本記事の3つのポイント

  • コロナ禍でタッチパネルなどのディスプレー分野では非接触ニーズが拡大
  • ディスプレーに高感度なセンサーを搭載して非接触操作を可能にするホバーディスプレーでは、JDIなどが積極的な製品展開
  • 空中に映像を結像させて表示する「空中ディスプレー」では、様々な表示方式が登場し始めている

 

 12月2日から幕張メッセ(千葉県)で開催されたファインテック ジャパンでは、ジャパンディスプレイ(JDI)がホバー技術を用いたセンサーの応用展開品を展示していた。ほかにも、光学フィルムなどを手がける東山フイルムが空中ディスプレーを展示。自社開発した反射フィルムもしくは他社のシートを用いて空中映像を映し出す構造で特許を取得し、赤外線センサーなどを組み合わせれば非接触ディスプレー(空中デイスプレー)にすることができるという。

 非接触パネルニーズはコロナによって喚起された側面が強いが、従前から技術や製品開発は取り組まれており、このニーズの波にうまく乗ることができれば、新しい市場形成をリードすることができそうだ。調査会社の㈱富士経済によると、空中ディスプレー関連製品市場は2025年に19年比21.4倍になる見通しだ。ASKA3Dプレート、再帰反射シート、DCRA技術(利用プレート)、非接触型静電容量式タッチパネルを調査対象とし、タッチパネルは現状開発段階にあって市場形成はないものの、21年に製品発売が開始して市場が立ち上がり、24年以降に大幅な市場の拡大が期待されるとしている。

JDIは静電容量式センサーの高精度化で非接触を深耕

 非接触パネルには、ディスプレーに高感度なセンサーを搭載して非接触操作を可能にするタイプ(ホバー操作・ジェスチャー操作)と、空中の映像を操作する空中ディスプレータイプがある。前者は静電容量式タッチセンサーの感度を高めることで非接触化する技術が多く、空中ディスプレーでは反射プレートでディスプレー映像を空中に映し出し、汎用の赤外線センサーを用いて指を検知して操作するものが多い。

 ファインテックに出展したJDIでは、独自のタッチセンサー技術「Pixel Eyes」(静電容量式タッチセンサー技術)を応用展開した様々な製品を発表した。ホバー技術を用いた非接触ディスプレーにおいては、通常のディスプレーや透明ディスプレーに搭載するもののほか、透明なセンサーパネル(単体)にして後付けで非接触化することが可能な「高精度非接触入力 外付けホバーセンサー」も披露した。

 非接触ニーズは身の回りにある既存製品に多くあるため、後付けですぐに非接触化できる製品への注目度が高い。JDIは、エレベーターボタンの上に透明ホバーセンサーを設置して非接触ボタン化するデモを行っていた(写真)。

 同社は数年前からホバーディスプレー(非接触ディスプレー)の開発を続けており、製品展開するためのニーズと時期を探っていたが、コロナによりニーズが明確になってきたことで、ラインアップ拡充を進めたかたちだ。21年からの量産展開を計画している。

画期的な薄型非接触ディスプレーも

 凸版印刷が10月に発表した空中ディスプレーは、従来品に比べて筐体の50%薄型化を実現した画期的な製品だ。筐体の厚みは6cmと、他の空中ディスプレーの筐体が大きな箱をイメージさせるのに対し、同社の新製品は通常の直視型ディスプレーのように設置することが可能だ。ディスプレー画面と反射板と空中映像が平行に並ぶ内部構造(特許申請中で詳細非公開)により、この薄型化を実現している。

 21年に量産試作、22年の本格量産を目指す。医療用機器、公共施設の設備操作盤、高いセキュリティーが要求される施設の入退室管理設備などへの採用を視野に、顧客との製品設計を進めていく。22年度には関連受注も含め、20億円の売上高を目指す。

 センサーは、赤外線方式の空間位置センサー、ToF方式の距離画像センサーを搭載し、空中の映像上の指の動作を認識させている。また、LEDバックライトはおよそ1万カンデラと、通常のディスプレーの数倍程度の輝度を確保した。自社で製造する液晶パネルの性能が奏功している。同社の液晶パネルは、高開口率、高輝度を実現する独自のHAST(Hyper Amorphous Silicon TFT)技術をベースにしたBlanview(ブランビュー)液晶パネル。屋外での視認性も高く、低消費電力な構造が特徴だ。

 デモ機の空中画像の輝度は数百nt程度だが、背景がディスプレーの黒い画面であるため、明るくはっきりとした映像を見ることができる。また、映像が2重に見えるゴースト現象が出ないような内部構造設計になっており、横から見ても画面が見えることが無く、ATMなどセキュリティー面が問われるシーンにも活用できる。まずは7型で製品化を進めていく。ラインアップは5~10型を想定している。

タッチパネルモニターの老舗も製品化着手

 三菱電機エンジニアリング㈱は10月、「タッチレス機能付タッチパネルモニター」と、空中ディスプレー技術および空間タッチ操作技術を採用した「空中タッチディスプレイ」の試作機の開発を発表した。21年度の製品化を目指している。

 非接触タッチ操作を実現する「タッチレス機能付タッチパネルモニター」は、静電容量方式タッチパネルに3Dセンシング技術(三菱電機㈱が開発)を採用し、タッチパネルの電極数を切り替えながら容量変化を検出することで、近づいた指の位置を特定する仕組み。画面に触れずに、タッチパネル表面から約3㎝の近接距離で操作ができる。

 空間タッチ操作を実現する「空中タッチディスプレイ」には、再帰反射材を搭載した光学系により空中に映像を浮かび上がらせる技術と、3次元測距センサー技術(同)と独自のアルゴリズムで、指の位置や動きを判別する技術を採用した。同社は、1996年にタッチパネルモニターの発売を開始し、20年4月で25年目を迎えている。これまでに、国内外で累計22万台を出荷し、公共施設、医療機器、産業用など幅広い分野で採用されている。

 空中ディスプレーを含む非接触ディスプレーは21年から製品化、量産化されるものが多く、コロナウイルスが収束したのちも、顕在化した「複数他者が触ったものに触りたくない」といったニーズが継続していくと見られている。また、セキュリティー意識の高まりによる指紋を画面に残さないといったニーズ、機器を汚したくないといったニーズにも応えるかたちで、今後非接触タイプのディスプレーがスタンダードになる日もそう遠くなさそうだ。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子

まとめにかえて

 コロナ禍によって、急速に非接触ニーズが拡大しています。触れずに操作できるようということで、公共機関や医療施設などを中心に採用が広がりそうです。ディスプレー業界は付加価値の維持・向上に向けた技術ニーズの存在が乏しくなっており、こうした新しいニーズの到来は業界各社にとっても、大きな意味を持ちそうです。

電子デバイス産業新聞