投信1編集部によるこの記事の注目点
- 結晶シリコン太陽電池(結晶SiPV)で導入が進むPERC(Passivated Emitter and Rear Cell)、ヘテロ接合、バックコンタクト(IBC)などの高効率化技術に注目です。
- PERC技術は変換効率の改善が期待でき、現在PVメーカーの多くがPERC技術を採用した高効率セルを製造しています。
- ヘテロ接合はパナソニックが「HIT」の名称で量産化し、IBCは米サンパワーとシャープが量産しています。
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リード エグジビション ジャパン(株)が主催する「PV EXPO 2017(第10回国際太陽電池展)」が3月1~3日に東京ビッグサイトで開催された。10回目を迎えた今回は、国内外から約150の太陽電池(PV)関連企業・機関が出展し、最先端の技術、ソリューションを披露した。併催の「太陽光発電システム施工展」「スマートグリッドEXPO」など9展示会の合計来場者数は6万人を超え、セミナー受講者数も1万1,000人強に達した。
本レビューでは、結晶シリコン太陽電池(結晶SiPV)で導入が進むPERC(Passivated Emitter and Rear Cell)、ヘテロ接合、バックコンタクト(IBC)などの高効率化技術の動向、自家消費にシフトする住宅向けソリューション、専門技術セミナーのトピックスを3回に分けて紹介する。
近年、結晶SiPVの高効率化技術としてPERC技術の導入が加速している。PERC技術は、セル裏面側にSiO2 やAl2O3 などのパッシベーション膜を挿入することで、セル裏面での再結合が抑制でき、変換効率の改善が期待できる。現在、PVメーカーの多くがPERC技術を採用した高効率セルを製造している。
一方、p型PERCセルでは、セル内部のボロン・酸素複合体による光劣化(LID)の問題が指摘されているが、各社が様々な方法でLIDを回避する技術を開発している。
韓国のハンファQセルズは、12年からPERC技術を導入したQ.ANTUM セル(多結晶)の生産を開始しており、16年には単結晶も製品ラインアップに加えた。セル効率は多結晶で20.9%、単結晶は22.0%に達しているが、p型結晶Siでも24%の効率が狙えるとしている。
中国勢も多くがPERCセルを導入済みだ。16年のモジュール出荷トップのジンコ・ソーラーは16年上期にPERCセルの生産体制を構築。単結晶PERCセルを用いたモジュール(60セル)出力は310Wだが、今後、多結晶PERCも投入する予定という。
トリナ・ソーラーはPERCセルを2つに分割した高効率モジュール「SPLITMAX」を市場投入しているが、新たに、PERC技術を採用したp型両面受光型セル「DUOMAX tWin」を開発した。モジュール(60セル)出力は280~290Wだが、18年にはn型の投入を予定している。
JAソーラーはPERCセル「PRECIUM」の量産技術を確立し、16年から量産を開始した。17年には1.5GWの生産を計画している。
カナディアン・ソーラーも単結晶PERCセルを用いた産業用Wガラスモジュール(60セル、295~300W)を提案している。
このほか、インリー・グリーン、ハレオン・ソーラー、HI-SAAE、サンテックもPERCセルを生産している。LONGiは現在、単結晶に特化しているが、インドやマレーシアで単結晶PERCセルの生産を計画しているという。
欧州勢では、独ソーラーワールドがp型単結晶PERCモジュールで出力300Wを実現している。RECソーラー(ノルウェー)もPERC技術、ハーフカットセルなどを組み合わせた住宅用&産業用モジュールを市場投入している。
将来の高効率化に向けて、ヘテロ接合やIBCの開発が進んでいる。
ヘテロ接合は、パナソニックが「HIT」の名称で量産化。これまでに、ヘテロ接合とIBCを組み合わせたHBCセルで25.6%、HBCセルを用いたモジュール(72セル)で23.8%の効率を実現した。量産セルの効率は22.5%だ。17年には出力252W(モジュール効率19.6%)の新製品を市場投入する。
カネカもヘテロ接合モジュールの受注生産を開始している。出力は250W(54セル)で、ビル屋上などへの平面設置を提案している。16年9月にはHBCセルで26.33%の最高効率を達成した。結晶Siでセル変換効率が26%を超えたのは世界で初めてだ。
長州産業は電気抵抗の大きいp型アモルファスSi層を裏面に配置した「リアエミッターヘテロ構造」のモジュール(320W)を市場投入しているが、338Wの高出力モジュールも開発中。
IBCは米サンパワーとシャープが量産している。サンパワーは345W(96セル)と253W(72セル)の住宅用モジュールを用意しており、国内では東芝が販売している。シャープはIBCモジュール「ブラックソーラー」を展開している。新開発の再結合防止膜をセルの表面と裏面に挿入して、モジュール変換効率を19.6%(48セル、出力256W)まで向上した。
韓国のLGエレクトロニクスもIBCに参入した。n型単結晶60セルでモジュール出力は350~365W。すでに量産を開始しており、17年夏から欧米市場で販売する。ちなみに、同社は10年に日本市場に参入。16年には約200MWを販売し、累積販売数量も850MWとなった。
その他の高効率化技術として、(1)両面受光セルや1枚のセルを2分割した(2)ハーフカットセル、(3)Wガラスモジュールなどの採用が増えている。ハーフカットセルは直列抵抗が低減できるため、モジュールの高出力化が期待できる。
(1)はトリナ、ソーラーワールド、HI-SAAE、インリー、サンテック、(2)はハンファQセルズ、トリナ、REC、HI-SAAE、JA、LONGi、ジンコ、(3)はカナディアン、トリナ、ハレオン、HI-SAAE、インリー、ソーラーワールド、ジンコなどが開発・提案している。
セルを長方形に分割して、導電性接着剤などで直接接続する「高密度実装モジュール」の提案が増えている。セル同士を直接接続するためバスバーが不要で、モジュール内のセル面積を最大化できる、セルの小型化で抵抗ロスが低減する、といった利点がある。
長州産業はヘテロ接合セルを用いた高密度実装モジュールを参考出品した。長方形のセルの表面と裏面を導電性接着剤で貼り合わせて接続している。隙間なく並べると、セル実発電面積が7%アップするという。1.6×1mのモジュール(効率20.3%)で345Wの出力を得ている。
ネクストエナジー・アンド・リソースはPERCセルを用いた高密度実装モジュール「CHROS(クロス)」を開発した。セルを高密度に実装することでモジュールの小型化が可能になるという。モジュール出力は245W。セル&モジュールは中国メーカーに生産委託している。
カナディアンも、HDM(High Density Module)と称する高密度実装モジュールを展示した。小型の単結晶PERCセルを重ね合わせるように接続しており、モジュール出力は260~265Wになる。同サイズのモジュールに対して10~15Wのアドバンテージがあるとし、住宅用に提案していくという。
電子デバイス産業新聞 記者 松永新吾
投信1編集部からのコメント
日本のPVメーカーに優位性があった技術領域も、海外の多くのメーカーが取り組むようになっており、パネル単独では差別化が難しくなってきています。今後は、蓄電池などとの組み合わせによって、どのように効率的に発電と蓄電ができるかに競争領域をシフトさせていかなければ厳しい事業環境と言えるでしょう。
電子デバイス産業新聞×投信1編集部
※PV EXPO 2017レビュー(中)、PV EXPO 2017レビュー(下)もあわせてご参照ください。
電子デバイス産業新聞