当然ながら、同じ早期・希望退職の実施でも大きな差が生じるでしょう。退職する従業員はもちろんのこと、社内に残る従業員の士気は全然違うでしょうし、上乗せされる割増退職金に差が出ても不思議ではありません。そして、「攻め」と「守り」の差は、そのまま経営者の判断の差とも言えます。

2019年に早期・割増退職を実施した上場企業を見ると、債務超過に陥った(注:当時)ジャパンディスプレイのように必要に迫られて実施した企業がある一方、富士通、キリンHD、ルネサスエレクトロニクスのように将来へ向けた構造改革を急いだ「攻め」も数多くあります。

2020年も、まだコロナ禍の影響が小さかった3月頃までは、ファミリーマートや三越伊勢丹ホールディングスなど、ややひいき目に見て「攻め」の実施企業が少なくありませんでした。

しかしその後の発表では、オリンパス(注:実施は2021年)など「攻め」も散見されますが、必要に迫られた「守り」が圧倒的に多くなっています。いや、「守り」どころか、最後の一手としての実施に追い込まれた企業も少なくありません。

2021年は「攻め」も「守り」も増加する可能性

さて、2021年はどうなるでしょうか。これは、感染状況や予定されているワクチンの接種状況で大きく変わってくると思われますが、早期の業績回復が難しい現状を鑑みれば、早期・希望退職の実施はまだまだ増加すると予想されます。

また、今後の世界情勢を保守的に予想した場合、「守り」だけではなく、「攻め」の早期・希望退職も増加し続ける可能性は十分あると考えられます。そのため、この記事をお読み頂いている皆さんが勤める企業も、ある日突然に早期・希望退職を募っても不思議ではないのです。

募集を開始してから応募〆切までの時間は意外に短いようですから、常日頃から自分の選択を想定しておくことが必要かもしれません。いずれにせよ、早期・希望退職制度が企業の経営者ではなく、従業員ファーストの制度となることを強く希望します。

葛西 裕一