もう一つの理由は、失業の増加は様々な問題を引き起こしかねないからです。失業している人は、賃金がもらえないのみならず、世の中に必要とされているという意識を持ちにくくなってしまうかもしれませんし、社会との接点を失うことで様々な問題が生じるかもしれません。

場合によっては、失業していない人の間でも、「失業者が増えてきたから自分も失業するかもしれない」といった不安が高まるかもしれません。これは決して望ましいことではないでしょう。

最低賃金引き上げで労働移動を促すのは無理

「最低賃金を引き上げれば、安い賃金しか払えないような非効率な企業が雇用を減らすことになり、労働力が効率的な企業に移動する」と考える人がいるかもしれませんが、それは違います。

失業者が大勢いるということは、現在の賃金で労働者を雇いたいと考えている効率的企業は、すでに雇いたいだけ雇っているわけです。したがって、最低賃金の引き上げによって非効率企業が労働者を雇わなくなって失業者が「作り出された」としても、新しく失業した人は失業したままであり、効率的企業に雇われることはないのです。

「非効率企業には労働力を減らしてもらい、作り出された失業者に職業訓練をして、次の好況時に効率的企業で活躍できるようにしよう」ということであれば筆者も賛成ですが、そうであれば先に現在の失業者に職業訓練をしましょう。

現在の失業者の職業訓練が終わってから新しい失業者を作り出せば良いわけで、今ただちに最低賃金を引き上げるのは悲惨な結果をもたらしかねません。