6年前の私のイタリアのとある練習場での首をひねらざるを得ない記憶
とある片田舎の長閑なサッカー場で目にしたあの光景を、私は今も忘れることができません。そして、それがどうしてなのかという理由をずっと考え続けてきましたが、もう6年を経ようとする今にしてもなお答えを見いだせずにいます。
それでは、2016年の夏に私が見た光景を少しばかり記します。
場所は、イタリア中部・ウンブリア州の山あいに佇む小さな町、ノルチャ。そこで私はベネツィアFCの夏合宿(プレシーズンキャンプ)を取材していました。当時のベネツィアFCはセリエC(イタリア3部リーグ)に所属するチーム。
いつも目にしているセリエAに比べると、当然のことですが、その技術レベルは格段に落ちます。とはいえ、そんなことは予め分かっていたのですから、静かな町のグラウンドに着いた私は、自らに課せられた仕事を果たすことだけに集中しようとしていました(その仕事が何であったのかは本稿と関係がないため、ここでは省略します)。
しかし、課せられた仕事とは関係がなかったとはいえ、やはり練習場に足を踏み入れれば自ずと選手たちの動きに目がいきます。そして、暑い夏のハードなトレーニングを間近で見続けていると、プロの最下層で懸命に戦う若手やベテランたちの気迫に圧倒され、たとえわずかであろうと上のカテゴリーに行ける可能性を信じて走る彼らの姿から目を離せなくなっていました。
ユースから上がってきたばかりの若者にとっては、遂にたどり着いた場所。一方、長くプロとしてやってきたベテランにとっては、多くの場合、そこは最後のチャンスに賭ける場所でもある。20代半ばの中堅たちにとってもまた、上に行くか下へ落ちるかというギリギリの戦いが続く場所。これがセリエC(イタリア3部)というカテゴリーです。
様々な選手たちの様々な思いが複雑に交錯するそのグラウンドは、スパイクの底が焼けるような暑さに覆われていたはずなのに、まるでヒヤリとするかのような緊張感に包まれていました。チャンピオンズリーグやセリエAといったレベルの華やかな場所では決して見られない種の魅力に溢れる場所だといえるでしょう。
そして、その日の熱く激しいトレーニングの最後は、セリエD(イタリア4部リーグ=アマチュア)に属する地元クラブとの練習試合で締めくくられることになっていました。
セリエC(3部) 対 セリエD(4部)