イスラム過激派が活発化する恐れ

一方、現時点で何か大きな動きが生じているわけではないが、新型コロナウイルスの感染拡大の長期化は、アジアやアフリカで活動するイスラム過激派の活動空間を拡大させてしまう恐れがある。

欧米諸国やインド、ブラジルなどと比べれば、イスラム過激派が活動する国々では新型コロナウイルスによる被害規模は小さい。だが、その長期化は警察や軍のマンパワーに影響を及ぼし、警察や軍によるテロ対策業務が手薄になり、それによってイスラム過激派の活動領域が広がり、かえって治安が悪化する可能性がある。

また、感染拡大の長期化によって政府の財政状況がますます悪化し、警察官や兵士への給与未払い・遅延、減給などが生じ、テロ対策に従事する人々の士気が低下する可能性もある。

日本経済へのセキュリティリスク

そしてこれらは大きなビジネスリスクでもある。インド太平洋地域の海洋覇権競争が激しくなれば、民間船舶や石油タンカーが航行する日本の経済シーレーンの安定が脅かされる可能性がある。

また、2013年1月のアルジェリア・イナメナス人質テロ事件、2016年7月のバングラデシュ・ダッカレストラン人質テロ、2019年4月のスリランカ同時多発テロのように、日本人は断続的にイスラム過激派によるテロの犠牲になっている。

こういったセキュリティリスクは今後とも続く。

新型コロナウイルスの感染拡大は政治的空白を生じさせ、現状を打破しようとする国々、イスラム過激派などのテロ組織に利する可能性がある。来年も現在の状況が続きそうだが、新型コロナウイルスの長期化はさまざまな政治リスク、ひいてはビジネスリスクを高めることを我々は肝に銘じるべきだ。

和田 大樹