過去2回は携帯料金引き下げ言及後に内閣支持率がアップ
もう一つ注目すべきは、内閣支持率との関連性です。過去2度(2015年9月、2018年8月)は、携帯料金の引下げ発言から概ね1~2カ月後に内閣支持率が上昇しました(「NHK 選挙WEB 内閣支持率 2013年1月~2020年9月」による。以下同)。
確かに、携帯通信企業に勤める人を除けば、携帯料金が下がって嬉しくないはずがありません。逆に言うと、携帯料金引き下げを何らかの政局に利用されてしまう可能性もあります。
実は、最初に安倍前首相が唐突に言及した2015年9月には混乱の末に安保法が成立していますが、その前月には不支持率が支持率を上回る苦しい状況でした。さらに、2度目(菅官房長官の講演発言)となった2018年8月も、アベノミクスの行き詰まり懸念により、その前々月まで3カ月連続で不支持率が支持率を上回る苦しい状況だったのです。
結果的に見れば、携帯料金引き下げへの言及は、こうした苦しい状況を脱することができた一因となったのかもしれません。
携帯料金引き下げを経済回復につなげることができるか
では、今回はどうでしょうか。首相が交代したので一概に比較はできませんが、新型コロナウイルスへの対応の是非を巡り、安倍前政権の支持率は大きく下落していました。これは過去2度の状況よりも深刻であり、各種の世論調査によれば、8月の不支持率は支持率を10~13ポイント上回る“非常事態”だったのです。
新しい首相になったとはいえ、携帯料金引き下げ政策が世論調査にプラスに効く可能性は高いでしょう。しかも、早期の解散総選挙の可能性がささやかれる中でもあります。今回もまた、携帯3社が政権浮揚のための犠牲になったと考えるのは邪推でしょうか。
しかし、いかなる理由であれ、携帯料金が引き下がるのは消費者にとって大きなメリットになります。このメリットが、消費や購買などコロナ禍で落ち込んだ経済活動の回復につながるような政策を期待したいところです。携帯料金を引き下げて終わりとならないことを注視するべきでしょう。
葛西 裕一