米大統領選でのトランプ氏の勝利は、日本の株式市場に多大な影響をもたらしました。11月9日の大暴落を翌10日の1日で取り返した形になりましたが、化学メーカーの中で時価総額が世界第9位の信越化学工業(4063)の株価も、急落した9日の終値に対して10日は+11.4%も上昇しています。
筆者はアナリストとして化学セクターを長年ウォッチしていますが、こんなに軽々と上昇する信越化学工業株は見たことがありません。その理由を考えてみました。
時価総額の大きい信越化学株が11%超の上昇に
11月9日に暴落した日経平均株価ですが、翌10日は前日比+1,092円(+6.7%)の急騰を演じました。おしなべて株価が上昇した中で、時価総額が3兆円を超える信越化学工業の株価は同+11.4%上昇の8,311円で引けました(同日の高値は8,348円)。
同社は2007年7月13日に上場来高値9,580円を記録していますが、あと+15%ほどの上昇で上場来高値に到達する勢いです。
V字回復相場でも上昇率の高さが光る
信越化学工業は、世界の主要化学企業の時価総額ランキングで第9位(9月末時点)に位置しています。ちなみにトップ3はバイエル(独)、BASF(独)、デュポン(米)などそうそうたる企業です。そうした世界的に有力な化学メーカーの一角を占める企業の株価が1日で11%超も上昇したというのは驚きです。
11月10日の他の大型株の上昇率は、ソフトバンクグループが前日比+9.2%、日本電産が同+5.1%、ファナックが同+7.2%、トヨタ自動車が同+6.0%となっています。時価総額の大小はありますが、これらを上回る上昇率を記録した信越化学工業株の人気度の高さが伺えます。
株価急上昇の背景は?
では、なぜこれほど上昇したのでしょうか。以下に筆者の考えをまとめてみました。
- 100円/ドルの環境下でも2桁増益が続いていること
- 豊富なキャッシュを保有し、世界的な化学業界再編の嵐の中でもびくともしない強さがあること
- 半導体ウエハーの需給ひっ迫によるウエハーの値上げで業績急上昇シナリオが見込めること
- 金川千尋氏から斉藤恭彦氏への社長交代が整然と行われ、交代リスク懸念が払拭されたこと
- 貸借倍率が足元0.5倍前後と売り残が多く、将来の買戻しが入りやすいこと
同社の外国人投資家比率は、2016年3月末で40%前後と比較的高いレベルにあります。カリスマ経営者として知られる金川会長の手腕への信頼性は世界的に見ても相当高いと推察されますので、おそらく値が下がれば買いたいという外国人投資家のニーズは高いと思われます。
石原 耕一