私はこれまで国内の大手生命保険会社の勤務経験を経て、フィナンシャルプランナーとして1000世帯以上のお客様のフィナンシャル・プランニングに携わってきました。

できることなら、生涯で受け取れる年金は少しでも多いと嬉しいですよね。

最近では、受給額が増額される「繰下げ受給」が注目を集めることも多いですが、一方で自分の寿命が何歳までか分からない以上、「もらえる間にもらっておきたい」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回はそんな「はやくもらいたい派」のみなさんが、年金の繰上げ受給を選択する場合のメリットとデメリットについてみていきたいと思います。

繰上げ受給の「メリット」

2021年現在、老齢年金の受け取り開始は原則65歳ですので、それより若い時期に退職した場合、その後の収入に心配がでてきます。

今回のテーマである「繰り上げ受給」は、希望すれば60歳から65歳になるまでの間も年金を受け取ることができる制度です。

年金の受け取り開始は原則65歳とはいえ、勤め先の定年退職も同じ65歳とは限りません。定年退職が60歳であったり、再雇用で65歳まで働くことはできるけど収入は大幅に下がったりすることもあります。

60代になると体力の低下・健康面で日常生活に制限が出ている場合も。また、仕事以外のことに時間を使って人生を楽しみたいという方もいらっしゃるでしょう。

預貯金が十分にあり、年金を受け取らなくても悠々自適に生活できるという場合を除き、公的年金からの収入は生活を継続するための支えになります。

繰上げ受給のメリットは「働かない(働けない)状態でも収入を得られること」に尽きるのではないでしょうか。

では、繰上げ受給のデメリットとは…?次で詳しくお話していきますね。

繰上げ受給「3つのデメリット」

つづいて、繰上げ受給のデメリットをみていきましょう。今回は大きく3つのデメリットに分けてお話しします。

デメリット①「年金額の減額」

例えば、厚生労働省の公表によると、令和3年度の老齢基礎年金額は満額で78万900円となっています。

繰上げ受給をすると、本来受け取れる年金額から一ヶ月あたり0.5%減額され、最大減額率(60歳で5年の繰上げ受給を申請した場合)は30%です。

※令和4年(2022年)4月1日以降に60歳に到達する人を対象に、減額率は0.5%から0.4%に引き下げられる予定となっています。

78万900円から30%減額されると、54万6630円になります。これを月額になおすと約4万5000円です。

「老後は“毎日が夏休み”だから、意外とお金がかかるのよ」なんてお話を、人生の先輩方からはよく聞きます。

しかし、お友達どうしや夫婦で趣味・レジャーを楽しんだり、お孫さんへプレゼントを贈ったりするなど、ゆとりをもった老後を送るには、4万5000円だけで生活するというのは現実的ではないでしょう。

デメリット②「減額率は一生涯固定される」

さきほどお話しした減額率は、一生涯固定されます。つまり、65歳以降もずっと減額された年金額での受給ということです。

60~64歳の間だけ減額されるわけではありませんので、仕事をして年金以外に収入がある間は何とかなるかもしれません。しかし、完全に年金のみの暮らしに突入すると生活費としてはかなり不足しそうですね。

デメリット③「在職老齢年金の支給制限がかかりやすくなる」

在職老齢年金とは、厚生年金を受給しながら、厚生年金の被保険者として仕事を続けている場合にその金額に応じて年金の支給に制限がかかる制度です。

65歳未満の場合、現時点では、受給している老齢厚生年金の基本月額総報酬月額相当額(給与)との合計が28万円以上になると、28万円を超えた部分の半分が「支給停止」になります。

「基本月額」と「総報酬月額相当額の計算式」

基本月額
加給年金額を除いた特別支給の老齢厚生(退職共済)年金の月額

総報酬月額相当額
(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12


繰上げ受給はメリットだけではなく、複雑なデメリットの面もありますので、検討する際はよく理解してから申請するようにしましょう。

みんなの「働きたい理由」と「退職したい理由」

ところで、みなさんは「働きたい派」と「退職したい派」、どちらでしょうか?
内閣府「老後の生活設計と公的年金に関する世論調査」によると、「何歳まで収入を伴う仕事をしたいか(したか)」の回答の第1位は「61~65歳」で30.7%です。

男女別に見ると、女性は「51歳~60歳」、男性は「61~65歳」「66歳~70歳」と答えた割合が高くなっています。

ここでは、みんなの「その年齢まで働きたい(いた)理由」と「退職したい(した)理由」についても簡単に目を通しておきましょう。

働きたい(働いた)理由

  • 経済的にゆとりある生活を送りたいから…28.9%
  • 働き続けないと生活費が足りないと思うから…24.9%
  • 仕事をするのが好きだから…16.9%
  • 社会との繋がりが欲しいから…13.4%
  • 定年退職の年齢だから…7.0%

働きたい理由では、経済的な理由が53.8%と半数以上を占めています。逆に言えば、経済的な心配がなければ退職してセカンドライフを楽しむことができるともいえそうです。

退職したい(退職した)理由

  • 定年退職の年齢だから…29.2%
  • 体力的・精神的に難しいから…29.0%
  • 趣味やボランティアなど仕事以外のことに時間を使いたいから…17.0%
  • 年金を受け取れる年齢になるから…9.8%
  • 配偶者や子どもなどの収入があるから…4.1%
  • 資産が十分にあるから…0.5%

また、男女別に見ると「趣味やボランティアなど仕事以外のことに時間を使いたいから」・「定年退職の年齢だから」と答えた割合は男性が高く、「体力的・精神的に難しいから」と答えた割合は女性で高くなっています。

老後資金の収入源。理想は「3つをバランスよく」

老後資金は、おもに「年金を受給する」「定年退職後も働き収入を得る」「老後をむかえるまでに投資などで資産形成しておく」といった3つの収入源に分けられます。

理想をいえば、どれか1つの方法に頼るのではなく、3つの方法のバランスが保たれている状態をつくっておくと、いざ老後をむかえたときの選択肢が広がります。

年金制度は今後もかわっていく可能性があり、定年後に仕事を続けられるかは健康面・勤め先の規定などにより、希望通りにはいかないこともあります。

そんなときでも慌てないように、いまから老後に向けた資産形成をしておくといずれ訪れる老後生活にもポジティブになれるかもしれませんね。

参考資料

尾崎 絵実