首都マニラにも潜む脅威

また、テロリズム専門家の間でも、最近のアブサヤフやフィリピン南部のテロ情勢を懸念する声が広がっている。

インドネシア・ジャカルタに拠点を置くテロ研究機関「Institute for Policy Analysis of Conflict(IPAC)」のシドニー・ジョーンズ所長は7月下旬、アブサヤフが身代金目的の誘拐や海賊行為を数カ月以内に活発化させる恐れがあると指摘した。

アブサヤフは、マラウィ市占拠のように、2016年から2017年にかけてイスラム国から多額の資金援助を得たため、財政的に豊かであったが、近年は戦闘員や支配地域の住民たちに必要な資金を提供することが困難となり、誘拐や海賊行為で資金を獲得する必要性に迫られているという。

同様に、フィリピン当局もマレーシア東部サバ州沖でアブサヤフによる身代金目的の誘拐が発生する恐れを警告した。

また、シンガポールに拠点を置くアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の情報共有センターは先月、フィリピンの海上保安庁からアブサヤフのメンバー5人が海上で身代金目的の誘拐を行う機会をうかがっているとの具体的な情報を得たとされる。

さらに、これは最近筆者が外国の対テロ対策専門家から得た情報であるが、アブサヤフはスルー諸島という一種の僻地で活動するイスラム過激派ではあるが、首都マニラなどにもスリーパーセルを拡大することを狙っているという。

現に、以前マニラでもアブサヤフやバンサモロ・イスラム自由戦士など、イスラム国を支持する個人やセルが摘発された事例がある。フィリピンのテロ情勢は、日系企業や邦人の安全の観点からも重要な問題である。

和田 大樹