コロナ禍という激動の時代においては、経営や事業に影響を与える「人・組織の問題」を解決することの重要性が大きく増しています。

 筆者はこれまで、企業の組織力を強化するためのコンサルタントとして、採用・人事制度・人材育成にまつわるさまざまなお手伝いを行ってきました。この記事では拙著『人材力・組織力強化アクションリスト』をもとに、多くの企業で課題とされている「人と組織の問題」を解決しようとした際に発生するさまざまな障害に、どうやって対処すればよいのかをお伝えしていきます。

 まずは人や組織の強化を図る際に社内で起こりがちな障害という観点から、社員のタイプを「リアクティブ」「パッシブ」「プロアクティブ」という3つに分けて考えます。それぞれ順番に解説していきましょう。

社員の3つのタイプ「リアクティブ」「パッシブ」「プロアクティブ」

 経営者やリーダーを務めたことのある方は、次のような状況を経験したことがないでしょうか。

・部署のメンバーに、会議の進め方を改善するように伝えると「やったことがないからできない」と言われ、何も変わらない
・残業を減らすように部下に伝えると「仕事が多いから残業は簡単には減らせない」と返される
・異動してきた部下に自分の業務課題と改善策を出すように指示をすると「今までの私の上司は私のことを評価してくれていたので、問題はないと思います」と言われる

 この事例に共通しているのは「リアクティブ」という反応で、人の言動や目の前の出来事に無意識的に反応してしまうことを指します。

 また、「パッシブ」という受動的・受け身を意味する言葉もあります。たとえば、押しの強い取引先からの要求に、おとなしく従ってしまうような状態です。

 一方で「プロアクティブ」という言葉があります。これは先を見越した、事前に行動を起こした・先回りした・積極的な・前向きな、という意味です。いわゆる企業の人事の方が従業員に期待する「主体性・当事者意識・自分ごと化」などは、まさにこの「プロアクティブな人材」の性質を指しています。

 しかし、人と組織を強化するにあたっては、実際のところ、多くの社員は「リアクティブ」です。その対処法について、具体的にお伝えしていきましょう。

「変わりたくない社員」からの抵抗とその対処法

 ここでの「抵抗」の意味は「自分の考え方や行動を変えたくない」というものです。そのため、抵抗する人は「変わることへの恐れを抱いているのと同時に、現状に満足している」という点を押さえる必要があります。

 その上で「合理化による自己防衛」「政治性に基づく自己防衛」「感情的行動による自己防衛」の3つに分けて、「抵抗=自己防衛」の対処法とともに詳しくみていきます。

(1)合理化による自己防衛

 たとえばプロジェクトを推進しているメンバーが「ここまでやってきているから止めるわけにはいかない」という時、その背景には「サンク・コスト(埋没費用)への固執」という心情が見え隠れしています。

 こうした時に私たち組織コンサルタントは「環境Xが環境Yに変わることで、環境X下で有効だったAは、環境Yでは通用しなくなるので、AをBに変えていく必要がある」というロジック(環境適応ロジック)を使用します。

 当人たちが否定されたという感覚を持つことなく、「現状から変わる必要性」を訴求するロジックですので、ぜひ使ってみてください。

(2)政治性に基づく自己防衛

 いわゆる「職場の主(ヌシ)」「お局(ツボネ)様」「マウンティング女子」「マウンティングおじさん」などに見られる傾向です。彼らは「自分のほうが比較して優位」と思いたいがために主張や抵抗をします。

 対処法には「数字を突きつけてシビアな現実を認識させる」「一目置かれている人物の影響力を活用する」などがありますが、彼らは現実を直視することへの恐れを無意識に持っています。そこで、否定的な言動や現実への直視の強制だけはしないようにしましょう。まず間違いなく、敵対的関係になりますので、その点、慎重さが必要です。

(3)感情的行動による自己防衛

 新しい取り組みに対して斜に構えた態度をとる従業員や、何かと理由をつけて集まりに参加しない従業員がいる、ということはありませんでしょうか。

 彼らは未知のものへの恐怖、自分の能力が通用しなくなるという不安を抱いていることが多いため、「論理と事実をベースとする対話で危機感を高めて当事者意識を持たせる」「傾聴を通じて、感情的な恐れや不安を受け止める」などの対処をとります。

交渉力とコンフリクトマネジメントが鍵を握る

 抵抗を示す人に対しては「否定しない」「敵視しない」ことが重要とたびたび言いながらも、言うは易く行うは難しです。そこで実際には、「交渉力」と「コンフリクトマネジメント(コンフリクトは「対立」「軋轢」の意)」というビジネススキルが必須になってきます。

 その重要な観点としては「共通のゴール設定」「自覚的な交渉スタイルの確立」「実質的問題と感情的問題の区別」「コンフリクトの根本原因の把握」の4点があります。

(1)共通のゴール設定

 いわゆる「落としどころ」のことですが、不思議なもので、共通に目指すべき/目指したいゴールについて情報や意見の交換をしていると、対立状態から調和的な状態に移行していきます。勇気を出して、抵抗を示す人たちと共通のゴールに関して話し合ってみましょう。

(2)自覚的な交渉スタイルの確立

 多くのビジネスパーソンが時間のない中でスキルを身につけるためには、日常的に生じる各種の交渉の場を利用して、自らが何を考え、何を話し、相手がどのような言動をとって、最終的にどうなったのか、という「自己観察」を行いましょう。

 そこから「自分なりの特徴や癖を把握」した上で「それを補えるスキルを交渉術やネゴシエーションスキルの書物から学び実践する」と効率的です。

(3)実質的問題と感情的問題の区別

 会社で起きるさまざまな事柄は、「実質的問題」と「感情的問題」の2つがセットになっていることが極めて多いため、基本としては実質的問題に集中してコンフリクトを解消します。

 しかし、その際に感情的問題は無視できないことから、「ものの言い方に配慮する」「約束を守る」「感じていることを伝え合う」などの手段が大切になってきます。

(4)コンフリクトの根本原因の把握

 コンフリクトが起こる原因としては、まず時間的な制約や業績へのプレッシャーなどの「外部要因」が挙げられます。一方で、対抗意識・相性・仕事上のスタイル・ストレスの許容度などの「内部要因」と呼ばれるものもあります。

 外部要因については簡単に変えられないものが多いため、必然的に内部要因に焦点を当てて解決を図ることになります。つまり「変えられるものに集中する」ということが重要です。

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この記事の要点のまとめ

 人と組織の課題改善に着手する際には、以下の2点をあらかじめ検討して、実行時の「障害」に備えましょう。

・変革を実行する際には「合理化」「政治性」「感情的行動」などに基づくさまざまな抵抗が必ずあるものと心得たうえで、プロアクティブな対処法を事前に用意しておくことが重要

・抵抗への対処は、交渉力とコンフリクトマネジメント、つまり「共通のゴール設定」「自覚的な交渉スタイルの確立」「実質的問題と感情的問題の区別」「コンフリクトの根本原因の把握」の4点を意識して実践する

 

■ 清水 裕一(しみず・ゆういち)
 株式会社コアインテグリティー代表取締役。大学卒業後アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)、ザ・ヒューマン株式会社(現ヒューマンアカデミー株式会社)を経て、株式会社リンクアンドモチベーション入社。同社で採用・育成、人事制度・組織開発の各種コンサルティング等を手掛け、創業期の中心的メンバーとして活躍。その後アルー株式会社にて、責任者として研修プログラムの企画・開発を手掛ける。2015年株式会社コアインテグリティーを創業。中小企業の健全な成長・発展を支援すべく、事業計画立案支援、人事制度・営業力強化等のコンサルティング及びビジネススキル研修を中心とする各種プログラムを提供。

 

清水氏の著書:
人材力・組織力強化アクションリスト

清水 裕一