企業の持つ現預金の適正水準については論者により見解が大きく異なるが、投資家の考える適正水準は過小である、と筆者(塚崎公義)は考えています。

企業の持つべき現預金の適正水準には様々な考え方がある

企業が日常の活動で必要とする決済資金等を現預金として持つのは当然ですが、実際には企業はそれを超えて現預金を持っています。それは、万が一の場合に資金繰りが破綻して倒産してしまわないように、余分に現預金を持っているからです。

現在の日本のように、借入金利が非常に低い場合には、企業がそれを超えて過剰な現預金を持っている場合もありますが、本稿はそのことには触れず、適正な現預金の水準について論じることにしましょう。

現預金を多く持てば持つほど、企業が倒産するリスクは減りますが、一方で利益率は下がります。預金金利は現在はゼロですし、一般的に現預金の利益率は決して高くありませんから。

そこで、現預金を減らして借入を返すことで利益を増やそうという意見と、現預金のまま持っていた方が安全だという意見が対立するわけです。

企業が倒産すると多方面に多大な損害

企業が倒産すると多方面に多大な損害が生じます。企業が返済し切れなかった借金は銀行の貸し倒れ損となります。従業員は失業して所得を絶たれます。納入業者は顧客を失ない、場合によっては売掛金も回収できなくなるでしょう。買い手も、お気に入りの商品が買えなくなるかもしれません。

従業員が失業すると所得がないので物が買えなくなり、景気が一層悪化します。納入業者の連鎖倒産も起きるかもしれません。悪くすると、銀行の貸し倒れが巨額になって金融不安が生じるかもしれません。