発言者が担当者であれば「大丈夫だと言っていたのに失敗した」と批判されるリスクを負うことは避けたいでしょうし、困難やリスクを強調しておけば、成功した時に「担当者が頑張ったおかげだ」と思ってもらえるかもしれませんから。
したがって、経営者がよほどの決断力を持って「悲観バイアスを修正すれば、このプロジェクトは行けそうだ」と決めないと、なかなかプロジェクトは陽の目を見ない、というわけです。
新型コロナに関しても、情報の発信者には悲観論を述べるインセンティブが働きかねません。「怖くないから恐れるな」と言っている人は大流行した時に過去の発言を問題視されかねないからです。
一方で、「怖いから気をつけろ」と言っている人は大流行しなくても「皆が気をつけたから大流行が防げた」と言えば良いので、過去の発言を問題視されるリスクは小さいでしょう。したがって、「怖い」と発言するインセンティブを持つ人がいるかもしれません。
景気判断に際しても、悲観バイアスには要注意です。儲かっている会社は静かにしています。そうしないと労働組合が賃上げを要求したりするからです。一方で苦しい会社は「今期は苦しいからボーナスは出せない。部品メーカーには値下げを頼む。政府は支援をよろしく」などと大きな声を出します。
「儲かりまっか」と聞かれて「あきまへん」と答えれば無難ですが、「儲かってます」と答えると人々の妬みを買うというリスクもあるでしょう。
したがって、発信された情報だけを見ていると、日本経済は不況だという印象を常に持ちかねません。そこで、景気の現状を知りたければ、人々の発言を聞くだけではなく、しっかりデータを確認する必要があるわけです。