JR東海の二重苦、新幹線の業績停滞とリニア遅れ

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新型コロナウイルス感染拡大の影響により、出張や外出を、以前と比べると大幅に控えられているという方は、依然として多いのではないでしょうか。

最近では、 「GO TO キャンペーン」などにより、2020年5月などと比べて、移動するようになってきた、という方も多いかと思いますが、現状はどのような状況になっているのでしょうか。

今回は東海旅客鉄道(JR東海)の新幹線における月次利用状況などを見ながら、人の移動がどの程度までに回復してきたのか、また JR東海はどのような苦境に直面しているのかについて見ていきたいと思います。

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新幹線の月次利用状況について

新幹線の東京口の月次利用状況について対前年同月比でどの程度にあるのかについて見ていきましょう。

ここでは、「のぞみ」の東京口での月次利用状況についてまず見て行きます。

  • 2020年4月:10%
  • 2020年5月:10%
  • 2020年6月:28%
  • 2020年7月:32%
  • 2020年8月:25%
  • 2020年9月:39%
  • 2020年10月~14日まで:45%

新幹線の月次利用状況については5月以降緩やかにではありますが回復途中にあると言えます。

最も繁忙期である8月に関しては、帰省や個人旅行などが差し控えられた影響などもあり、対前年同月比で25%となっています。通常であれば繁忙期であるのにもかかわらず、こうした結果は非常に厳しかったと言えるでしょう。

その後、9月に関しては、39%にまで戻り、また10月に関しては14日までのデータではありますが、45%までに回復しており、搭乗者数としてはおおむね半分近くまでに回復してきたということがいえます 。

もっとも、固定費が大きな比率を占めるインフラの輸送業において、月次利用状況が対前年同月比で45%というのは厳しい状況にあるということは変わりがありません。これから発表される第2四半期の決算内容に注目です。

それでは同様に、大阪口における月次利用状況について見ていきましょう。

  • 2020年4月:10%
  • 2020年5月:10%
  • 2020年6月:29%
  • 2020年7月:34%
  • 2020年8月:25%
  • 2020年9月:40%
  • 2020年10月~14日まで:45%

大阪口においても東京と同様な傾向にあり、10月においても月次利用状況については対前年同月比で45%という状況にあります。

引き続き、新型コロナウイルスの影響で移動差し控えてる人が大きく戻ってきているという状況とはまだ言えそうにありません。

中央新幹線計画の状況

JR東海は、これまで見てきたように、新型コロナウイルスの感染拡大により人の移動が抑制され、搭乗者数が減少することにより、月次利用状況が厳しいことは、おわかりいただけたと思います。

JR東海が直面する苦しい状況については、新型コロナウイルス感染拡大の影響による人の移動抑制による業績の悪化だけではありません。

JR東海が現在推し進めている中央新幹線計画、いわゆるリニア中央新幹線についても計画通り進んでいない状況があります。

同社の決算資料によると、以下のような状況だということが開示されています。

南アルプストンネル静岡工区においては、大井川の水資源への影響について、静岡県、流域市町などの理解が得られず、トンネル掘削の前段で必要となるヤード整備に着手できていないなど、実質的に工事が進捗しない状況が続いています。2027年の開業に向けて、工程は大変切迫した状況にあり、当該ヤード整備については、6月中に開始する必要があるため、社長が静岡県知事に面会するなど、了解を得るべく努めましたが、知事の了解は得られませんでした。


このように、 大規模プロジェクトである中央新幹線計画において、計画通りに事業が進捗していないということがおわかりいただけるかと思います。

もっとも、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、人の移動が大きく抑制されている現状では、「急ピッチで東海道新幹線に変わる中央新幹線の計画を推し進める必要性がない」という声もあります。

ただ、中央新幹線においては、関東地方だけではなく、太平洋側の非常事態において、東海道新幹線に代わる輸送手段という位置付けとしても考えられることから、現状を踏まえて、中央新幹線計画をどのように捉え直すのかも必要といえるでしょう。

新幹線を取り巻く人々のライフスタイルの変化と産業構造

新幹線は、出張といった私達のビジネスや旅行と言う個人のイベントにおいて欠かせない移動手段であったということは多くの人が認めることではないでしょうか。

その一方で、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、私たちの仕事の仕方やライフスタイルが大きく変わり、移動に対する向き合い方やその見方も大きく変わったのは事実です。

これまでは簡単に新幹線などを使い出張をし東京や大阪を行き来するということはよくあることでしたが、現状では、必要最低限の出張にとどめるなど、会社側も従業員の感染を最小限に抑える事やそもそものリスク管理の観点から、長距離における出張などを制限してるということはあります。

こうした状況が短期的に変化するか、つまり新型コロナウイルス感染拡大の前の状況に戻るかという視点で考え直してみると、完全には戻りきらないという可能性も十分にあります。

今後、新型コロナウイルスに対するワクチンの開発及びその普及によって私たちの生活が以前のような姿になる可能性も十分ありますが、人々の心理的な不安の状況が以前のように戻るにはさらに時間がかかるのではないかと思います。

その間において、鉄道会社がどのような事業モデルを再構築するのかというところが注目に値するのではないでしょうか。

参考文献

泉田 良輔

参考記事

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泉田 良輔
  • 泉田 良輔
  • ナビゲータープラットフォーム 編集委員長

2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(ナビプラ)を共同創業。ナビプラでは個人投資家のための金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。大学卒業後、日本生命・国際投資部では外国株式運用のファンドマネジャー、その後フィデリティ投信・調査部や運用部にてテクノロジーセクターの証券アナリストや小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー。慶応義塾大学商学部及び同大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。著書に『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』、『銀行はこれからどうなるのか』、『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』、『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』。ネットメディアにおいては「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」「東洋経済オンライン」「プレジデント」などへの寄稿も行う。東京工業大学大学院非常勤講師。産業技術大学院大学講師。