小学校の掃除当番をホームルームで決める際に、「毎日A君に掃除当番をやってもらおう」という案が出たら、A君以外が全員賛成して、その案が通るかもしれません。

もちろん、民度の高いクラスであれば「それは不公平だから、皆で交代でやろう」という案が通るのでしょうが、皆が利己的に行動すれば、A君がずっと掃除当番をやることになりかねません。

実際の政治でも、理論的には「上位1割の金持ちから巨額の税金をとって、庶民の税金をゼロにしろ」「障害者の福祉の予算を廃止しろ」という法律ができないとも限りません。あくまでも”理論上は”ですが、金持ち以外の庶民、障害者以外の人が全員賛成するかもしれないからです。

筆者は政治学や正義論の専門家ではないので、本稿はこの問題を理論的に探究しようというものではありませんが、緊急事態宣言を考える際にこうした問題も併せて考える必要がある、と主張するものです。

国民全体へのバラマキではなくピンポイントな補償を

幸いなことに、本件は掃除当番の例とは異なり、正義論を持ち出さなくても金で解決することが可能です。多数の受益者が資金を出し合って「犠牲者」に「補償」をすれば良いからです。

政府は昨年、国民全員に10万円を配りました。もしかすると、今年も配るかもしれないと言われています。しかし、そんな金があるのであれば、「被害者」に集中的に配れば良いのです。

それほど困っていない多くの人に広く浅く配るよりも、深刻な影響を受けている数少ない人に配るべきだ、ということに加えて、広く浅く配っても景気対策の効果が薄い、ということもあります。人々は金がないから使わないのではなく、自粛しているから使わないのであって、10万円をもらったら使う、という人は多くないはずですから。