2016年12月29日に第96回天皇杯の準決勝の2試合が行われ、2017年元日に大阪・市立吹田サッカースタジアムで行われる注目の決勝戦の対戦カードが決定した。
決勝戦は天皇杯決勝戦初出場の川崎フロンターレとこれまで天皇杯で4回の優勝を誇る鹿島アントラーズとの対戦となった。この対戦カードは2016年11月に行われたチャンピオンシップ(CS)準決勝と同じだ。その際には鹿島が川崎を1-0で下した。
川崎にとっては今回の天皇杯決勝はまさにリベンジともいえる戦いだ。川崎にとっては絶対に負けられない戦いであると同時に、初タイトル奪取となるかの極めて重要な試合となる。
一方、鹿島は多くが知るように金崎夢生選手のヘディングで川崎Fを下した後、CS決勝戦で浦和を下し優勝。その後クラブW杯でスペインの強豪レアル・マドリードと対戦し善戦した結果準優勝をするなど、その後の活躍ぶりは目覚ましい。2016年Jリーグセカンドステージで不調だった鹿島が再度浮上のきっかけをつかむことができた川崎FとのCS準決勝だったとすれば、この対戦カードへの熱量はさらに上がるというもの。
本当の天皇杯の注目ポイント
今回の天皇杯はCS準決勝でのリベンジを果たしたい川崎Fと、19冠という偉業を達成したい鹿島の戦いと素直に見ることもできよう。
しかし、今回の天皇杯の注目ポイントはそこだけではない。今回はスタイとスタイルとの戦いである。川崎は「ボールを持たせたくないサッカー」、一方鹿島は「ボールをとりたいサッカー」である。また同じことではあるが、川崎はポゼッションサッカーとも呼ばれ、鹿島はカウンターサッカーとも呼ばれることもある。くどいようだが、また別の言い方をすれば、川崎は自分たちの良さで勝つサッカー、鹿島は相手のミスで勝ち切るサッカーともいえる。
これまで日本のサッカーをけん引し席巻してきたのが鹿島や浦和、広島といったいわゆる「ボールをとりたいサッカー」のスタイルのチームである。2016年のCS前に鹿島の選手たちですらも「一発勝負では鹿島に分がある」と発言していたように、一発勝負のトーナメント方式では年間を通じての得失点差等は重要ではない。いかに試合ごとの失点を抑え相手からボールを奪い得点をし、僅差でもよいから勝利するスタイルが効果的というわけである。
サッカーは勝ち負けを決めるスポーツである。勝敗を前にいかなる哲学や戦略も平等である。最後は勝たねば何も語らせてもらえぬ現実はサッカーにはある。
しかし、川崎を率いたの風間八宏監督はそうしたここまで日本を牽引してきたサッカーに対してアンチテーゼを放り込んだ。それが「自分たちのボールを支配することで勝利するサッカー」である。
「日本サッカーはW杯など世界で勝ててない」という事実とともに「Jリーグはつまらない」など言われたりもする。Jリーグも1993年にスタートし既に四半世紀近くが経過している。時間とともに人に飽きられるということはどのようなものでもあるであろうが、その一方で歴史とともに積み上げていかなければならないものがある。
風間監督はそうした環境を踏まえつつ、日本のプロサッカーに勝敗だけではなく、サッカーの面白さとエンターテイメント性を再度強調しているのである。実際、川崎のホームグラウンドである等々力陸上競技場は「等々力劇場」と呼ばれ、劇的なサッカーを嗜好するサポーターが増え続けている。
風間監督は今回の天皇杯決勝戦を最後に川崎の監督を離れることになっている。今回の天皇杯決勝戦は風間サッカーの集大成ということもあるが、日本サッカーの方向性を決める可能性もある重要な試合というわけだ。
今回の天皇杯が今後の日本サッカーのスタイルを決める…といっても過言ではない
日本代表のサッカーにして万年繰り返される「決定力不足」というフレーズ。多くのサポーターも聞き飽きたフレーズであろう。そもそもの原因は対戦相手が格上のチームの場合日本代表の戦術が結果的に相手に合わせ(リスペクトし)がちになるということである。
ハリルホジッチ監督がどれだけ「タテに速いサッカー」を標榜していても対戦相手が格上の場合には簡単には前を向かせてもらえない。また、相手が格下でブロックを敷いた過度にディフェンシブになるような場合にはてこずる。欧州や南米の競合相手に勝ち切れないのは前者のケースであり、W杯のアジア予選レベルで時折苦戦するのは後者のケースだ。
Jリーグがスタートして早くも四半世紀経過している。そうした背景の中で、あらためて日本サッカーとは何かと問われれば、「攻めるサッカーを標榜するものの、アジアではかろうじてやりたいことができても世界大会に出ていくとその良さを消され何もできずに帰国する」というのがこれまで何度となく繰り返されてきたパターンではないだろうか。
面白いことに、ハリル・ジャパンには、クラブW杯でレアル・マドリードに善戦したキーマンである柴崎岳選手は現時点で日本代表の中心選手ではない(【参考】選手情報(2016年招集選手)参照のこと)。鹿島で攻撃に近いポジションの選手が重宝されていない。ハリルホジッチが攻撃を重視しているにもかかわらずである。
その一方で、鹿島のディフェンダーの昌子源選手、植田直通選手、ミッドフィルダーの永木亮太選手といったディフェンスもしくはディエンシブなポジションの選手ばかりである。ハリルホジッチ監督は鹿島のボール奪取の優位性に魅力を感じての選別なのであろうか。
サッカーはシステムである。したがって、個別のチームとそのチームのポジションの選手だけを取り上げて議論することは全体を俯瞰していないという指摘もあろう。ただ、戦略は細部に宿るという言葉もある。他に良い選手がいたといえばそれまでであるが、クラブW杯を終えて改めて日本代表のメンバーについて見直すとハリルホジッチ監督の見方は変わってはいないのだろうか。
まとめに代えて-試合展開予想
いずれにせよ、元旦の天皇杯は次の日本サッカーの方向性を決定づける試合になるという見方をすればより面白く見えるのではないか。
試合展開としては、システムとその運用に強みを持つ鹿島が川崎のパス回しを早い寄せで自由にさせないようにする展開が、前半中心に展開されるであろう。
その後、後半にかけてプレスへの体力が落ちてきたころに、お互いにスペースができる時間帯になった後、川崎がどこまで決定機を得点に結びつけることができるか、また鹿島が川崎のミスに乗じて得点をすることができるかという点が見どころである。
川崎はボランチのエドアルド・ネット選手が出場停止という状況の中、怪我から復帰してきた同じくボランチの大島僚太選手と誰の組み合わせになるのか。中村憲剛選手かそれとも別の選手かどうかが川崎の攻撃の選択肢を考える上での重要なポイントでもある。川崎は先日の天皇杯準決勝の対大宮アルディージャ戦のようにディフェンスラインを高くされ、プレスが厳しいチームは苦手にしているように思う。その中で、どこまで相手を引きはがして決定的なチャンスを作れるかである。
また、鹿島もそうした川崎の攻撃の起点とその良さを抑え込む戦術に出てくることは想像に難くない。お互いに1点が非常に重みをもつ試合となるのではないか。
LIMO編集部