ホンハイ傘下後、初めての決算説明会を開催

シャープ(6753)は、2016年11月1日に2017年3月期Q2 累計(4-9月期)決算を発表しました。7月29日に行われた前回のQ1決算時点では、各国政府による競争法の審査中であったことで鴻海精密工業(以下、ホンハイ)からの出資が完了していなかったため、今回が新体制発足後初の決算説明会になります。

また、今回の決算説明会では、初めてホンハイ出身の戴正呉社長が出席して証券アナリストの質問に答えました。そこでは、シャープの進む方向性を考えるための重要なヒントがいくつか示されています。

では、どのようなキーメッセージが発信されたのでしょうか。筆者は、以下の3点が今後のシャープの再建を考えるうえで重要なポイントであると考えました。

遅くとも2018年度までに東証1部復帰を目指す

第1のポイントは、遅くとも2018年度までに東証1部復帰を目指すと明言されたことです。同社は、Q1決算時点で一時的に債務超過に陥ったことから、8月1日付けで東証1部から東証2部に指定替えとなっていますが、安定した財務基盤を取り戻すことや、経営の独立性・透明性を確保することで復帰を目指す方針が改めて明確になりました。

これがなぜ重要かというと、「ホンハイはシャープの一部の事業が欲しいだけで、いずれ切り売りするのではないか」、あるいは、「シャープはホンハイの利益のために事業を行うのではないか」という疑念が解消され、”普通の上場企業”としてシャープを捉えることが可能になるからです。

実際、説明会での戴社長はこうした疑念を考慮し、発言は非常に慎重でした。特に印象的だったのは、「ホンハイとの協業効果」に関する質問は、回答を自ら行うのではなく、野村勝明副社長に任せたことです。ホンハイの取締役でもある自身が回答すると、利益相反の疑いを持たれる可能性が出てきてしまうためです。

ちなみに、10月29日付け日本経済新聞では、戴社長はシャープの東証1部復帰に全力を投入するためホンハイの取締役を辞任する意向と報じられていましたが、今回の説明会でもその意向を改めて表明していました。

オールシャープの総合力発揮を強調

第2のポイントは、シャープの再建をディスプレイ(液晶・有機EL)一辺倒ではなく、オールシャープで行うとしたことです。成長投資も、ディスプレイ以外のキーテクノロジー分野(センサー等)やブランド強化(欧州TVブランドライセンス先との業務提携の強化など)、人材確保などにも振り向けられる方針が強調されていました。

なお、ディスプレイに関しては有機ELのパイロットラインの投資は決定したものの、有機ELが液晶を完全に置き換えるだけの成長分野になるかはまだ見極めが必要として、その後の大型投資に対しては慎重なスタンスが示されました。また、中国などの海外企業が”国策”としてディスプレイ産業に取り組んでいる現状を踏まえて、官民共同で投資を行うべきであるという考えも示唆していました。

ホンハイの力は活用する

第3のポイントは、上述のように戴社長はシャープの経営の独立性には細心の注意を払っていますが、一方で、ホンハイグループの力を活用することも考慮されていることです。その一例は、現在、実勢価格よりも高値での購入を強いられているソーラーパネルの原材料であるポリシリコン購入契約の見直しを、ホンハイの力を活用してサプライヤーに求めていくという方針です。

また、「信賞必罰」という考えに基づく成果に応じた人事制度もホンハイ発祥のものであり、シャープには不足していた考え方です。ホンハイの強みの源泉を積極的に取り入れる動きが今後も続くことが予想されます。

振り返ると見事な期待値コントロールだった

今回の説明会に対する受け止め方は、ステークホルダー(株主、銀行、従業員、サプライヤー、地域住民等)によって様々でしょう。ただし、経営危機にあった同社が再建に向かうための方向性が明確化したという点では、異論は少ないのではないかと推察されます。

これからも痛みを伴った事業構造改革が避けられないとしても、その先には、シャープを再び”輝けるグローバルブランド”へ復活させるというはっきりとした目的があることが、今回の説明会で多くのステークホルダーに理解されたと考えられます。

安易な復活期待も極端な悲観論も排除した、見事な「期待値コントロール」を行った新生シャープの動向を今後も注視していきたいと思います。

 

和泉 美治