「寝耳に水」だった三菱重工からの巨額請求

2017年2月8日、日立製作所(6501)は、かねてより問題になっている南アフリカ共和国における火力発電プロジェクトの追加費用として、三菱重工(7011)から従来の約2倍にあたる897億ランド(約7,634億円)という巨額の支払い請求を2017年1月31日に受け取ったと発表しました。

また、この件について日立は、法的根拠がないため支払い義務はないとする見解を改めて表明するとともに、三菱重工とは誠実に話し合いを続けるともコメントしました。

ちなみに、日立製作所は2月1日に、三菱重工は2月2日に2017年3月期第3四半期決算を発表し、決算説明会も開催していますが、この追加請求については明らかにはされていませんでした。そのため、この発表は「寝耳の水」のニュースとして株式市場では受け止められ、9日の日立の株価は前日比54円安(▲8%)と大幅安で引けました。

日立の株価は1日の決算発表で通期会社予想を上方修正したことや、ホンダとのEVモータでの提携などが好感され、8日までの株価は6連騰と順調に上昇していましたが、このニュースによりこの間の上昇分がすべて失われてしまいました。

また、三菱重工のほうも民間航空機向け事業の減産やコストダウン未達による採算悪化、MRJの開発費増、商船事業のコスト悪化などに対する懸念から株価は軟調でしたが、さらに追い打ちをかけるように9日の株価は安く引けました。

繰り返される海外プロジェクトの損失

今回の問題が最初に明らかになったのは2016年5月です。

詳細は、こちらの記事【三菱重工が日立に巨額請求―火力発電合弁会社の係争の行方】をお読みただければと思いますが、今回の巨額請求は、2014年に三菱重工と日立が三菱日立パワーシステムズ社(以下、MHPS)を設立する以前に、日立が受注した南アフリカでのプロジェクト遅延に伴うコスト上昇に関連するものとされています。

なお、今回の請求額が前回の2倍になった理由は、9日に三菱重工から発表されたリリースによると、MHPSが発足した後にさらに遅延等の追加コストが発生したためではなく、「プロジェクト工程と収支見積の精緻化を行った結果に基づき計算された」ものであるとされています。

東芝の米国における原発建設事業(S&W社)買収後に発覚した巨額減損を引き合いに出すまでもなく、海外の大型プロジェクトでは、予想外のコスト上昇が起きることは稀ではありません。とはいえ、気になるのは再発防止策が打ち出されても、数年後にはまた同じような問題が繰り返されてしまうことです。

たとえば、日立の場合は2000年代中盤に米国の火力発電案件(ミッドアメリカンプロジェクト現地据え付け工事)で、大型ハリケーンによる被災を契機に作業効率が大きく低下し、これを挽回するためにコストが急増し大きな損失を計上したことがあります。

この時も、中長期的な対策として、リスク管理の強化策(見積り、契約、エンジニアリング力の強化)が打ち出されましたが、現在問題となっている南アフリカでの案件は、まさに上記の対策が発表された2007年に日立が受注した案件です。このような経緯を考慮すると、発表された対策や教訓が十分には反映されていなかったと言わざるを得ません。

今後の注目点

これまでのところ両社とも協議を継続するという点では一致しているため、その行方をとりあえずは見守りたいと思います。しかし、金額が巨額であるため、「落としどころ」がどうなるかは引き続き注視する必要があります。また、このことは、両社にとって財務を悪化させるリスク要因として認識しておくべきでしょう。

さらに中期的に注視したいのは、再び巨額損失を発生させないために、今後海外の大型案件のリスクをどのように管理・コントロールしていくかということです。このことは、MHPSを連結子会社としている三菱重工だけではなく、火力発電ビジネス以外の社会インフラ事業に注力している日立にも当てはまります。

最近では、競合のGEやシーメンスは日本市場でも受注活動を積極化させています。したがって、日立、三菱重工はこれまで以上に国内市場での守りを固める必要に迫られると見られます。そうした中で、海外インフラビジネスについてリスクをコントロールしながら積極的な展開を続けられるのか、今後の両社の取り組みに注目していきたいと思います。

赤色:三菱重工(7011)と青色:日立製作所(6501)の過去10年間の株価推移

 

和泉 美治