができません。

65歳以降に厚生年金保険に加入していた期間がある場合や、70歳以降に厚生年金保険の適用事業所に勤務していた期間がある場合に、在職老齢年金制度により支給停止される額は増額の対象になりません。

繰下げ待機中に亡くなった場合で、遺族の方からの未支給年金の請求が可能な場合は、年金額は65歳時点の額で決定し、過去分の年金額が一括して未支給年金として支払われます。

ただし、請求した時点から5年以上前の年金は時効により受け取れなくなります。

(※2)振替加算額
加給年金対象となる配偶者が65歳になり老齢年金を受給できるようになったときに一定の基準によって加算される年金です。
(※3)加給年金
厚生年金加入期間が20年以上ある方が、65歳到達時点で、その方に生計を維持されている65歳未満の配偶者または一定の年齢以下の子がいるときに加算される年金です。