不動産投資のキャッシュフローを最大化する法人化のお話

クライアントからの相談で一番多いのは何と言っても空室対策。二番目に多いのは税金対策です。中でも法人化については多くの方が関心を持っています。

10年前は、大家さんの法人化について詳しい本はほとんどありませんでしたが、今はどの不動産投資本にも数ページを割いて解説されています。しかし、その多くが表面的な知識の羅列にとどまっていて、重要な事実が抜けてしまっているのがとても残念。

法人化とは、ただ単に会社を作って、その会社で不動産を保有すればいいって話ではないのです。

では、法人化の最大のメリットは何でしょうか?

あなたは「そんなの決まってるじゃん、節税だろ」というのではないかと思いますが、実はそこには思わぬ落とし穴も隠されているのです。

そこで、今回は、少し踏み込んだ法人化についてお話しましょう。これがわかればあなたも法人化した後に、税務署からつつかれるリスクが激減するはずです。

法人化3つの大きなメリットとは?

法人化のメリットを一言でいうと、個人に比べて経費化できる範囲が広いこと。

個人の場合、経費として認められるのは、収益を得るために「必要」であった経費。一方、法人の場合は、一定規模以上の交際費以外、業務上必要なものは全て経費になるのです。

不動産投資で儲けたからといって、経費でスポーツカーを買うために法人化するという浅はかな人はいないと思いますが、法人ならそこそこの車も経費化できちゃうのは大きなメリットでしょう。

もう少し細かく法人化のメリット見ていきましょう。

一つは個人と法人の税率の違いです。

実効ベースで、個人の最高税率は50%、法人の最高税率は約40%となっています。

個人は段階的に税率が上がっていく累進課税になっており、最低税率は15%です。法人の税率はざっくり30%と40%の2段階のみ。これが法人の税率と逆転するのが課税所得900万円前後なので、課税所得が900万円を超えるあたりで法人化を考えるのがセオリーです。

また、近い将来確実に物件が増え900万円を超える見込みなら、最初から法人を設立して不動産投資をするのがベストでしょう。

さらにもう一つのメリットは、「給与所得控除」が使えるという点です。

個人事業では、自分で自分に給料を支払うことはできません。事業で得た利益そのものが「収入=課税所得」になるからです。しかし、会社をつくって「会社から給料をもらう」という形にすれば、サラリーマンのように「給与所得控除」が使えるため、税金の負担が個人よりも少なくなるのです。

他にも、打ち合わせ時などの外食などは会議費として会社の経費にできますから、さらに支払う税金は少なくなるわけです。

この他にも、法人は青色申告の欠損金が9年まで繰延べ可能(個人は3年)なことや、将来的には法人税が下がっていくはずなので、個人よりも実効税率は低くなっていきます。今は昔と違って資本金1円で会社を作れますので、今後ますます法人化をしていく不動産投資家は多くなっていくでしょう。

役員報酬は毎月同額が原則

このように、大家さんにとってメリットの大きい法人なのですが、役員報酬の決め方にはルールがあり、これを守らないと税務署からお咎めを受けてしまうことはほとんど知られていません。

そのルールとは、「一度決めた役員報酬は1年を通じて変更してはならない」ということ。

役員報酬の額は税務署にいちいち報告することはありませんが、期首に決めた役員報酬は原則毎月同じ額を支払わなければならないことになっているのです。

たとえば、役員報酬を年600万円と決めたら、毎月きっちり50万円ずつ払わなければいけないわけです。

では、期の途中で報酬を増減させたらどうなるのか?

たとえば、決算月が3月の法人があったとしましょう。空室対策のために年末に大きなリフォームをして、その費用捻出のために1月~3月の役員報酬を月20万円に減らしたとします。

すると、税務署は、もともとの役員報酬は20万円ではなく50万円だったとして、その差額を役員賞与とみなすわけです。具体的に計算すると、

(50万円-20万円)× 9カ月=270万円

となり、既に多く払ってしまっていた9カ月分の報酬270万円が役員賞与になってしまうわけです。

なぜ、役員賞与になるとダメなのか? 役員賞与は法人の損金不算入になってしまうからです。従業員に対する賞与は、当然、会社の損金になります。月々の役員報酬も損金です。

しかし、役員賞与は損金にはならず、税引き後の利益から支払われることになっているわけです。これは期末に利益操作をして、節税させないために設けられているルールです。つまり、税務的には役員賞与は受け取らない方がいいわけです。

一般的な企業は、年度の初めに利益の見通しがバッチリ立っているところはまずありません。やっと期末くらいになって利益が出そうだ、なんてところがほとんどです。

今年の決算は利益が出そうだから、役員報酬をもっと取ろうとか、逆に利益が出ないから報酬を少なくしようなんて、コロコロ報酬額が変えられたら税務署はどうでしょう。

いくらでも利益操作できて税収は安定しませんから、こんな後だしジャンケンを認めるはずがないのです。

では、期末にかけて利益がガッツリでる見通しだけど、期初は利益が少ないスロースタート型の企業の場合はどうするのでしょうか?

たとえば、年間で見ると600万円(月50万円)の役員報酬が払えそうだけど、期初の売上が30万円しかないって場合ですね。30万円しかお金がなければ50万円の役員報酬は払えません。ではどうするのか?

それでも、「役員報酬は50万円払う」が正解です。

当然、実際は30万円しか払えませんが、帳簿上は50万円を支払い、足りない20万円はいったん「未払い」として経理上の処理をします。そして、キャッシュが生まれた時に未払い分を精算することになります。もしくは、足りない20万円分を役員自ら会社に貸付けて50万円を払ってもかまいません。

このように、法人化をして役員報酬を取る場合は、報酬額をあらかじめ決めておく必要があるわけです。つまり、法人化には綿密な経営計画が必要だということです。

その点、アパマンは毎月の収入に大きな変動がなく見通しを立てやすい事業ですから、他の事業に比べれば楽ではあります。

会社のお金は自由に使えない?

法人は設立するけど、役員報酬は取らず次の投資のために利益は全部内部留保したい。

そんな投資家もいるでしょう。すでに他の事業でそこそこの報酬を取っていれば、個人の税金が増えるだけですし、購入した当初は、役員報酬など取らなくても初年度の経費+毎年の減価償却があるわけで、物件によっては数年間~9年までは利益をゼロにすることもできます。

しかし、法人に残したお金は、あなたが代表を務める法人でも個人で勝手に使うことはできません。これを理解しておかないと後々手痛いことになってしまいます。

もちろん、業務に必要な経費は自由に使えます。ですが、使える経費も結構たかが知れています。実際、毎月、役員報酬以上の経費を使うことはほとんどできないでしょう。

もちろん、業務以外で会社のお金を勝手に使ってしまうと、当然それは経費にならない役員賞与とみなされます。こうなると、社長個人にも賞与に対する所得税・住民税がかかってしまいダブルパンチになるのです。

もし、将来、内部留保した相当のお金を引き出そうとすれば、役員報酬で受け取る方法が合理的ですが、当然、将来報酬をもらった個人にも所得税・住民税がかかります。

結局、現時点で法人、個人のどちらにお金を残すのがベストなのか。一言で節税といっても、常にこんなことを考えていなければ、効率的にキャッシュを貯めることなんてできないのです。

法人化しても税金の悩みは消えない

いかがでしょうか。今回はっきりしたことは、法人化しても、税金の悩みは消えない!ということ。

すでに他に収入のある投資家は、法人化して役員報酬を取るのではなくガッチリ内部留保し、それを追加投資の頭金として、さらに物件を増やしていくのが「超金持ち大家さん」になるための王道です。

こうして資産を増やし、ちょこまかした節税も追いつかないくらいの収入になって、ガッツリ税金を納める方が美しい・・・。まぁ、この域に達していない私がいうのも何ですが、そいういう心意気だけは持って経営していきたい、と常に思っております。

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浦田 健