筆者の友人、Aさんは日本から移り住んで23年という、ニュージーランドの裏も表も知り尽くした女性です。ご主人は7歳の時に香港から移住してきた、中国系キーウィ。2人はフレンチ・マスチフが気に入り、数代にわたってこの種類の犬を飼ってきました。

2年ほど前のこと。「クマ」ちゃんと名づけた3歳のオス犬の首にしこりがあるのに気づきます。かかりつけの獣医さんに連れていくと、しこりは悪性リンパ腫で、余命は約3カ月と告げられました。

通常、獣医さんは病気にかかった動物を快方に導くための手立てをいくつか提示し、飼い主はその中から最も良いものを選びます。残念ながらクマちゃんには投薬しか方法は残されていませんでした。しかも薬をのんでも回復は見込めず、数カ月の延命が期待できるだけに留まりました。

Aさん夫婦は大変なショックを受けます。当時気が動転していて正確な値段が頭に入らなかったそうですが、薬が非常に高額だったことはよく覚えているとのことでした。

痛みに苦しむ愛犬を目にして考えたこと

痛みに耐え切れず、クマちゃんは夜中に鳴き声をあげるまでになっていました。怒りっぽくなり、一緒に暮らすもう1匹の犬とけんかをするようになりました。それまで、けんかなど1回もしたことがなかったのに、です。

クマちゃんの変容ぶりを目にして、「痛みがこんなにひどいのに、延命させるのは正しくない」とご夫婦は気づいたそうです。「クマちゃんとできるだけ長く一緒にいたいという、私たちの『エゴ』で延命してもらうのは間違っている」と。