2022年8月20日にログミーFinance主催で行われた、第39回 個人投資家向けIRセミナー Zoom ウェビナーの第4部・中部鋼鈑株式会社の講演の内容を書き起こしでお伝えします。
スピーカー:中部鋼鈑株式会社 取締役総務部長 松田将 氏
元・ファンドマネージャー/元・ディーラー 坂本慎太郎(Bコミ) 氏
経済アナリスト/経営コンサルタント 増井麻里子 氏
第39回個人投資家向けIRセミナー
松田将氏(以下、松田):本日はお忙しい中、中部鋼鈑株式会社のオンラインIR説明会にご参加いただき誠にありがとうございます。ただいまご紹介いただきました中部鋼鈑株式会社で取締役総務部長としてIRを担当しております松田でございます。
本日は、鉄鋼業界の中でも非常に独自性のあるポジションをとっている中部鋼鈑について、みなさまのご理解に少しでも役に立てるよう努めてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
目次
松田:それでは、本日ご説明する項目について、簡単にご案内します。まず当社の概要についてお話しし、次に当社の特色、当社がどのように成長していこうとしているのか、成長戦略と持続可能性を高めるための課題の取り組み、当社の経営実績と今期の業績見通し、最後に配当や株価の動きなどの株式情報についてお話しします。
会社概要
松田:中部鋼鈑の概要についてご説明します。当社は、主に電気炉で溶かした溶鋼から厚鋼板を製造販売する鉄鋼メーカーです。設立は1950年2月で、本年で73年目という歴史になります。
本社は愛知県名古屋市にあり、資本金はスライドに記載のとおりですが、2022年3月期の売上高は643億円という規模感の会社です。現在は名古屋証券取引所のプレミア市場に上場しています。グループ会社は4社あり、こちらについては後ほど簡単にご説明させていただきます。従業員数は、連結ベースで500名です。
当社グループの事業概要
松田:当社グループの事業概要です。セグメントが4つあり、主力事業である鉄鋼関連事業は、当社と商社機能を担うシーケー商事で構成しています。
エンジニアリング事業は、明徳産業が行います。こちらは当社の設備部門にルーツをもつ会社で、現在は、当社の他に東海地区の鉄鋼メーカーや製造業の生産設備の設計製作およびメンテナンスを担っています。
レンタル事業は、シーケークリーンアドが担っています。こちらは飲食店の厨房にあるダクトに付けられているフィルターを高性能のグリスフィルターに交換させていただくレンタル事業です。その他に、広告看板の制作事業に取り組んでいます。
物流事業は、シーケー物流が担っています。こちらは当社の製品の荷役運搬ほか、危険物倉庫事業を行っています。危険物倉庫事業は25年前からスタートしていますが、現在では、自動車向けのリチウムイオンバッテリーの保管需要が非常に高まっており、ほぼフル稼働の状態です。
これらグループ会社の収益は、スライド右側に記載の円グラフをご覧いただきますと、売上高では非常に小さいシェアとなっていますが、利益に関しては、グループ会社4社で6億円くらいの経常利益を上げています。そのような意味では、着実に収益力は高まっており、当社グループの収益を下支えする存在に成長してきています。
製鉄方法の分類と特徴
松田:当社の特色についてご説明しますが、その前に、代表的な2つの製鉄方法についてご説明します。製鉄方法には高炉法と電炉法があり、当社は、スライド右側に記載の電炉法で鉄を作っています。
高炉法の製造方法は、鉄鉱石とコークスを高炉という高さ100メートル以上の大きな炉の中に入れて、溶解・還元反応をさせることにより鉄を取り出します。一方、電炉法は、原料の鉄スクラップを電気炉の中に入れて、黒鉛電極に高電圧をかけることによってアーク放電という雷のような放電を起こし、その熱で鉄スクラップを溶かして鉄を取り出します。
高炉法の特徴は、設備が非常に大規模で設備費用がかなりかかりますが、その代わりに効率的に鉄を作り出すことができ、大量生産に向いています。ただし、いったん設備を止めると炉の中で鉄が固まり、再稼働時に非常に時間とコストがかかるため、長期間の継続稼働が前提になっています。
一方で、電炉法は、設備は比較的小規模で済むため、設備費用は高炉に比べれば安いです。電気を止めたり入れたり繰り返しながら操業するため、事業環境に応じた操業調整が容易であるということで、多品種少量生産に向いています。
環境面は、高炉法は鉄鉱石の中に含まれる酸素とコークス(石炭)に含まれる炭素が反応して、非常に多くのCO2を発生させてしまいます。
一方、電炉法は、高炉法に比べてCO2の排出量が少ないです。電炉法で排出されるCO2は、主に使用する電気によるものです。原料が鉄スクラップで既に鉄であるため、そこでのCO2の発生は少なく、最近は高炉法の4分の1以下の排出量になっているというデータがあります。さらに、今後再生可能エネルギーを使った電気が増えていけば電炉法のCO2の発生量がさらに低下すると期待されています。
当社の製品と使用実績
松田:当社の製品についてご説明します。当社は、厚板専業メーカーです。厚板とは、厚さ6ミリメートル以上の板状の鉄鋼製品のことです。
需要分野は、船舶、建築、土木、産業機械など、非常に幅広い分野に供給されています。建築では、比較的大規模な建築物に使われることが多いです。したがって、1つの業界が不景気になったとしても、他の業界でカバーすることができるため、リスク分散しやすい商材です。
厚板というのは、スライドの写真のとおり、厚い鉄の板です。基本的には、このままの状態で使われることはなく、さまざまに加工されます。例えば、4つに折り曲げて柱として使ったり、切って使ったり、削って金型として使ったり、溶接してH型鋼のような形にして使ったりします。
加工しても品質が保たれるというのが重要で、例えば、曲げるとその部分が弱くなったり、場合によっては破断することがあるのですが、そのように加工した場合も品質を保つことが必要です。また、使用される分野が大きな建築物や船などの場合は、非常に長期間使われるため、耐久性も求められます。
したがって、性能や品質に対する要求レベルは高く、一般には高炉メーカーのシェアが高い品種なのですが、その中で当社は電炉メーカーとして、長年にわたり独自の立ち位置を築き上げてきたという特徴があります。
スライド下部の写真で、当社材がどのように使われているかお示ししています。左下の写真は大阪のホテルで、その右側は建設機械、鉄道車両、右下の写真は大きな工作機械です。このような大きなビルなどに当社材は使われています。
一般に電炉メーカーと言うと、建築用の部材に使われているイメージがあるかもしれませんが、当社の場合は産業機械と言われる部分に使われるのが6割くらいで、建築に使われるのは3割くらいです。一般的な電炉メーカーに比べかなり幅広いところに材料を供給しているということが言えると思います。
中部鋼鈑の特色
松田:中部鋼鈑の特色についてご説明します。大きく2つありますが、スライド左上に記載しているとおり、当社は国内唯一の電炉厚板専業メーカーで、業界の中でも非常に特徴的な立ち位置の会社です。
先ほど、厚板は高炉品種であるとお話ししましたが、現在、国内で厚板を生産している会社は5社しかありません。そのうちの3社が高炉メーカーで、電炉メーカーは当社ともう1社です。さらに、電炉厚板専業メーカーは当社のみです。電炉メーカーは競争が激しいとよく言われますが、幸いなことに、当社はそれほど価格競争に巻き込まれることなくビジネスができているということが言えると思います。
当社の特徴は、スライド左側の真ん中くらいに記載してありますが、効率的なレイアウトで製鋼・圧延一貫工程を実現しています。これにより生産が効率化でき、かつ省エネ操業が実現できていると思います。
また、短納期・小ロット・多品種生産を実現しています。先ほど、電炉は小ロット、多品種に強いとお伝えしましたが、加えて当社の場合は短納期も実現しています。この3要素をすべて兼ね備えてお客さまに供給できているという意味では、当社は唯一無二とは言いませんが、かなり競争力が高く、市場の中でお客さまの評価をいただいていると考えています。
また、スライドの左下に記載されているとおり、オリジナル製品の開発力も特徴の1つです。レーザ切断用鋼板は、レーザで非常に切りやすい鋼板です。被削性改良鋼板は、削りやすく、工具にあまり負荷がかからない鋼板です。このようなオリジナル製品をたくさん開発し、高炉メーカーにも負けないような技術力を市場に提供していると自負しています。
もう1つの特徴は、名古屋の市街地に立地する都市型製鉄所です。名古屋が存在する中部地区は、国内有数の工業地帯に立地しています。したがってインフラ面も非常に充実していることに加え、工業地帯から多くの鉄スクラップが発生するため、当社にとって重要な原材料である鉄スクラップの調達に大変有利です。
また、厚板の需要地は中部地区と関西、関東にかなり集中しているため、そこに対して製品を供給していくに際しても、ど真ん中に位置しているということで、大変有利なポジションであると理解しています。
スライドの右下の、環境対策投資の推進についてご説明します。写真の黄色い点線の部分が当社の工場で、名古屋のかなり中心部に近いところにあり、周りが住宅地になっています。
工場ができた頃は住宅地ではなかったのですが、時を経て全て住宅地になりました。そのため、当社はかなり前から、環境対策には積極的に投資してきています。例えば加熱設備なども、今は全て天然ガスを使っていますし、電気炉で発生する粉塵への対策として大型の集塵機を設置するなど、周りに迷惑をかけないよう対策をとっています。
あとは工場周辺の緑地の整備や、近隣のみなさまとの交流なども積極的に行い、地域社会との共生がかなりできていると考えています。
また、都市部に位置しているという点は、人材確保という面でも大いに優位性があると考えています。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):何点かうかがいたいのですが、これから循環型社会になる中で、リサイクルの実施について、御社のお話では、鉄スクラップなどを集めてきて電気の力で溶かして再利用し、いろいろな製品にするということなのですが、結構不純物が入ってるものもあると思われます。それらは綺麗にリサイクルできるのでしょうか?
松田:やはりスクラップであるため、いろいろなものが混ざっています。このようなものからいかに不純物を取り除くかというのは非常に重要です。実用性に耐えるレベルの不純物の除去はできていますが、ごく微量の不純物が残ってしまうことはあります。
ただし、鉄鋼製品はJIS規格で厳しく成分系が規制されているため、当然ながら、成分の規制を十分にクリアできるような社内基準を設定し、品質を管理しており、ご安心いただける内容だと思っています。
循環型社会への貢献
松田:先ほど電気炉の1つの特徴としてCO2の排出量が非常に少ないというお話をしましたが、それとは別の観点で、循環型社会に非常に貢献している点についてご説明します。
スライドの左上の写真が鉄スクラップなのですが、当社は鉄スクラップを、電気炉で溶解し、そして圧延機で延ばして、さらに厚板にし、最終的にはビル等に使用して、それが何十年か経ったところで再び鉄スクラップとして再生するという循環システムになっています。この循環過程のなかでは、廃棄されるものはほぼありません。
したがって、資源を非常に有効に活用できるという意味で、環境に優しいということが1つの特徴だと言えると思います。
増井麻里子氏:リサイクルに限度というのはあるのでしょうか?
松田:回数の限度は基本的にはないのですが、スクラップの中には、あまり品質のよくないものもあります。それをそのまま使ってしまうと、不純物が入っている製品になります。
不純物が取り除けなくなってしまうスクラップが入ることになるため、私どもは購入する段階で選別しています。したがって、全てのスクラップが当社の厚板に再生できるかというと、それは残念ながらそうではないということです。
坂本:できるものに関してはずっとできる、ということですね。たぶん今の質問は、再生紙などの場合は回数に限界があるというお話から出て来たのだと思います。鉄は不純物が落とせるようであれば、何度でも再利用可能だということですね。
松田:スライドの右側は、日本の鉄鋼蓄積量の推移のグラフで、日本社会に存在する鉄の総量を示したものです。現在日本の鉄鋼蓄積量は14億トンくらいと言われており、これが今でも増加中です。
鉄鋼蓄積量が増えてきますと、そこから発生してくるスクラップも増加してくるので、今後も、日本の鉄鋼蓄積量の増加に合わせてスクラップの発生量も増えていくだろうと考えられています。
日本は非常に資源の乏しい国ですが、現在、日本は鉄スクラップの輸出国になっています。日本で数少ない輸出できる資源という意味では、本当に貴重な資源を使わせていただいています。
循環型社会への貢献について補足します。製造過程の中で、鉄鋼スラグや、その副産物がいろいろ出るのですが、これについても当社はほぼ全量、99パーセントくらいを再資源化しています。会社全体でゼロエミッションに向けて取り組んでいるということを付け加えます。
坂本:視聴者の方は鉄鋼スラグの意味が分からないと思うので、イメージが湧くように教えていただけないでしょうか?
松田:鉄を作るときに、先ほど出てきたようないろいろな不純物を分離します。鉄の部分とそれ以外の部分に分離して、鉄の部分だけを取り出すということですが、そこで出てきた、分離された部分をスラグと言います。日本語では鋼滓と呼ばれ、いらない物です。
しかし、いらない物でも捨ててしまったら環境によくないため、再資源化して有効活用しているのです。
坂本:不純物があってもよいようなものに変える、ということですか?
松田:おっしゃるとおりです。多くは道路の路盤材やコンクリートの材料などに資源化して利用しています。
坂本:非常に分かりました。ありがとうございます。
松田:ここまで当社の特徴についてお話ししました。ポイントだけおさらいしますと、1点目は電炉で鉄を作ることで、CO2の排出量とスクラップリサイクルの両面で環境に貢献しています。2点目として、厚板という難しいマーケットで電炉メーカーとして長年技術を磨いてきたという特徴があり、3点目として、名古屋という立地面で非常に優位性があるということ等をご説明しました。
ここからはそのような特徴を生かして、では当社はどのように成長戦略を描いていくのか、あるいは成長の持続性を確保するための課題への取り組みはどのようなものなのか、についてご説明します。
21中期経営計画 概要
松田:昨年度からスタートしている21中期経営計画、3年計画の概要についてご説明します。計画の基本方針は記載のとおりで、1つ目は「循環型社会への貢献」ということで、新しい電気炉を作ってスクラップリサイクルの機能を高めていきたいと考えています。こちらについては後ほどご説明します。
2つ目は「成長戦略の推進」ということで、キーワードとして「製造力」「営業力」「商品力」を掲げて、それぞれ強化していこうとしています。
3つ目は「持続可能な基盤設備の推進」です。現場現物に立脚した人材育成であったり、安全環境防災への取り組みなどを推進しています。
4つ目は「ESG/SDGs課題に対する取組の強化」です。品質管理や環境管理、コンプライアンス、あとはワークライフバランスの推進などに取り組んでいます。
5つ目は「中山製鋼所との業務提携の推進」で、こちらもすでに進捗しています。
数値目標は、販売数量70万トン、連結経常利益40億円、連結配当性向30パーセントを掲げており、初年度の2021年度に関しては販売数量以外は達成しています。
坂本:中計の数字について、経常利益の進捗がかなりよいという状況だと思うのですが、この進捗のよさの背景を教えていただけたらと思います。
松田:需要面で、お客様のニーズを確実に捉えることができているということがあります。中山製鋼所との業務提携の効果もあり、販売量は比較的高水準を確保できているということです。
あとは価格面で、コストはかなり上昇傾向にありながら、価格面での値上げの効果が強く出てきており、昨年度については、特に下半期に好調な成績を上げることができました。
坂本:中山製鋼所との業務提携は、主にどのようなところで提携しているか教えていただきたいです。
松田:主に進めているのは、中山製鋼所への鉄の半製品(スラブ)の供給です。当社も生産量の向上につながりますし、中山製鋼所にとっても比較的良質のスラブを安定的に供給されるということで、お互いのメリットが享受できていると考えています。その他にもいろいろなことを推進していますが、主な提携はそのあたりです。
脱炭素社会へ向けた対応
松田:当社の成長戦略を語るうえで非常に重要なポイントである、脱炭素社会への対応についてご説明します。日本政府は2030年度までにCO2排出量を46パーセント減らし、そして2050年度にはカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げています。
一方で現状は、国内製造業のCO2排出量のうち、鉄鋼業が4割弱を占めて最多という状況になっています。したがって日本全体の削減目標を達成するためには、鉄鋼業での削減が不可欠という状況です。
鉄鋼業でのCO2削減の1つの有効手段として、電炉の活用がよく言われています。現状の日本における電炉のシェアは、スライドの中段左側の円グラフに記載のとおりで、日本では4分の1程度となっています。
それをもう少しブレークダウンしたものが右側の円グラフで、上部2つの円グラフにお示しした、棒鋼と形鋼という分野では、かなり電炉比率が高くなっています。
一方で当社の所属する厚板市場、その左側の薄板市場については、高炉のシェアが非常に高く、電炉比率の向上余地が大きいため、この2つの分野で電炉比率を上げていくことが重要であると認識しています。
その中で当社が脱酸素に向けてどう貢献していくかということですが、スライド下に施策①と示していますが、まずは当社の製造プロセスの中で、CO2排出量を削減していきます。これは当然の取り組みとしてやっていく必要があるものです。
施策②は、市場における当社のシェア向上を通じて電炉シェアを高めていくことです。その結果として日本全体のCO2の排出削減に繋げていきたいというのが、当社の思いです。
坂本:大量生産するには高炉が適しているというお話がありましたが、電炉に転換できるものは、基本的にはたくさんあるのでしょうか? 不純物が混じらないような一部の高級鋼以外はできるとは思っているのですが、量とコストの問題があると思うのです。
CO2の観点で「転換していきましょう」という方針はあるかもしれないですが、どれくらい電炉への転換ができていくものなのでしょうか?
松田:おそらく、かなりの部分を電炉で作ることはできると思います。もちろん原料になるスクラップの総量の問題もあるため、どこまで電炉比率を高められるかというのはなかなか言いにくいところもあります。
ただし、アメリカと日本は少し需要構造が違うのですが、アメリカではすでに電炉比率が非常に高く、6割を超えて7割近いような数字になっています。ヨーロッパも半分近くまで電炉比率が上がっています。
坂本:中国も電炉比率を高めようというお話がありますよね。
松田:中国は電炉比率が非常に低く、今後の状況によってはかなりの部分まで電炉比率は高められると思います。
環境対応型高効率電気炉への更新
松田:環境対応型高効率電気炉への更新は、当社にとっては非常に重要な取り組みになっています。スライド上部に写真が載っていますが、当社の電気炉は1962年から稼働しており約60年使っています。
200トン電気炉と呼ばれ、作った当時は世界最大級で、今でも日本では最大級という、大きな電気炉です。
今の電気炉には蓋がついており、蓋を開けてそこからスクラップを装入する操業形態になっています。
新しい電気炉では、資料下部にある絵のような密閉型になっているため、蓋は付いていません。スクラップを横から連続的に装入していき、装入時に電気炉から出る排熱を利用して、予熱します。熱エネルギーを効率的に利用することができるため、資料右側に記載のとおり、電力原単位では15パーセントぐらい削減できます。したがって、CO2排出量も同じように削減できるようになっています。
また、密閉型のため、騒音なども大幅に軽減できると考えています。生産性は実際に稼働してみなければわかりませんが、15パーセントくらい向上すると見込んでいます。また、歩留も向上するため、環境性能も非常に高く、コスト競争力の強化にもつながるということで、この設備投資には非常に大きな期待を寄せています。2023年秋に稼働予定で、今は準備中です。
厚板シェア拡⼤に向けて①
松田:厚板マーケットでのシェア拡大についてご説明します。まずは現在の環境認識について少しお話しします。先ほどもお伝えしたように、当社は、鉄鋼の需要の半数以上を占める関東・中部・関西の中心に立地しており、優位性があります。
さらに、スライドの上から2つ目に記載のとおり、最近は高炉メーカーが生産の集約を行っており、中部地区における厚板の工場は現在当社のみとなっています。もちろん、中部地区には鉄鋼メーカーの工場がいくつかありますが、厚板を作っているのは当社だけです。
鉄鋼製品は非常に重量があり、運搬にコストがかかるため、地産地消の色合いの濃いビジネスです。したがって、この地域で当社がシェアを高めていく余地が大きくなっていると実感しています。
また、資料中央に記載のとおり、脱炭素社会に向けたユーザーの意識の変化が、当社にとって大きな追い風となっています。当社ユーザーのいろいろなメーカーにおいて、自社のCO2排出を削減するために、部材の一つひとつについてもCO2排出の少ない部材を使っていこうという流れができてきています。当社の期待も高まっており、実際にいろいろなところからの引き合いも増えてきている状況です。
下の2つは、需要面についてです。各種イベントの需要や都市再開発案件というのは、中部地区のほか、関西・関東でもいろいろと出てきています。したがって、需要面では底堅いものがあると考えています。
1番下に記載しているのは、国土強靭化計画についてです。最近は災害も非常に多く、インフラを十分に拡充していかなければなりません。また、老朽化したインフラも増えてきているため、それらの更新需要もあります。ですので、当社の主力事業の1つである建築・土木分野の需要は底堅いものがあります。産業機械分野の需要も業界が比較的好調ですので、当社を取り巻く需要環境は底堅いと言えると思います。
厚板シェア拡⼤に向けて②
松田:厚板シェア拡大に向けて、どのようにシェアを拡大していくのかとご説明します。1番上に「生産能力のさらなる向上」と記載しています。当然、生産能力を上げて、さらに効率性も上げていかなければなりません。新しい電気炉になれば能力がアップするとお話ししましたが、それだけでは十分ではありません。上工程の電気炉が最大限の能力を発揮するために、下工程の能力向上投資も行い、全体の生産能力を上げていきたいと考えています。
2つ目は、新規ユーザー層の獲得です。当社は産業機械分野のシェアが比較的高いものの、建築土木分野のシェアは低く、まだ拡大の余地があります。相対的にシェアの低い建築・土木向けユーザーを獲得すべく、例えば官公庁に対して営業活動を行ったり、ゼネコンに対して当社材をアピールしたりといった取り組みを行い、新しいユーザーを獲得していきたいと考えています。また、そのベースになる製品の製造可能サイズや、品種の拡大、品質のさらなる改善にも取り組んでいます。
3つ目は、環境面での優位性アピールと認知度向上です。早期に温室効果ガス排出量を算定して、削減に向けたロードマップを示していきたいと考えています。
4つ目は、中山製鋼所との業務提携についてです。新しい電気炉ができあがった後、スラブ製造受託を、最終的には10万トンぐらいまで拡大していく方向で話を進めています。
連結経営実績推移と今期⾒通し
松田:当社の経営実績と業績見通しについてご説明します。資料のグラフは、直近3年間と今年度の進捗を示しています。2022年度第1四半期について、売上高は販売数量増加と値上げの浸透によって大幅な増収となり、第1四半期としては過去最高の売上を計上しました。
経常利益については、コスト環境が非常に厳しく、鉄スクラップの価格が高い水準で推移して、エネルギーや諸資材の価格も軒並み高騰しました。厳しい環境でしたが、販売価格の値上げが浸透して、前年同期比では大幅な増益で終えることができました。おかげさまで、今年度は順調な滑り出しを切ったところです。
2023年3⽉期通期業績⾒通し(連結)
松田:今年度の通期見通しについてまとめました。先ほどお伝えしたように、第1四半期は堅調な決算でした。しかし、足元の原材料価格やエネルギーコストなどの先行きにまだ不透明感があるため、期初の予想をそのまま据え置きにしています。今後、環境の見通しがもう少し立ち、さらに修正の必要が出てきた場合には速やかに開示したいと考えています。
坂本:現状、上方修正を行っていない理由は、原材料価格の部分が不透明だったからということですね。今後の鉄スクラップ価格の動向について教えてください。
松田:鉄スクラップの価格は、足元では結構下がってきていて、ピークから30パーセントくらいの差がある状態です。今後下げ止まりになるという声も少しあるものの、鉄スクラップ価格の動きは本当に激しく、例えば、ウクライナ紛争が終結したり、中国の新型コロナウイルスに対する政策が変わったりした場合も価格が動きます。少しのことでも大きく動くため、見通しが非常に難しいと言えます。
坂本:鉄スクラップの調達は基本、国内で行うのでしょうか?
松田:基本的には国内調達です。
坂本:電力のほうは大体の値段が決まっていると思いますが、今後値段が上がる予定があるかもしれません。電力供給の逼迫によって、事業環境が少し変わってくることはあるのでしょうか? 何かイメージがあれば教えてください。
松田:今のところ電力供給の逼迫で、当社に「電気を使わないでくれ」というような要請は来ていません。どちらかというと、電力があまり使われていない時間帯、夜中や土日に操業しています。
坂本:夜間に操業すると人件費が少しかかるのではないかと思いますが、そのあたりは大丈夫でしょうか?
松田:おっしゃるとおりですが、夜間操業は人件費が掛かるものの、その分電気代が安いというところはあります。
株主還元
松田:株式情報についてお伝えします。株主還元の配当方針としては安定配当の継続と業績に見合った弾力的な配当の実施を掲げています。配当性向は、今中期から30パーセント以上に引き上げています。その結果、配当金については業績による増減が多少あるものの、株主還元は右肩上がりにできていると思っています。今年度は中間配当は10円、期末配当は25円、年間では35円を予定しています。
株主総利回り(TSR)
松田:株主総利回りのデータをご覧ください。株主総利回りとは、株価の変動に配当利回りを加えて、株主のみなさまにとっての総利回りを算出することです。資料ではTOPIXと比較しており、TOPIXをグレー、当社を青で示しています。おかげさまで高い水準でTOPIXを超えているため、長期で保有して頂いている方にはリターンを享受してもらえていると思います。
株価の推移
松田:2018年度以降の株価の推移です。グラフの下に、8月19日の終値、配当予想、それに基づく総配当利回りを記載しています。予想配当利回りは約4パーセントです。
当社の株価について少し補足します。一般的に鉄鋼メーカーは「景気敏感株」と呼ばれており、変動が非常に激しいとよく言われています。しかし、当社の株は変動率が意外と低くなっています。
株価の変動率を表す指標として、ベータ値というものがあります。例えば、TOPIXが1動いた時に、その株価がどのくらい動くのかという指標になります。すなわち、1を超えるとTOPIXよりも変動性が高く、1を下回るとTOPIXよりも変動性が低く、リスクが低いという指標になります。
データの取り方はいろいろありますが、当社の株価のベータ値は、過去5年間の月次データを取ると、大体0.6や0.7という数値が出てきます。つまり、鉄鋼業の割には、安定性が比較的高いと言えます。あくまで過去の推移ではありますが、1つの情報としてお伝えしました。以上が会社説明となります。
松田氏によるご挨拶
松田:当社は鉄スクラップのリサイクルによる厚板製造によって、循環型社会に大きく貢献している会社です。また、電炉厚板専業という独自性のあるポジションを活かして、今後も社会インフラを支えて、企業価値のさらなる向上に努めていきたいと考えています。本日の会社説明が、みなさまの投資判断の一助になれば幸いです。本日はありがとうございました。
質疑応答:東証への上場について
坂本:「御社は名証に上場されていますが、東証への上場は検討されていないのでしょうか?」というご質問です。
松田:そのようなご意見はよく聞きますが、当社としてはどちらがよいか悪いかということは言いづらい部分があります。企業としては、どのような市場に上場しても、企業価値を十分に評価してもらえるような取り組みをできる限り実施していくことが重要だと考えており、東証プライムに上場しているような気持ちで運営しています。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:大株主に光通信がいますが、どのような評価をされていますか?
回答:光通信さまの保有目的は純投資目的と認識しておりますが、個別の株主さまの評価については回答を控えさせていただきます。
<質問2>
質問:大きな建物用のH鋼でも電炉で製造可能なのでしょうか? 可能な場合、現状の製造と今後の見通しを教えてください。
回答:当社材が使用されるH鋼は溶接組立による、いわゆるビルドH鋼といわれるもので、販売先のBH(ビルドH)加工業者が溶接加工をしています。当社で製造できる厚板サイズは製品規格で異なりますが、主として最大板厚が150ミリメートル、最大板幅は8フィート(約2.5メートル)、最大板長は40フィート(約12メートル)ですので、様々なサイズのビルドH鋼に使用されています。
<質問3>
質問:大阪万博における貴社の鉄鋼需要はどのくらいでしょうか?
回答:明確な需要見通しを現時点でお示しすることは難しいものの、イベント開催によるインフラ整備、会場施設の建設など、建築や土木をはじめとした様々な部分において当社材をご利用頂けるものと考えています。
<質問4>
質問:なぜ東証ではなく、名証上場なのでしょうか?
回答:ライブ中継内の最後のQ&Aにおいての回答内容を、当社からの回答といたします。
<質問5>
質問:中山製鋼所との提携によるメリットは?
回答:スライドP12にてご説明しています。
<質問6>
質問:足元で鉄スクラップ価格が下落していると思いますが、2Qでは利益率の向上に寄与すると考えてよいでしょうか?
回答:スライドP19にてご説明しています。
<質問7>
質問:為替変動や資源高の影響を教えてください。
回答:スライドP19にてご説明しています。
<質問8>
質問:電力供給の逼迫が課題になりませんか?
回答:スライドP19にてご説明しています。