一方で、短所は出力密度が低い点。従って、電動車などの高出力用途には向かず、もっぱらIoTデバイスやペースメーカーといった省電力デバイスが中心になる。
同社は24年の量産化に向けて製造プロセスを確立中。なお、γ崩壊を利用した原子力電池の開発も進めている。
米スタートアップのNDB(米カルフォルニア州プレザントン)も核廃棄物から抽出したC14を利用したダイヤモンド電池「Nano Diamond Battery」を開発している。
今年9月、同社はローレンス・リバモア国立研究所およびケンブリッジ大学それぞれと実証実験を行い、いずれも充電効率40%を達成したと発表(従来は15%)。カギとなったのがCVD(化学気相成長)などによる高純度化プロセスで、これにより出力を上げることに成功した。なお、ダイヤモンド表面にPVD(物理気相成長)でダイヤモンドを被覆することで放射性物質を外部に出さない構造としている。
用途としては宇宙探査機、飛行機、電気自動車(EV)、電車、スマートフォン(スマホ)、ウエアラブル機器、ペースメーカー、IoTセンサーなど、電力を消費するすべてを想定している。スマホで9年、EVで90年の使用が可能としている。最終的には寿命2万8000年を目指している。同社は商用品のプロトタイプを開発中で、年内にも顧客に提供していく予定だ。
機器本体より長寿命
全固体電池、リチウム硫黄電池、ナトリウムイオン電池といった化学反応により充放電する蓄電池は数年で劣化する。これに対し、原子力電池は半減期により100年以上使用できる。これは人間の寿命、さらには機器本体の寿命を超えることにもなる。蓄電池を交換するよりも、先に機器本体を交換することもあり得る。
ただし、普及するにはハードルが高いのも事実。原発事故などにより原子力のイメージは悪く、社会に受け入れられないのも想像できる。今後いかに安全性をアピールできるかが普及のカギとなる。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也
まとめにかえて
ポストリチウムイオン電池を巡る開発競争は依然として混沌としています。全固体電池が有力視されていますが、以降も続々と有力候補が出てきており、まさに本命不在の状況といえます。今回取り上げた原子力電池は長寿命を武器に、新たな市場を開拓することができるのか、注目されるところです。
電子デバイス産業新聞