NT倍率が高値を更新中
NT倍率をご存じでしょうか?日経平均株価(日経225)を東証株価指数(TOPIX)で割った値を意味します。2016年8月12日の終値を見ますと、前者が16,919.92円、後者が1,323.22ですので、16,919.92÷1,323.22=12.79となります。
この二つの株価指数はともにメジャーな指数でしかも幅広い市場の動きを捉える狙いを持っています。従ってNT倍率が長期的にみて大きく変動することはないように思えます。しかし、現実にはNT倍率は大きく変化してきました。
NT倍率は、2000年から2010年の間は10前後で推移していました。その後、じりじりと高くなるのですが、ここにきてその上昇のペースが上がっています。手元のデータを1979年以降みていくと現在の水準は決して最高値とは言えないのですが、21世紀に入ってからに限ると高値を更新しています。
投資対象として日経平均の方が良い!?
NT倍率が上昇するということは、日経平均のほうがTOPIXよりもパフォーマンスが良いことを意味します。従って投資対象として日本株を考えるときに日経平均に投資するのが良い、という推論も成り立ちます。
これはある意味で正解です。TOPIXは東証1部に上場するすべての銘柄(約2,000銘柄)の値動きを反映させますが、日経平均は225銘柄の値動きを反映させるうえ、適宜銘柄の入れ替えも行われます。旬な銘柄をハイライトしているという意味で、最高値を更新するニューヨークダウに似ているとも言えるでしょう。すべての銘柄をまんべんなくという思想で作られたTOPIXよりも、日経平均は日本代表という風に言えそうです。これが投資対象としての日経平均の魅力です。
日経平均はとても個性的
この日経平均、日本代表であるだけでなく、その構成が大変個性的です。ファーストリテイリング(9983)、KDDI(9433)、ソフトバンク(9984)、ファナック(6954)、京セラ(6971)、ダイキン工業(6367)、テルモ(4543)、東京エレクトロン(8035)、アステラス製薬(4503)、セコム(9735)、信越化学工業(4063)、日東電工(6988)、TDK(6762)、エーザイ(4523)、トヨタ自動車(7203)、ホンダ(7267)、花王(4452)などが構成比率の上位になりますが、上位10銘柄で指数全体の三分の一、上位20銘柄で半分を構成しています。つまり上位20銘柄の値動きが日経平均の値動きに大きな影響を及ぼすのです。
日経平均に投資するというのはこうした上位銘柄への集中投資を意味します。この点をぜひ覚えておいてください。
なぜ日経平均に比べてTOPIXがぱっとしないのか
1. 優良株への物色の集中
先ほどの日経平均の主要銘柄を改めて眺めていただくと、このなかに直近の決算で評価を高めた銘柄が多いことに気づかれる方もおられることでしょう。とくにファーストリテイリングは業績の底打ち感が出ましたし、ソフトバンクはスプリントの改善が評価されています。
現在の投資環境は緩和的な金融の状況が続いていますが、日本株全体を考えると円高のマイナス影響などから業績面で安心感が広がる局面にはなっていません。そうしたなか、日経平均の主要銘柄にいち早くポジティブな材料が出はじめ、市場がそれを評価し買いを集めた、その結果日経平均が好調だ、と理解することもできそうです。
2. 銀行株の不振
NT倍率は2015年12月20日に12.30でした。これが12.79まで上昇していますが、その要因のひとつが銀行株の不振です。銀行株はとくに日銀のマイナス金利導入が痛手になり、2015年末対比でワーストパフォーマンスのセクターの一つです。
日経平均の上位銘柄には銀行の顔ぶれが見当たりません。一方のTOPIXには銀行株がしっかり含まれています。銀行株をしっかり含むTOPIXよりも、ほとんど含まない日経平均が好調だったことは頷けると思います。
日経平均の主要銘柄の株価に過大なプレミアムがついていないか?
こうしてみると、日経平均は最近の相場のなかでは最良の投資対象のひとつだったと言えそうです。ただし全体の業績動向が冴えないなか、消去法的に日経平均の主要銘柄が買いを集めているのかもしれません。そしてこれらの主要銘柄に高いバリュエーションがついているのかもしれません。
例えば、よく言われることですが、ファーストリテイリングの株価水準は業績の回復と今後の伸びを相当程度織り込んでいると言えそうです。ファーストリテイリングは2015年8月期が最高純益でした。今期は苦労していますが、仮に過去最高益に戻るとして計算してみるとそのPERは35倍です。これは東証1部の平均PERの約2倍にあたり同社に対する業績改善期待の高さがうかがえます。
NT倍率が高いということは、日経平均の主要銘柄に高い評価がなされていることを示唆しています。この状況で新規に日経平均に投資するのが良いのか、今後投資を考えておられる方にとっては重要な論点です。
特に日銀のETF買い増しなど、公的な資金が株式市場の主要な買い手のひとつとして台頭してきました。下値不安が後退するなか、業績に安心できる銘柄を買っておくというのは、一つ間違えればバリュエーションを軽視して需給期待で投資することになりかねません。
筆者はひねくれものですので、お盆休みには、いまスポットライトが当たっていない、割安株を探すことに使いたいと思います。
LIMO編集部