決算発表翌日の株価は上昇
2017年5月9日に決算を発表した翌日、三菱重工(7011)の株価は一時前日比+4%超まで上昇しました。
2017年3月期は、MRJの開発遅れ、MHPS(日立との火力発電合弁事業)の売上の伸び悩み、LNG船での将来損失の引き当てなどの影響により営業利益が半減した一方、2018年3月期の見通しも中期計画目標を大きく下回るとされ、あまり冴えない決算でした。
そうした決算でも株価が上昇したのは、決算に対する「期待値」がもともと低かったこともあるでしょう。それに加え、諸改革を2017年度に完了し、今年度に達成できなかった中期計画目標については2年遅れの2020年3月期に達成を目指すという方針が、9日の決算説明会で会社側から示されたことも一因であると考えられます。
MRJの行方よりも気になるのは南アプロジェクトの行方
さて、今回の決算ではあまり報道されていなかった南アフリカの火力発電所建設のコスト負担に関する日立(6501)との係争(注)についても触れておきたいと思います。
注:この係争に関する背景等は投信1のこちらの記事『2倍になった三菱重工の日立への巨額請求-過去の教訓は生かされたのか?』をご参照ください。
今回の決算短信では、これまで流動資産の「受取手形および売掛金」および「その他」に含められていた「南アフリカプロジェクトに係る資産」が、金額的重要性が増したという理由により区分掲記されていました。また、その金額は2016年3月期末には1,853億円、2017年3月期末には2,949億円でした。
短信の注記によると、この金額は今回の係争における日立向け請求権のうち、既に発生している純支出の額にほぼ対応するものとされています。
ちなみに、三菱重工から日立への当初の請求金額は約3,800億円でしたので、2017年3月期時点までにこの約8割の費用が発生していたことになります。ここから、工事そのものは順調に進捗していることが読み取れます。
一方、やはり気になるのは、この請求金額を回収できるのか、つまり日立が三菱重工の要求通りに支払いに応じてくれるかです。両社ともに協議を継続するという点では一致しているものの、これまでのところ議論は平行線の状態が続いています。
今回の決算短信における開示からは三菱重工サイドの姿勢が一段と硬化している可能性が感じられますが、これに対して5月12日に決算発表を行う日立がどのようなコメントを出すのか注目されるところです。
多岐にわたる経営課題
最後に、今後の三菱重工の中期的な業績改善のポイントについて整理したいと思います。
今回、会社側が示した改革プランでは、MRJおよびボーイング向けなどの民間航空機事業、LNG船などの商船事業、火力発電事業(MHPS)の3つの事業に関して緊急対策を行う一方で、フォークリフト事業や製鉄機械事業のPMI(買収後の事業シナジーを発揮するための取り組み)に注力することや、遊休資産の有効活用策に取り組むことなどが示されています。
経営課題が世間的に注目度が高いMRJだけに留まらず、多岐にわたることに改めて驚かされますが、ここで示された具体策が計画通りに実行されていくかをまずは注視していきたいと思います。
和泉 美治