ファミリーごとに最適な資産運用は違う

資産運用において、投資したものがどれだけのリターンを生むかが大事です。しかし、同じくらい大切なのは、投資のリターンに大きく影響を与える税金と手数料をいかに抑えるかです。

このうち、税金を下げる(または先送りする)国公認のツールはだいぶ整備されてきました。NISAの制度が導入され、また、今年から個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入できる対象者が広がりました。

選べるツールが多いのに越したことはありません。しかし、本当に考えなくてはいけないのは、これらのツールをどのように組み合わせるかです。

そして、その組み合わせを決めるには、資産運用の目的、家族構成や職業、現在の保有資産や家計状況など、投資家のライフスタイルにまつわる多くの要素を考慮する必要があります。

ファミリーごとに、最適な資産運用のプランは違います。ファミリーの資産運用は、オーダーメイドでなされるべきだと考えるゆえんです。

夫と妻のどちらの口座で投資すべき?

運用によって利益が生じると、税金だけでなく、年金や健康保険といった社会保険料の負担増につながることがあります。社会保険料の算出が、住民税の金額に連動するケースがあるためです。

たとえば、個人事業主のA男さんと、(社会保険制度完備の)会社勤めのB子さんという共働きの夫婦がいたとします。所得はほぼ同じとしましょう。

夫婦とも資産運用に興味を持っていて、いろいろと調べて、今後の値上がりが期待できそうな〇〇社の株式を100万円購入しようということになりました。

日本では米国にあるような共有口座は認められていません。1口座1名義です。この場合、A男さんとB子さんのどちらの口座で購入した方が良いでしょうか。

社会保険料まで考えると差が生じる場合がある

もし、これをNISA口座で投資するならば、A男さんのNISA口座でも、B子さんのNISA口座でもどちらでも構いません。NISA口座で完結するためです。

しかし、NISA口座の枠を使ってしまって、NISA口座を使えない場合もあるでしょう。この時、特定口座で「源泉徴収あり」で完結している場合は良いのですが、「源泉徴収なし」のように確定申告を必要とする場合、B子さんの口座で投資した方が良い場合があります。

将来、〇〇社の株式を150万円で売却できたとすると、50万円の利益が生じます。年収に関係なく、譲渡益に対して20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の課税が発生します。2人の所得がほぼ同じですから、住民税の増加幅は、A男さんでもB子さんでも大体同じです。

違ってくるのはここからです。

A男さんは自営業ですから、住民税算出の際の所得をもとに翌年度の国民健康保険料が算出されます。住民税と国民健康保険料が連動します。一方、B子さんは会社勤めで会社の健康保険組合に加入していますから、住民税の根拠となる所得の増減は健康保険料には影響しません。

ということは、特定口座で投資を行い、確定申告を行う必要がある場合は、ファミリー単位で考えると、B子さん口座で投資した方が、健康保険料の値上がりに影響を与えない分、得をすることがあるということになります。

なお、投資に関しては、NISA口座や特定口座(源泉徴収あり)にして、なるべく確定申告の対象に含めないようにするのが基本です。

ファミリーでオープンにお金の話ができると資産運用もうまくいく

上の話は、あくまで一例ですので、最善と考えられる方法はファミリーごとに異なります。

投資に限らず、お金にまつわる話で、家族の誰の名義にするかをよくよく考えた方が良い場面がけっこうあります。確定申告の時の医療費控除を夫婦のどちらにまとめるか、住宅購入時の不動産の保有割合をどうするか、住宅ローンをどう組み立てるか、生命保険にどう加入するか、などです。

基本的には、年収が少ない方が資産を保有するとよいケースが多いと思いますが、先ほどの例のように、年収に関係なくB子さんの口座で投資した方が良いこともあるので、一筋縄ではいきません。

このように、最善の策はファミリーによってまちまちです。しかし、1つ前提があります。それは、お金にまつわる話をオープンに話ができる程度に夫婦の仲が良好であることです。「一緒にお金の勉強をしよう」と言える夫婦の方が、資産運用もうまくいく可能性が高まります。

 

藤野 敬太