人気商品やサービスほど「あれ俺も考えてたよ」と言う人が多い理由

日本のビジネスを救う「日本らしさ」とは?

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 あなたの周りに、人気の商品やサービスが登場すると、「あれ、自分も考えてたんだよね」と言う人はいないでしょうか? 実態のないアイデアの存在を疑うことは難しいですが、こう言われても「そんなはずがない」と思う人が大半でしょう。

 ですが実際に、人気の出るアイデアは「どこかで見たようなもの」や「すでにありそうなもの」が多かったりします。

 この記事では、拙著『すべてのビジネスに、日本らしさを。』をもとに、すでに「誰かが考えていた」ようなアイデアが人気になる理由について解説します。

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良いアイデアは「いまあるもの」を掛け合わせたからこそ理解される

 話題になったアイデアが、すべて斬新なものとはかぎりません。なぜならアイデアを考えることは、ゼロから「生み出す」のではなく、掛け合わせを「見つける」作業だからです。活躍するクリエイターやプロデューサーは、既存の価値に異質の価値を掛け合わせることでアイデアを発見しています。現在人気の商品や支持されている多くのサービスも、既存の価値の「掛け合わせ」で生み出されているのです。

 「既存のものどうしを掛け合わせても、ありきたりなものしか生まれないのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし既存同士の掛け合わせによって生まれるアイデアは、これまでにない新しいプロダクトや業態の発明を生み出します。

 たとえば、広島県尾道市に「ONOMICHI U2」という、サイクリスト専用の人気ホテルがあります。瀬戸内海に浮かぶ島々を7つの橋で結ぶしまなみ海道は、青い海、緑豊かな島、美しい橋が織り成す風景から「サイクリストの聖地」として知られています。そのしまなみ海道のたもとに、太平洋戦争中に建てられ、長らく使われておらず眠ったままだった大型海運倉庫がありました。建築家の谷尻誠さんが、その倉庫をリノベーションし、自転車に乗ったままチェックインできるホテルやレストランを備えた複合施設へと生まれ変わらせたのです。

「デザインホテル」も「サイクリング」も既存の存在ですが、「サイクリスト専用のデザインホテル」は、まだ「名付けられていない価値」です。既存の価値を掛け合わせたことで、意外性と共感性のあるアイデアが生まれました。人は未知の価値に出会ったとき、記憶のなかにある情報を頼りにして理解しようと努めます。つまり、記憶のなかにある体験や情報と結びつくことで初めて、その価値や新しさを理解できるのです。すでに知っている価値が掛け合わされるからこそ、それを見た人の中に「理解」が生まれ、そのうえで「意外性」や「面白さ」を感じてもらえるのです。

流行るアイデアほど「単純」である

 いちばん強い力を持つアイデアとは、「課題×課題」の掛け合わせです。たとえば「エアビーアンドビー」。「空室を活用したい家主」と「できるだけ安く泊まりたい旅行客」、両者の課題を同時に叶えることで、これまでにないアイデアが生まれました。

 二者の課題を解決するだけでも十分に素晴らしいアイデアとなりますが、さらに複数の課題を同時に解決できるアイデアは、より強い力を持ちます。

 私がお手伝いした「Genius Table in Kyoto」でも、その点が意識されています。京都では数多くの学会が開かれており、世界各地から研究者や学者たちが訪れています。しかし多くの学者は「大学の外に出て京都のローカルな体験を楽しめない」という課題を抱えていました。京都の街も、「学者や研究者たちとの交流やつながりが持てていない」という課題がありました。

 そこで考えたのが、学者たちのランチ時間を活用し、地元の学生の案内により、寺社や工房などでランチをしながら交流できるサービス「Genius Table in Kyoto」です。日本に根付くリアルな生活を体感したい海外の学者、京都のよさを知ってもらいたい地元の人、そして世界の知識に触れて学びを得たい学生、この三者の課題をすべて叶える方法を模索した結果、多くの人に支持されるアイデアが生まれました。

ヒットのカギは、すでにこの世に存在している

 人が心のなかで願っていたコトやモノが具現化されたときも、それは人気の商品やサービスとなります。同じく私がお手伝いした、実際の時代劇のセットのなかでお酒を楽しめる「太秦(うずまさ)江戸酒場」が多くの方に熱狂をもって受け入れられたのも、人々の心に無意識の願いがあったからだと考えています。

 時代劇には必ずといっていいほど、食事処のシーンがでてきます。噂話などの情報を仕入れるために必要なシーンですが、そこで繰り広げられる粋な会話や、侍などが豪快に食事をする姿には、現代にはない魅力があります。「この世界観のなかに自分も入ってみたい」という欲望は、時代劇好きなら誰もが描いたことのある夢だったのです。

 このように「人々の密かな願い」には、人気アイデアのヒントが隠れています。アニメーション映画『君の名は。』のプロデューサーである川村元気さんは、これを「集合的無意識を発見すること」とも表現しています。良いアイデアとは、すでに人々の心のなかにある「願い」を実現しただけということも多いのです。

 また、現代では「テクノロジー」を取り入れるだけでも新しい価値が生まれます。たとえば、日本文化を担う第一人者を講師としてお迎えし、日本文化が大切にしている哲学や美意識を学べる「JAPAN MASTER CLASS」というオンライン番組があります。オンラインの手軽さによって、「興味はあったけど実際のお稽古はハードルが高い」と感じていた多くの方に視聴され、人気番組となりました。

 能楽金剛流の若宗家、金剛龍謹(こんごう・たつのり)さんのところには、オンラインを通じて海外からも弟子が入門されたそうです。「これまでやっていたことをオンラインで流しただけ」でも、人気アイデアになることもあるのです。

筆者の各務亮氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

支持されるアイデアは、たった「3%の変化」

 定番といわれる「古典」にも人気の秘訣があります。長い歴史を乗り越え、その価値が語り継がれてきた古典には、耐久性の高い魅力が宿っています。ハリウッドを代表する映画のひとつである「スターウォーズ」には、そのプロットに黒澤明監督の「七人の侍」の原型が盛り込まれているのは有名な話です。定番、つまり「ベタ」なものは、それを愛する多くのファンがいるから定番的な人気になっているのです。

 現代まで人気が続き、スタンダードとなった商品やサービスの陰には、「それを愛し支えた人」、つまり思い出や熱い想いを持っている「ファン」が存在しています。彼らは商品やブランドの「らしさ」に心奪われています。そんな心理を無視して「斬新なもの」を生み出しても、世間どころか、これまでのファンですら支持してくれません。

「変化は3%でいい」。これは2019年春夏シーズンから「ルイ・ヴィトン」のメンズウェア・クリエイティブディレクターを担当するヴァージル・アブローというデザイナーの言葉です。「NIKE」や「モンクレール」といった世界中のブランドとコラボしている彼は、「ルイ・ヴィトンを革新させるためには少しの変化で十分」と語っています。イノベーションというと「過去を捨てて生まれ変わらなくてはいけない」と思いがちですが、伝統を少しアップデートするだけでも十分に新鮮に見せられるということです。

 このように、人気の商品やサービスは、これまでの「らしさ」や「伝統」をベースに、新たな「技術」や「人々の願い」をマッチさせています。だからヒットするアイデアほど「どこかで見たような」「これまでにもあったような」存在に感じられるのです。思わず「それくらい、自分だって考えていたよ」と言ってしまうくらい、誰もが密かに「ほしい」と思っていたアイデアは、こうして生み出されるのです。

 

■ 各務 亮(かがみ・りょう)
THE KYOTO 編集長&クリエイティブディレクター。2002年から中国、シンガポール、インドなど電通海外拠点を移り住み、2012年から電通京都支社へ。京都から日本ならではのグローバル価値を生み出すべく「GO ON」「太秦江戸酒場」「夕暮能」など、伝統に異分野を掛け合わせたまったく新しい商品、サービス、事業を多数立ち上げ。2020年6月には京都発、文化&アートのプラットフォーム「THE KYOTO」を起業し、編集長&クリエイティブディレクターに。京都芸術大学非常勤講師。佐治敬三賞、カンヌライオン、D&ADなど受賞。内閣府 クールジャパン戦略推進会議メンバー、経産省 クールジャパンビジネスプロデューサー、観光庁 目利きプロデューサー、京都市 産業戦略懇談会委員、京都市 京都市伝統産業活性化推進審議会委員など歴任。

 

各務氏の著書:
すべてのビジネスに、日本らしさを。

各務 亮

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執筆者
  • 各務 亮
  • THE KYOTO 編集長&クリエイティブディレクター

2002年から中国、シンガポール、インドなど電通海外拠点を移り住み、2012年から電通京都支社へ。京都から日本ならではのグローバル価値を生み出すべく「GO ON」「太秦江戸酒場」「夕暮能」など、伝統に異分野を掛け合わせたまったく新しい商品、サービス、事業を多数立ち上げ。2020年6月には京都発、文化&アートのプラットフォーム「THE KYOTO」を起業し、編集長&クリエイティブディレクターに。京都芸術大学非常勤講師。佐治敬三賞、カンヌライオン、D&ADなど受賞。内閣府 クールジャパン戦略推進会議メンバー、経産省 クールジャパンビジネスプロデューサー、観光庁 目利きプロデューサー、京都市 産業戦略懇談会委員、京都市 京都市伝統産業活性化推進審議会委員など歴任。