粉飾決算、米原子力事業の巨額赤字が顕在化する以前の東芝は、1875年創業の三井財閥系の名門企業であり、日本を代表する半導体・パソコンメーカーとして有名な大手電機メーカーでした。また、原子力発電などの重要な社会インフラも手掛けています。
一連の不祥事により地に落ちた感のある東芝ブランドですが、現在ある事業のすべてが直ちに雲散霧消するわけではありません。東芝は解体されたとしても多くの事業が残ると考えられるためです。そうした観点も含めて、これまでの東芝の歴史、現在、そして将来の東芝について考えてみたいと思います。
目次
1 パソコン縮小後の今も東芝は巨大な総合電機メーカー
1.1 東芝の売上高は5兆円超。パソコンから原発までを手掛ける総合電機メーカー
1.2 東芝のエネルギーシステムソリューション社は原発、火力発電から燃料電池までを手掛ける
1.3 東芝のインフラシステムソリューション社はエレベータ、鉄道などを手掛ける
1.4 東芝のストレージ&デバイスソリューション社はメモリ、ロジック、HDDを手掛ける
1.5 東芝のインダストリアルICTソリューション社は東芝のIoT化を牽引する
1.6 東芝の企業理念は「人と、地球の、明日のために」
2 業績が悪化、株価が下落した東芝の140年の歴史を振り返る
2.1 東芝の140年あまりの歴史をざっくり振り返る
2.2 東芝の業績は大きく悪化、経営危機第一波が襲った2016年3月期
2.3 東芝は家電・医療機器の売却、PC・テレビの大幅縮小を決断。だが「新生東芝プラン」は1年で瓦解
3 2016年に急回復した東芝の株価は債務超過懸念で大幅下落、今後の展望は
3.1 2016年末から様変わりした東芝の業績見通し
3.2 粉飾決算を実行中の東芝の株価は市場平均をアンダーパフォームし、その後は乱高下
3.3 東芝の今後、どこを見ておくべきか
4 東芝の歴代社長には意外に文系出身者が多い
4.1 東芝の現在の社長は医療部門出身
4.2 1939年からの東芝の歴代社長は19人
1 パソコン縮小後の今も東芝は巨大な総合電機メーカー
1.1 東芝の売上高は5兆円超。パソコンから原発までを手掛ける総合電機メーカー
東芝は売上高(2016年3月期)が5兆6,687億円、連結従業員数が18.8万人(メディカル、家電の売却等により2016年9月末時点では16.7万人に減少)の巨大な総合電機メーカーです。
2016年3月期時点では、「電力社会インフラ」、「コミュニティソリューション」、「電子デバイス部門」、「ライフスタイル」、「その他」の5部門があり、売上構成比は下図にある通りです。
なお、キヤノンに売却したヘルスケア事業は非継続事業であるため下図には含まれていません。同様に、2016年6月に中国の美的集団に売却された白物家電事業もここには含まれていません。
出所:会社資料
一方、2017年3月期からは、下図のように社内カンパニーを開示セグメントとしています。続いては、この新セグメントに沿って、各カンパニーの内容を2016年7月に開催された「カンパニー別IR説明会」の資料をもとに見ていきましょう。
出所:会社資料
1.2 東芝のエネルギーシステムソリューション社は原発、火力発電から燃料電池までを手掛ける
エネルギーシステムソリューション社は、現在の経営危機の元凶となっている原子力発電に加え、火力発電、送変電・配電、ソーラー発電、燃料電池など、電力エネルギーインフラ全体に関わっています。
出所:会社資料
売上構成比は、約51%が原子力、残り49%が火力・電力流通等になっています(2017年3月期会社予想)。また、世界42か国で事業を展開しており、売上高や人員構成も海外比率が高いことが特色です。
このうち、原子力については2016年末に明らかになった米国での巨額の減損損失の発生から、戦略の大きな変更が現在検討されています。これまでところ、海外については工事部門から撤退し機器販売に徹する一方で、国内外の燃料事業や国内のメンテナンス、廃炉については継続する考えが示されています。
一方、火力発電や送配電事業については変更なく、国内については更新需要、海外は新興国を中心に新規需要と取り込んでいく見込みです。
また、今後の業績予想は下図の通り、2018年度(2019年3月期)の暫定目標として売上高1兆9,300億円、営業利益750億円とされています。ただし、上述のように、原子力については事業計画が現在大きく見直されているため、この暫定目標も大きく下方修正される可能性が高いと考えられます。
なお、2011年に産業革新機構とともに買収したスイス企業のランディス・ギア社もこのカンパニーに含まれます。ランディス・ギア社は、世界30か国以上で家庭用電力メータ等のスマートグリッド関連を手掛けるメーカーですが、2016年9月末時点で1,432億円ののれんを計上しています。2017年12月末時点では減損の兆候はないとされていますが、今後のシナジー効果が十分に表れない場合は減損のリスクが残ることには注意が必要です。
なお、もっと詳しく東芝のエネルギーシステムソリューション事業についてお知りになりたい方は、こちらのプレゼンテーションをご参照ください。
また、余談ですが、このプレゼンは今回の原発問題でパワハラを行った疑いで解任された、当時エネルギーシステムソリューション社社長であったダニー・ロデリック氏が行っていますが、その後大問題となる米国原子力建設の工事費用増加の可能性には一切触れられていませんでした(下図参考)。
出所:会社資料
1.3 東芝のインフラシステムソリューション社はエレベータ、鉄道などを手掛ける
インフラシステムソリューション社は、一連の「東芝問題」の中で相対的には最も傷が浅いカンパニーです。また、これまでのところ、同カンパニーについての資産売却は検討されておらず、”東芝解体後”には、原子力を除いたエネルギーシステムソリューション社と並んで、東芝に残る可能性が高い事業と見ることができます。
2016年3月期の売上構成比は、公共インフラ(構成比27%)、ビル・施設(同49%)、産業システム(同24%)の3つの事業領域から成り立ち、下図にあるように高シェア製品を多く持っています。ただし、国内売上比率が73%と高いため、あまり高い成長イメージを持つことはできません。
出所:会社資料
また、下図にあるように2018年度の暫定目標の営業利益は320億円、営業利益率も2.3%に過ぎないため、水処理ソリューション、昇降機、空港、鉄道、2次電池SCiBなどの注力5事業にリソースを集中させ、成長率を高めていくことが課題であると見られます。
出所:会社資料
なお、東芝のインフラシステムソリューション社についてもう少し詳しくお知りになりたい方は、こちらのプレゼンテーションをご参照ください。
1.4 東芝のストレージ&デバイスソリューション社はメモリ、ロジック、HDDを手掛ける
ストレージ&デバイス社には、メモリ、ディスクリート、システムLSI、HDDが含まれており、このうちメモリについては原子力事業での巨額の赤字で傷んだ東芝のバランスシートを修復するために、現在売却が検討されています。下図から明らかなように、このカンパニーの売上高の半分以上はメモリ(青色部分)によるものです。また、利益については、ここには製品別には記載されていませんが、大半がメモリであるとされています。
出所:会社資料
ちなみに、東芝は2016年12月にメモリの主力工場である四日市工場でアナリスト・機関投資家向けの説明会を開催しています。そこでは、メモリの事業戦略や、現在建設中の四日市第5工場の建設計画などの詳細な説明が行われています。
ちなみに、このミーティングが行われた当時は、米国原子力事業の巨額赤字の可能性や、その後のメモリ事業の売却はまったく予想されていませんでしたが、この資料をよく読むと、メモリ事業の中期的な成長可能性がよく理解でき、「高い値段」で売却可能な事業であることが理解できます。
なお、東芝のストレージ&デバイスソリューション社社についてもう少し詳しくお知りになりたい方は、こちらのプレゼンテーションをご参照ください。
1.5 東芝のインダストリアルICTソリューション社は東芝のIoT化を牽引する
インダストリアルICTソリューションは2016年3月期の売上高が2,568億円と、東芝の中では小粒な社内カンパニーですが、東芝の多岐にわたる事業のIoT化を推進するという戦略的な役割を担っています。
東芝のIoT関連の実例は、下図にあるように「太陽光発電の遠隔監視」、「鉄道の運行監視」、「エレベータの予防保全」など既に多くありますが、今後もインダストリアルICTソリューション社が有するAI(人工知能)やビッグデータ処理技術などを活用して、顧客にとって価値のあるソリューションを提供していく考えです。
メモリの売却で大きな成長分野を失うことになりますが、今後の東芝の復活は、こうしたIoTソリューションを早期に拡大できるかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。
出所:会社資料
なお、東芝のインダストリアルICTソリューション社についてもう少し詳しくお知りになりたい方は、こちらのプレゼンテーションをご参照ください。
1.6 東芝の企業理念は「人と、地球の、明日のために」
ここまでは、東芝の現在の姿(スナップショット)を見てきましたが、大きな変化が予想される中で、海外原子力を除くエネルギーシステムソリューション社とインフラシステムソリューション社が、今後も残る事業の大部分を占めることがご理解いただけたのではないかと思います。
ちなみに、東芝グループの経営理念をおさらいすると以下のようになります。
「東芝グループは、人間尊重を基本として、豊な価値を創造し、世界の人々の生活・文化に貢献する企業集団をめざします」
また、東芝グループのスローガンは、
「人と、地球の、明日のために」
とされています。
家電、医療機器に次いで、メモリも東芝グループからは外れる可能性が高いですが、これまで見てきたように、残る事業には、ここで掲げられている「スローガン」に貢献する可能性が高い事業がまだ多く残っています。現在直面している危機的な財務状況を克服して、こうしたミッションを達成するための会社に生まれ変わるのかを注視したいと思います。
2 業績が悪化、株価が下落した東芝の140年の歴史を振り返る
2.1 東芝の140年あまりの歴史をざっくり振り返る
140年以上の歴史を持つ東芝には、「からくり儀右衛門」、「東洋のエジソン」とよばれた田中久重氏が1875年に起こした重電を主力とする流れと、「日本のエジソン」、「電力の父」として名を馳せた藤岡市助氏が1890年に起こした軽電(エレクトロニクス)の流れがあります。前者の田中製造所(1904年に芝浦製作所に改称)と後者の白熱舎(1899年に東京電気に改称)は、1939年に東京芝浦電気として統合し、現在の東芝の原型ができています。ちなみに、東芝という社名に改称されたのは1984年です。
多くの方が、なぜ東芝は洗濯機から原子力まで、あまりシナジーが得られない事業を幅広く手掛けているのかという疑問をお持ちかと思いますが、それは、こうした長い歴史的背景によるものです。
さて、その東芝の歴史ですが、製品の歴史に関しては同社のホームページにある「1号機ものがたり」に詳細な記録があります。
そこで興味深いのは、1970~90年代の東芝は、カラーテレビ電話、自動車エンジン制御マイコン、家庭用インバータエアコン、MRI装置、ラップトップパソコン、1MビットDRAM、可変揚水発電システム、NAND型フラッシュメモリー、DVDプレイヤーなど「世界初」や「日本初」の製品を重電分野からエレクトロニクス分野まで幅広く輩出していたのに対して、2000年代になると、ここで掲載されている可変気筒デュアルロータリーコンプレッサーの1つだけとっていることです。
この背景が、単に内容をアップデートしていないだけなのかは不明ですが、2000年代になると、東芝に限らず、日本の電機メーカーは、韓国、台湾メーカーの台頭、日本市場の成熟化、円高などの外部要因の変化や、企業体質の官僚化などの内部要因により、メーカーの基本である新製品の創出力が衰えてきたことは事実です。
そうした時代背景の中で起きたのが、2006年に行われた東芝危機の本丸であるウエスティングハウス社の買収であり、また、2009年3月期から2015年3月期第3四半期累計決算期まで行われ、2015年8月に第三者委員会によって明らかにされた一連の粉飾決算です。
2.2 東芝の業績は大きく悪化、経営危機第一波が襲った2016年3月期
次に、東芝の140年余りの長い歴史の中で忘れられない1年となった2016年3月期について簡単に振り返ってみたいと思います。
今も続いている東芝の経営危機の発端は、2015年4月に公表された「内部通報により“不適切会計”の存在が明らかになったため社内に特別調査委員会を設置する」という適時開示でした。
その後、5月には元東京高等検察庁検事長の上田廣一弁護士を委員長とする第三者委員会が設置され、7月20日に累計1,562億円の粉飾の存在を指摘する内容の調査報告書が公表され、翌日21日に当時の社長であった田中久雄氏や、元社長で当時副会長であった佐々木則夫氏、元社長で当時相談役であった西田厚聰氏、さらに8人の取締役が引責辞任を行うという事態に発展しました。
その後、2015年3月期の決算発表が9月18日までずれ込むことや、11月には健全とされていたWECののれんを2013年3月期と2014年3月期に秘密裡に減損していたという事実が日経ビジネスによりスクープされるなど、混乱は続きました。
2015年12月21日には、ようやく未公表であった2016年3月期の業績予想と、今後の再建策のグランドデザインである「新生東芝アクションプラン」が、2016年3月18日には「2016年度事業計画」が発表され、混乱はひとまず沈静化の方向に向かいました。
続いて、その時点で東芝はどのような会社に生まれ変わろうとしたのかを簡単におさらいしたいと思います。
2.3 東芝は家電・医療機器の売却、PC・テレビの大幅縮小を決断、だが「新生東芝プラン」は1年で瓦解
2016年12月に開催された「『新生東芝アクションプラン』の実施および2015年度予想について」の説明会では、半導体(ディスクリート・システムLSI)、パソコン、映像事業、家庭電器、コーポレート部門剛毅1万600名の人員削減、パソコン事業の大幅縮小や粉飾決算の温床となったODMへのBuy-Sell取引の廃止、映像事業の海外全地域での自社事業の終息などが発表されました。
また、その約3か月後に開催された「2016年度事業計画説明会」では、東芝メディカルシステムズ(医療機器事業)売却や家電事業売却の決定が発表された一方、エネルギー、社会インフラ、ストレージの3つの事業を今後の東芝の柱とする考えが示されました。
また、特に注力する分野としては、エネルギーの中の原子力発電とストレージの中のメモリとされています。
皮肉なのは、そのいずれもがそれから1年弱後に訪れる東芝の経営危機第二波の中で売却あるいは撤退の対象となっていることです。
つまり、「新生東芝アクションプラン」は、わずか1年も経過しないうちに大幅な見直しを迫られているのが現状の東芝であるということになります。
3 2016年に急回復した東芝の株価は債務超過懸念で大幅下落、今後の展望は
3.1 2016年末から様変わりした東芝の業績見通し
東芝は、2016年末に公表された米国原子力事業の巨額減損による経営危機第二波を迎えることになりましたが、それまでの東芝の業績は思いのほか好調でした。
先述の「新生東芝アクションプラン」を公表後、2016年4月には、2016年3月期決算でかねてからリスクが指摘されてきたWECを含む原子力事業全体ののれん2,600億円の減損に踏み切ることや、東芝メディカルを売却することで3,800億円の売却益(税引後)を計上することを発表しています。
のれん減損により、2016年3月期の営業損益は▲7,087億円という巨額な赤字を計上することにはなりますが、東芝メディカルの売却によるキャッシュインや売却益の計上により、株主資本比率は6%、ネットDEレシオは146%と、「継続企業の前提に関する注記」には「当該コメントなし」とすることが可能になり、また、2017年3月期にはV字型の黒字回復期待を演出する準備を整えることができました。
実際、東芝は2017年3月期上期の業績予想を8月12日と9月28日の2回にわたり上方修正し、11月8日には通期予想も上方修正しています。このいずれもがNANDフラッシュの好調が主因でしたが、11月11日に上期決算を発表後もNANDの好調は継続していましたので、さらなる業績上方修正予想も期待されていました。
しかしながら、2016年12月27日に突如発表された「CB&Iの米国子会社買収に伴う損失計上の可能性について」により、その期待は一気に崩れ去り、東芝の経営危機第二波が訪れることになります。
2017年2月14日には第3四半期累計決算を発表予定でした。しかし、監査手続きが終わらないため発表を3月14日に延期していますが、米国原子力事業の多額の減損損失の計上により、2017年3月期通期の業績は、営業損益が▲4,100億円の赤字(従来予想1,800億円)、純利益が▲3,900億円の赤字(同1,450億円)に下方修正されています。
また、半導体事業等の売却による資本対策についても、年度内での実行は行われない見通しとなったため、株主資本は▲1,500億円(同3,200億円)、純資産は1,100億円(従来予想なし)と、株主資本は債務超過になるという見通しが示されています。
3.2 粉飾決算を実行中の東芝の株価は市場平均をアンダーパフォームし、その後は乱高下
さて、このように非常に”ワケあり”の東芝ですが、株価はどのような動きを示してきたのでしょうか。
まず、粉飾決算が実行されてきた2009年から2015年までの株価推移を見てみましょう。下図から明らかなように、東芝の株価はTOPIXや同業の日立製作所(6501)、三菱電機(6503)に対して大きくアンダーパフォームしていることがわかります。
出所:SPEEDAをもとに筆者作成
既にこの時点で、株式市場は巨額ののれんや繰延税金資産、同業他社に比べて低いキャッシュフロー創出力などに対して懸念を示していたことが理解でき、株式市場の「見抜く力」には驚かされます。
一方、粉飾決算の存在も明らかになり、2016年3月期の営業損益で▲7,087億円の巨額営業赤字を計上後の2016年の株価は、2016年2月の最安値155円をボトムに、同年12月には475円まで約3倍に急騰し市場平均も大きくアウトパフォームしています。
まだ東証の「特設市場注意銘柄」であり上場廃止の可能性すら残っている段階で、これだけのパフォーマンスを示した最大の理由はメモリの好調でした。2016年2月に155円まで下落した時の東芝の時価総額は6,500億円ですが、現在、売却を検討しているメモリの時価総額は、同業のサンディスクなどとの比較から1.5兆円~2兆円という見方が当時から株式市場では多く見られ、割安感が注目されたためと推察されます。また、よもや米国原子力事業のさらなる減損による経営危機第二波が訪れることなど、まったく想定されていなかったからであるとも言えます。
ただし、東芝が原発事業を最注力事業として海外でも事業を展開していることは周知の事実であったため、それに関連したリスクを株式市場は見落としていた、とも言えます。つまり、この局面では株式市場は先読みをする力を有していなかった、言い換えれば”市場の失敗”があったということになります。
3.3 東芝の今後、どこを見ておくべきか
先述したように、東芝が2015年12月から目指した「新生東芝アクションプラン」は既に有名無実化しており、存続さえ危ぶまれる局面となっています。
そこで注目しておきたいのは、現在東芝に対して融資を継続している金融機関のスタンスに今後変化が起きないかです。
また、東芝は3月14日に決算を発表後、翌日の3月15日に東証に対して特設市場注意銘柄の解除の審査を受けるために、内部管理改善報告書を提出する予定です。
特に東証は、本社から距離のある子会社の管理体制の不備に懸念を持っているとされているため、WECが行ったS&Wに対するデューディリジェンス(資産評価)の不備をなぜ見抜けなかったのか、また、決算延期の原因となったパワハラを理由とするWECの内部統制の不備などが問題視される可能性が十分にあると考えられます。これらの懸念に対して、東芝が十分な改善策を提示するかが注目すべきポイントとなります。
また、東芝はメモリ事業を売却することで大幅に悪化したバランスシートの修復を目指していますが、目論見通りに買い手が見つかるかも、当然これからの大きな注目点となります。
さらに、米国LNGの長期購入契約に関するリスクについてもリスクが顕在化しないのか、ランディス・ギア社の減損は行われずに済むのか、米国で現在進行中の4基の原発の建設がさらに遅れ損失が拡大しないのか、また、それを回避するためにこれらの建設から撤退し、東芝のWECに対する「親会社保証8,000億円」を履行する覚悟があるかなども注視したいポイントです。
4 東芝の歴代社長には意外に文系出身者が多い
4.1 東芝の現在の社長は医療部門出身
先述したように、第三者委員会による粉飾決算に関する報告書が提出された翌日の2015年7月21日に、当時の社長であった田中久雄氏や元社長で当時副会長であった佐々木則夫氏、元社長で当時相談役であった西田厚聰氏、さらに8人の取締役が引責辞任するという事態に発展しました。
その後、半導体部門の室町正志氏が社長に就任しましたが、1年も経ずに2016年6月には退任し、その後任として元東芝メディカル社長の綱川智氏が社長に就任しています。
ちなみに、綱川氏は1955年9月生まれの61歳。東京大学教養学部を卒業後、東芝に入社し医療機器部門を歩んでおり、2010年から2014年までキヤノンに売却された東芝メディカル社の社長を務めています。
4.2 1939年からの東芝の歴代社長は19人
東芝というとハイテク企業であるため、理系社長が多いというイメージがありますが、1939年に東京電気と芝浦電気が合併し東京芝浦電気となってからの19人の社長のバックグラウンドを調べてみると、下表に示したように、内訳は理系は7人、文系が11人、不明が1人となっています。なお、上述のように現社長の綱川氏も文系出身者です。
5 東芝の2018年春入社の新卒採用再開は望み薄
東芝は、2017年1月27日にメモリ半導体の分社化決定を発表した会見では、2018年春に入社予定の新卒採用を再開したいという意向を示していました。
しかしながら、その後業績の悪化がさらにはっきりとする中でこうした方針は撤回され、2017年春入社採用に続き、2年連続での採用中止が各種メディアにより明らかになっています。
一方、中途採用については、転職サイトには半導体エンジニアなどの職種に求人情報が掲載されています。ちなみに、経営改革を担う部署や広報・IR部門の中途採用が掲載されていることがメディア等で話題になりましたが、現在は募集の掲載は終了しています。
今後、東芝が新卒採用を再開するかや中途採用を積極化させるかは現時点では流動的ですが、東芝への就職を希望される方は、東芝のホームページにある採用情報を定期的にチェックされることをおすすめします。
ちなみに、東芝が求める人材は、以下のような方です。
「実現したい夢がある人」
「周囲と協力し合える人」
「自ら考え実践しやりとげる人」
6 読んでおきたい東芝に関する書籍
東芝の粉飾問題の背景や内容を知るのに最適な1冊です。粉飾問題が発覚した2015年当時、多くのメディアは、この問題を「会計不祥事」、「不適切会計」としてスルーしようとしましたが、この本の筆者や日経ビジネスでは綿密な取材に基づいて事件の全貌を明らかにしています。
本書が執筆されたのは2008年ですが、西田社長(当時)の入社時のエピソードや東芝が勝ち組企業として生き残っていくためのキーワードなどをまとめた、今読み返すと興味深い1冊です。
まとめ
いかがでしたが。現在の東芝は、「新生東芝アクションプラン」が発表されてから1年も経過しないうちに再び経営危機を迎えています。これからも様々な変化が起きると思いますが、まずは、現状がどのようになっているかをご理解頂ければ幸いです。なお、今後大きな変化があれば、逐次アップデートしていく予定です。
LIMO編集部