現在、新型コロナウイルスの世界的流行によって、企業経営は二極化が鮮明になっています。中小企業庁によると、2016年の日本の中小企業数は358万社、小規模企業と中規模企業は合わせて企業全体の98.9%にも及びます。その中小企業でよく挙がる問題は「慢性的な人材不足」「一人当たりの生産性の低下」「後継者不足」——つまり「人と組織」にまつわる問題です。

 つまり今現在、苦境に立たされている中小企業の多くでも「人と組織」という問題を抱えているということになります。そして筆者はこうしたコロナ禍のような状況下では、かねてより存在する普遍的な課題は一層浮き彫りとなり、その傾向が顕著になると考えています。

 筆者はこれまで、企業の組織力を強化するためのコンサルタントとして、採用・人事制度・人材育成にまつわる様々なお手伝いを行ってきました。この記事では拙著『人材力・組織力強化アクションリスト』をもとに、多くの企業で課題とされている「人と組織の問題」を解決するためのプロセスをどう考えればよいのかをお伝えしていきます。

経営・事業に影響を与える「人や組織の問題解決」の重要性が増している

 たとえば、リーダーや管理職、あるいは経営者の方々であれば、次のような「人材・組織の問題」に頭を悩ませたことがある方もいるのではないでしょうか。

(1)思うように人材が採用できない
(2)実務偏重で、人材育成や組織の維持運用が後手に回りがち
(3)コンプライアンスに対する意識が全社的に希薄であり、ひとたび問題が公になった場合、その対応にも問題がある
(4)人材育成や組織の維持運用がうまくいっていないことで、財務基盤・顧客基盤に悪影響を与えている
(5)経営・事業目標のレベルに対して、人材・組織の力が追い付いていない
(6)経営・事業を伸ばす一つの道筋として、人材・組織の力の強化があるという認識が経営層に希薄

 こうした問題がありながらも、事業の成長や成功のための施策が中心になり、人材や組織に関する問題解決は後回しにされがちです。

 しかしながら、人材や組織に関する問題解決は、市場動向や顧客ニーズに応える上で、全社または部署のパフォーマンス向上実現のためには避けては通れない重要事項だと言えます。そのため、企業経営の土台が揺らぎやすい昨今においては、その重要性が日に日に増していると考えます。

会社は「売上・利益偏重」で狂い、「仲良しクラブ」で潰れる

 人と組織の問題についてもう少し具体的にお伝えすると、会社は「売上・利益偏重」で狂い、「仲良しクラブ」で潰れます。「売上・利益偏重」というのは、ブラック企業がその極端な例ですが、ブラック企業ほどではないにせよ「売上・利益偏重」な会社では次のような事象がみられます。

・勤怠状況が全体的にルーズになる
・各種提出物の提出状況が良くない
・オフィスでの生活ルールが順守されない(具体的には会議室の使い方が荒れる、給湯スペースやコピー機まわりが乱雑、床やデスクの汚れやほこりに無頓着等)
・来客に対して挨拶や応対をしない
・メンタル疾患の従業員の対応に人事が追われる

 あなたの会社ではどのくらい、これらの事象がみられるでしょうか。

 一方、「仲良しクラブ」と化している会社でみられる事象を考えてみましょう。ここでいう「仲良しクラブ」とは、現実に仲がよいか否かはさておき、「目的や目標に対して真摯な努力をせずに、なんとなく同じ会社の一員として漫然と日々を過ごしている」という意味です。

・業務ルールが順守されないままの状態が当たり前になっている
・会社の資産やオフィス備品が私物化されても分からない管理状況にある
・昼食休憩時間や定時退社時刻はしっかりと守るが、個々の業務の期日にはルーズ
・パワハラ・セクハラ等が存在しているが、是々非々で対処されない

 こうした問題については「あるある」「わかるわかる」と思われる方も多いのではないでしょうか。

「会社の理想の姿」を真摯に考えてみる

 一方で、もしあなたが中小企業、しかもオーナー企業の社長だとしたら、あなたは会社の理想の姿をどのように描くでしょうか。

 ビジネススキルの一つである問題解決思考では「あるべき姿・現状・理想とのギャップ」の3点を描くことが、まず重要とされています。そこでまずは「会社の理想の姿」を考えてみましょう。その際には「会社の理想の姿」が言葉だけの空っぽなものになってしまうことがないようにすることが必要です。重要なのは、あなたの会社が株式会社の場合、「収益性・成長性・継続性」を満たす、ということです。

 ここを踏まえて「会社の理想の姿」を「言葉」で明確にすることを強くお勧めします。そして「会社の理想の姿と人材力・組織力強化」という目的との整合を取るべく「収益性・成長性・継続性」を牽引、または下支えするような施策を実施することも併せてお勧めします。

 ただし、中小企業における施策を検討する上で、大企業を参考にすることがあるかもしれませんが、その成功事例の9割は役に立たないと思ったほうが良いでしょう。その理由は3つあります。「資金量の違い」「人材の質と量の違い」「社会的影響力の違い」が存在するため、大企業の成功事例は、そのままでは中小企業に適用しづらいのです。

人材力・組織力強化に取り組めるか否かは、プロジェクトとして開始するか否かによる

「会社の理想の姿」に対して、たとえば会社の「現状」が「会社は売上・利益偏重で狂い、仲良しクラブで潰れる」に記したような問題が見えているとします。ではその時、どのように解決を図るのが最もよいのでしょうか。

「プロジェクト(案件)として開始とゴールを設定し、人材力・組織力強化(のプロジェクト)にどのように取り組むかを明確にする」というのが、筆者の顧客企業の多くで行われている解決の図り方であり、筆者もお勧めするものです。そして極めて重要なのは、意思を持った人の存在———。つまり「もっと○○したい/○○でありたい」「不満や不足等、何かを解消したい」という意思を持っている人の存在が、プロジェクトを立ち上げる際に不可欠な要素となってきます。

 プロジェクトを進める際には、まずは「Before/After」をそれぞれ明確にするところから始めましょう。

「Before」とはプロジェクト立ち上げ時の従業員や会社の状態を指し、「After」とはプロジェクトにより変わった後の従業員や会社の状態です。Afterはゴール(到達点)とも言えます。重要なことは、BeforeとAfterがそれぞれ明確でないと、プロジェクトにおいて具体的に何に取り組むべきかが描けない、という点にあります。

 具体的な取り組み=テーマ設定にあたっては、よくみられる人材力・組織力強化のテーマ例として「人事制度の刷新」「企業研修体系の見直し」「組織的な営業力強化」等があります。つまり、多少粗くても構わないので「要は何に取り組むか」を決めます。

 その後、設定したテーマに対してどのような点が検討ポイントになるかの詳細を詰めていき、いよいよ実行フェーズへと移っていくのです。

筆者の清水裕一氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

この記事の要点のまとめ

・中小企業経営が外部環境の激変で二極化傾向を示していく中、経営・事業に影響を与える人・組織の問題を解決する重要性が従来以上に増している。

・そこで、学問的・実証的に裏打ちされた各種知見を用いた「人材力・組織力強化」のプロジェクトを発足させ、人材力・組織力の強化を本気で取り組む体制をつくることが必要。この時、一旦は目先の問題、例えば事業の課題などから離れる決断が求められる。

・人と組織の問題を解決するためには、まず「会社の理想の姿、現状、あるべき姿と現状のギャップ」の3点を言葉にする。その際、言葉だけの空っぽなものにならないよう「収益性・成長性・継続性」の観点を交えて考える。

・プロジェクトの推進にあたっては、Before/Afterに基づく具体的な取り組み=テーマ設定を行う。その後、設定したテーマをもとに具体的な検討ポイントの詳細を詰めて、実行フェーズへと進む。

 

■ 清水 裕一(しみず・ゆういち)
 株式会社コアインテグリティー代表取締役。大学卒業後アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)、ザ・ヒューマン株式会社(現ヒューマンアカデミー株式会社)を経て、株式会社リンクアンドモチベーション入社。同社で採用・育成、人事制度・組織開発の各種コンサルティング等を手掛け、創業期の中心的メンバーとして活躍。その後アルー株式会社にて、責任者として研修プログラムの企画・開発を手掛ける。2015年株式会社コアインテグリティーを創業。中小企業の健全な成長・発展を支援すべく、事業計画立案支援、人事制度・営業力強化等のコンサルティング及びビジネススキル研修を中心とする各種プログラムを提供。

 

清水氏の著書:
人材力・組織力強化アクションリスト

清水 裕一