「社畜」という言葉は、1990年の流行語と言われています。そのころからもすでに30年以上経っていますが、すたれることなく、むしろすっかり定着した言葉といえるでしょう。実際にTwitterでは、2020年12月の1カ月間だけでも、約17万もの「社畜」というワードを含む投稿がされています。
あらためて「社畜」とは、「勤めている会社のために自分を犠牲にして働くような人」のことを言います。2013年に流行語大賞のトップ10に選ばれた「ブラック企業」で働くことが当然になっている人の中には、自覚なく「社畜」になっていることもあるといいます。
令和になり、働き方改革が推し進められるようになった一方で、「社畜」は根強く存在しているようです。この記事では、そうした「社畜」についてのネット上の意見や実際の声を見ていきます。
そもそも「社畜」とは?
そもそも「社畜」とは、どのレベルからそうだと言えるのでしょうか。「自分を犠牲にする」ということから考えると、労働時間が長く、残業や休日出勤が多いとうことが目安として挙げられるかもしれません。
厚生労働省が発表する「毎月勤労統計調査」では、2020年10月の所定外労働時間(就業規則などに定められている労働時間を超えた時間)の平均は、「10.6時間」となっています。これはあくまでひとつの目安に過ぎませんが、これよりも圧倒的に残業が多いという方は「社畜」予備軍かもしれません。
しかし、そのように「社畜」やその予備軍的な状況であったとしても、なかなかそこから逃れるのは難しいという声もみられます。とくに現在は「新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、雇用が冷え込んでいて先の見通しも悪い」などの理由から、転職を諦めて、
「状況がもっと悪くなっても切られないためには社畜になるしかない」
「いらんやつから切られるわけで、会社のために働くのは結局自分のためでもある」
といった考え方をする人も多くいるようです。
また「社畜」は、いやいやながら会社のために働く人だけではなく、「ワーカホリック(仕事中毒)」と呼ばれる、「いつでも仕事のことしか考えられない」という状況にある人にも当てはまります。
帰りたくない人
このワーカホリックについて、SNSでは、これはアドラー心理学でいうと「友人やパートナーといった人間関係の問題から逃げている」という状況なのだという指摘も見られます。実際に、ツイッターでは次のような投稿が話題を呼んでいました。
「『日本のサラリーマンはなぜそうまでして、無理に出勤したがるのか』という話、何割かのオッサンは本当に家にいたくないし、会社にしか居場所がないんだよ。SNSはまあ若い単身者が多いからか「帰りたい協会」なんてネタもあるが、しょぼくれたオッサンの本当の心の闇を軽く見ちゃいかん」
この投稿には約7800件のRT(リツイート)と約1万4000件の「いいね」がつき、さまざまな反応が集まっています。
「居づらさが増してきてて、解散検討してる身としては刺さる話や」
「これはあるなー……うちも始業の3.4時間前に出勤している先輩が多い。だから1時間前に出社してる僕が遅い扱いされるからふつーに出勤してほしい」
「『子供がいるから離婚しないだけ』って言ってるうちの先輩は、朝から晩まで会社にいるし、土日も進んで会社に来てる。会社が好きっていうより家が嫌いってだけ」
「あるある。管理職なので手当も出ないし、やることもないのに休日出勤して、ソリティアを延々とやっていた課長さんがいたなぁー」
1日のうちのほとんどを会社で過ごし、残業も多い「社畜」の方は、仕事で多忙だというだけでなく、このような事情もあるのかもしれません。現在はコロナの影響を受けて、テレワークや在宅勤務が推奨されていますが、「家にいたくない」という事情を持った人たちにとっては、その働き方は辛いのだという声も見られました。
働きたい人
一方で「社畜」と言われてしまうような人の中でも、それなりに多いのは、次のような思いを持った人たちなのではないでしょうか。
「いまは仕事やってるのがたのしい。やる事いっぱいで成長させようとして下さっているのが凄くわかる。残業とか休出とかも全然苦じゃないし、もっと成長したい」
「仕事辞めたいとかしんどいと悩んでいる時間は本当に勿体ない。仕事に夢中になれていない証拠。夢中になっていたらあっという間に時間がすぎて、もっと仕事したいのに!時間つくらなきゃ!と思う。僕は月150時間残業とかやってた」
「新しい業界に来たらミジンコみたいな自分から1日も早く成長したいし、1日12時間働くのなんて当たり前だと思ってるんだけど皆そうじゃないの?提示や残業1.2時間程度で結果だせるほどそんな優秀なの?」
日本能率教会マネジメントセンターが2018年に行った「新入社員の働き方と指導者の接し方に関するアンケート調査」では、残業に対する考え方について、新入社員の60パーセントを超える人が「一時的に業務の負荷や労働時間が増えても挑戦したい」と回答しているそうです。成長のためには残業したり休日であっても働いたりしたいという声は多く見られました。
アメリカのベストセラー作家であるマルコム・グラッドウェルは、著書『天才! 成功する人々の法則』の中で、エリート演奏家に関する研究などを引いて、「大きな成功を手にするためには、1万時間もの練習が必要だ」という「1万時間の法則」というものを提唱しています。
この考え方には、「極めて競争の激しい分野での事例であり、普通の仕事には適用できない」「効率よく学べば、1万時間もいらない」「才能を無視している」といった批判もあり、「たいていのことは20時間で習得できる」といった意見さえあります。ただ、いずれにしても、普通の人がゼロから「仕事で成功するレベル」に達するには、それなりの時間は必要です。それを早く迎えたいのか、そこまで早くなくてもよいのか、といった点は人それぞれでもあります。
新型コロナウイルスに後押しされて、働き方にも多様性が生まれてきている現代。「社畜」から脱出したい人にとっても、もっと仕事を頑張りたいという人にとっても、働きやすい環境がこれから構築されていくのかもしれません。
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