また、同制度は、雇用の流動化が高まっている近年では、従業員にとっても決して悪い制度ではありませんし、むしろ、“渡りに船”という人もいるのではないでしょうか。

2019年から著しく増加していた早期・希望退職

ところで、昨今の早期・希望退職の実施急増は、本当にコロナ禍の影響だけによるものなのでしょうか? 結論から言うと、既に2019年から早期・希望退職は著しい増加に転じ始めており、今回のコロナ禍の影響は、それを加速したに過ぎないと見ることができます。

実際にデータを見てみましょう。コロナ禍の影響が全くなかった2019年に早期・希望退職を実施した上場企業は延べ36社、対象人数は1万1,351人に達しました。社数、人数とも2014年以降の年間実績を上回り、過去5年間では最多を更新したのです。人数だけ見れば、2013年を上回っており、アベノミクス始動以降では最多でした。

今となっては信じられないかもしれませんが、2019年の雇用環境はまだ良好であり、労働市場の需給関係を表す指標の1つである有効求人倍率は約1.6倍で、バブル経済期の1.4倍を遥かに上回る“人手不足”だったのです。ちなみに、直近の同指標は10月が1.04倍、11月が1.06倍でした。

ここで重要なことは、コロナ禍とは一切無縁で、しかも、雇用環境が良好だった1年前の時点で、既に早期・希望退職が著しく増加していたことです。

「攻め」と「守り」の2つのパターン

早期・希望退職の実施そのものは、リストラの一種であることは間違いありませんが、大きく「攻めのリストラ」と「守りのリストラ」の2つに分けられます。

「攻めのリストラ」は、企業体力(収益や財務状況)が十分あるうちに、近い将来予期される危機に対して先手を打って構造改革を進めるものです。一方、「守りのリストラ」はその逆で、収益悪化などで企業体力が大きく下降し始めた時、これ以上の悪化を防ぐためのものです。