郵政3社株、上々の滑り出しだったが

日本郵政(6178)、かんぽ生命保険(7181)、ゆうちょ銀行(7182)が鳴り物入りで上場したのが2015年11月4日、それから1年以上が経過しました。

上場時には大いにもてはやされ、かつてのNTT株を彷彿させるかと一瞬感じる時もありました。初値は公募価格に対してそれぞれ+17%、+33%、+16%と大幅に上回りましたので、しめたと思った方も多いでしょう。

公募価格に対しては2勝1敗、初値に対しては全敗

では、公募価格、上場初値、直近株価を比べてみましょう。

  公募価格 上場初値 直近終値
日本郵政 1,400円 1,631円 1,414円
かんぽ生命保険 2,200円 2,929円 2,320円
ゆうちょ銀行 1,450円 1,680円 1,354円

 

ここで直近終値とは、2016年11月22日の東証終値を指しています。また、以下の分析では配当を除外して考えています。

まず、公募価格と直近終値を見ると、日本郵政とかんぽ生命は足元の株価が公募価格を上回っていますが、ゆうちょ銀行は下回っており、2勝1敗です。

次に初値と直近終値を見ると、3社が全て初値を下回り、全敗となっています。

公募に参加された方の中には「初値で売っておけば」と思っている方も多いでしょう。初値で買った方は「しまった、高値掴みだった」と思っている方もいらっしゃるはずです。

株価の推移の過去1年間(上場直後のハネムーンの時期を外しています)を以下のグラフでご確認ください。

青が日本郵政、赤がかんぽ生命保険、緑がゆうちょ銀行、オレンジがTOPIXです。

郵政3社の過去1年間の株価推移

救いは配当利回りと低いバリュエーション

株価の推移はこの通りでしたが、次に株価の評価を考えてみましょう。ここでは、ごくシンプルに代表的な株価指標を見てみます。

  PER PBR 配当利回り
日本郵政 18倍 0.4倍 3.5%
かんぽ生命保険 16倍 0.8倍 2.6%
ゆうちょ銀行 17倍 0.4倍 3.7%

 

PERは今の株価は1年間の一株利益の何倍か(何年分か)、PBRは今の株価は解散価値に対して何倍かをおおよそ示しているとお考えください(専門的には細かい議論が要りますがここでは省略します)。

ここでわかることは、PERは市場平均並み、PBRは市場平均を大きく下回る、配当利回りは市場平均を大きく上回る、ということです。

世間的にはROE8%でPBR1倍というのが一つの目安ですが、この3社はともにPBRが大きく1を下回っており、市場が期待するROEの低さを物語ります。この資本の収益性の低さを補うため、配当を手厚く支払っていて配当利回りが高くなっているのです。

さて、この解散価値をもとにしたPBRの低さは、株価には一定の下支え要因です。高い配当利回りも、収益基盤がしっかりしている限り、株価の下支え要因と言ってよいでしょう。売り逃したという投資家の方も、売り急ぐ必要をあまり感じないかもしれません。

ただし、解散価値はストレス下では小さくなる可能性がありますし、配当を維持できるかは利益と資本の安定が決め手ですので、絶対的な下支えとはなりません。この点は留意が必要です。

マイナス金利と資源安

日本郵政の業績はなかなか厳しい数値になりました。2016年4-9月期の経常利益実績は3,032億円(対前年同期比▲36%減)、通期の経常利益の会社予想は7,700億円(同▲20%減)とされています。金利低下、保険保有契約の減少、人件費の上昇などが効きました。

気になるのは、大型買収を経て2015年7月以降連結に反映を始めた豪トール社が資源関連の低迷で収益を悪化させていることです。

あなたならどうする?

郵政3社の株は今後も市場に株が放出されていくと思われます。その価格が初回の公募価格を下回ることは許されないのではないでしょうか。現在の株価は3社とも初回の公募価格に近い水準ですから、少しでも早く市場の評価を引き上げなければならないはずです。日本郵便の全国ネットワークや民間保険の役割の拡大など、事業ポテンシャルを少しでも早く業績に結び付けられるよう期待をしたいと思います。

特に、現在ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険からの手数料で支えられている日本郵便の収益力改善は待ったなしです。郵政3社の株を保有する個人投資家の方は、高い配当利回りに遠慮することなく、議決権行使を通じて資本効率の改善と株価評価の上昇を強く働きかけるべきでしょう。

とはいえ、旧公社の民営化が成功するのに時間を要するのはしかたのないことかもしれません。経営のスピード感という点で、思い切って銘柄を入れ替えてみるのもありでしょう。郵政上場で印象がピリッとしたのは、みずほフィナンシャルグループなど従来の民間金融機関や(直接の関係はありませんが)日本電信電話です。金融や公益セクターで配当利回りが高いものを検討してはいかがでしょうか。

 

LIMO編集部