介護離職で「失ったもの・得たもの」
30年以上勤めた会社を「介護離職」したヒトミさん。今は、週に4日、母をデイケアに預け、その日に自宅近所の保育園で、短時間のパート勤務をしている。現在は「介護と仕事の両立ができている」状態だという。
最後に筆者は、介護離職を通じて得たもの、失ったものは何か、ヒトミさんにたずねてみた。
「確かに退職金は目減りしました。定年後の延長雇用で65歳まで会社に残れる権利も同時に失ったので、そこは痛いですね。年金受給まではパートで食べていかなくちゃいけないから…。
でも、得たものも大きいです。母との最後の数年を悔いなく過ごせそうなこと、私自身が心身共に健康を取り戻しつつあること、この2点は大きいと思います」
そう語る彼女は、最後にこう続けた。
「でも、母が亡くなったあとのことを考えると気が重いです。私が介護に尽くしてきたことを、妹は認めないでしょう。相続でトラブルことは目に見えていますから、今の自宅に住み続けられるかどうかも心配です。もしかしたら、そのときに始めて『介護離職』を後悔するかもしれません」
さいごに
介護休業・介護休暇の取得のしやすさは勤務先によって差がある。また、出世に響くことを懸念し、介護中の親族がいること自体、人事には知られたくない、と考える人も少なからずいるようだ。ヒトミさんのように介護を協力し合える親族がいない場合は、仕事と介護の両立が難しくなるケースが増加するのは想像にたやすい。
少し古い調査ではあるが、介護離職後に、正社員として再就職できた人の割合は49.8%、その他の人たちはパート・アルバイトや派遣社員、そして24.5%の人が無職のまま、というデータも出ている。
介護が子育てと大きく異なる点は、「終わりが見えない」こと。介護をする側・介護を受ける側がともに後悔しない選択とは何なのか。筆者はヒトミさんの話を通じて、そう感じた。
【参考】
「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」(平成24年(2012年)度厚生労働省委託調査)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
佐橋 ちひろ