トランプ新大統領の誕生決定にかき消されたトヨタの決算
11月8日、トヨタ自動車(7203)が2017年3月期の上期決算(4-9月期)を発表しました。トヨタは、今回の上期決算発表シーズンで最も注目が高い銘柄の1つです。しかし、皆さんの中には、“あー、そう言えば発表していたね”とか、“もうすっかり忘れちゃったよ”という人も多いのではないでしょうか。
トヨタの決算の印象がいつになく薄いのも無理はありません。発表日の8日はともかく、決算内容が株価に反映される翌日(9日)は、前場から“もしトラ”の実現性が高まったことで、株式市場はトヨタの決算どころではありませんでした。
そして、急落した株式相場は、翌10日から急上昇に転じており、週明け14日も大幅高が続くなど激動です。少なくとも、今の株式相場は企業業績を吟味する業績相場から大きく懸け離れた状態にあります。
上期実績は円高の影響などで大幅減益
ただ、現在の“トランプノミクス相場”は、息の長いテーマであることは確かですが、徐々に落ち着きを取り戻すと考えられます。企業業績が改めて見直される局面も訪れるでしょう。そこで、先のトヨタの決算を今一度振り返ってみます。
上期の実績は、売上高が対前年同期比▲7%減、営業利益が同▲30%減、最終利益が同▲25%減となりました。円高の影響、諸経費の増加、一部新興国市場の減速などにより、大幅減益を強いられました。
一方、2017年3月通期予想は上方修正
一方、同時に公表された2017年3月通期の業績見通しは、営業利益、最終利益とも従来予想から+1,000億円の上方修正となりました。なお、下期の為替レートの前提は100円/ドルです。
さて、この決算発表を受けて株価はどう動いたのでしょうか。
決算発表後のトヨタ株は、ほぼ市場平均並みの騰落率
前述の通り、発表翌日からトランプ新大統領誕生の衝撃、いわゆる“まじトラ”の影響を受けて株式市場が大きく動きました。もちろん、トヨタ株も例外ではありません。終値ベースで見たトヨタ株の騰落率は、発表翌日の9日が▲6.5%下落、10日が+5.9%上昇、11日が+1.9%上昇と推移し、週明け14日も午前の終値が+1.2%上昇となっています(いずれも前日比)。
株式相場の激変に巻き込まれた形のため、トヨタの決算内容がどのように評価されているのか分かり難くなっています。
株式市場全体と比較してみましょう。8日の終値から14日の午前終値までの騰落率を見ると、日経平均株価が+2.7%上昇、TOPIXが+2.5%上昇なのに対して、トヨタ株は+2.2%上昇となっています。市場全体に対して若干ビハインドしていますが、概ね同等のパフォーマンスと見ることもできます。
107円/ドルの円安水準を勘案すると物足りなさは否めない
しかし、トランプ氏の勝利以降、為替レートが107円/ドルを超える大幅な円安に振れていることを勘案すると、トヨタ株のパフォーマンスはやや物足りないと言えるのではないでしょうか。意外感が強いことは否めないと見られます。
こうした大幅な円安進行にも拘らず、トヨタ株に対する評価が今一つとなっている理由は何でしょうか?
上方修正しても大幅減益という現実
まず、トヨタは2017年3月通期の業績予想を上方修正しましたが、それでも、上方修正後の営業利益は対前期比▲40%減の大幅減益になる計画です。確かに、上方修正は好印象ですが、一方で、“それでも▲40%減益か”という懸念もあるでしょう。こうした冷静な見方が株価に影響していると考えられます。
ただ、下期の為替前提が100円/ドルですから、現状の為替水準が続けば、上振れは十分見込めます。したがって、他にも何か理由があると考えられます。
収益源の米国市場で異変が起きつつあるのか?
実はもう1点、今回、トヨタは北米地域(主に米国)の販売計画を引き下げました。従来計画比で約▲6万台の下方修正、かなり大きな修正です。これは、トヨタの商品ラインアップの問題もありますが、米国市場に頭打ち感が出ていることが主要因と見られます。
米国市場と言えば、トヨタを始めとする日本車メーカーにとっては最大の収益源であり、ここ2~3年の業績拡大に大きな貢献を果たしたことは説明不要です。
ご祝儀相場が終われば米国市場の懸念再燃の可能性も
円安を好感する一方で、米国市場の伸び悩みを懸念し、いや、もう一歩進んで、米国市場の減速を懸念している可能性は十分に考えられます。
実は、トヨタ以外の自動車株も、同じような傾向を示しているものが数多くあります。トランプ氏当選のご祝儀相場が終わると、米国市場の先行きに一層の注目が集まる可能性が高いと言えましょう。円安になっても、トヨタなど自動車株への懸念は尽きないようです。
LIMO編集部