もうすぐ年の瀬。新型コロナウイルス感染者数が落ち着いている今年は、数年ぶりに帰省することを楽しみにしている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
ご家族皆様で久しぶりに集まり、高齢になってきたご両親から相続対策や認知症対策といった話題が出てくるかもしれません。
読者の皆様は「家族信託」という言葉をお聞きになったことはございますか?
筆者は、弁護士として相続紛争(遺産分割、遺留分侵害額請求など)の解決を中心に活動をしていますので、本稿では、いわゆる「争族」とその対策として「家族信託」がどのようなときに利用できるのかお話ししていければと思います。
実は危険?「うちは普通の家なので、相続財産は実家不動産しかありません」
遺産分割で揉めているというご相談で意外と多いのは、主な相続財産が実家不動産しかないというケースです。
なぜ揉めるのかというと、不動産という財産の性質上、検討すべき問題点が多く、また、分け方が難しいという特徴があるからです。
相続で揉めるポイント1.不動産評価(時価)の評価方法
不動産には時価があるため、不動産の分け方を決めるには、まず評価額を決める必要があります。しかし、時価を算出するにあたり、実家の取得を希望する相続人は低く、そうではない相続人は高く主張する傾向にあり、まず不動産の評価額をめぐって平行線の議論になることがあります。
相続で揉めるポイント2.取得者の決め方・分割方法
不動産の評価額が決まっても、相続人のうちの誰が取得すべきか、法律上決められていません。取得したい人が複数いると、当然揉めることになります。
また、取得する人が決まっても、取得しない相続人に対しては、法定相続分に相当する金額を支払わなければなりません(代償金といいます。)。
他の相続財産(金融資産)があればよいですが、実家不動産しか主たる相続財産がないこともあるでしょう。その場合、他の相続財産を他の相続人が取得して調整できず、多くの相続財産があるケースよりも、かえって分け方が難しくなります。
実家を取得したい相続人が代償金を払えなければ、残念ながら実家を売却して売買代金を法定相続分で分けるしかありません。ただ、売却して売買代金を分ける方法も、実家をどうしても残していきたい相続人はそう簡単には折れないでしょう。
相続で揉めるポイント3.不動産の維持管理
遺産分割協議が完了するまでは、実家不動産は一時的に遺産共有状態となり、相続人たちで維持・管理を決めていくことになります。しかし、一度「争族」になってしまうと、感情的な対立が大きく、実家不動産の修繕や固定資産税の納付など、不動産の維持・管理についても衝突が起きることが絶えません。