バイデン氏は核なき世界を目指す意思を表明するなど、オバマ前大統領の理念や政策を継承する姿勢を強調している。また、バイデン氏は2015年のイラン核合意から一方的に離脱したトランプ政権を非難しており、大統領になれば2015年のイラン核合意に戻ることだろう。

しかし、バイデン政権によるイラン緊張緩和は、中東に新たな不安材料をもたらす。米国がイランに寄り添う姿勢に変化すれば、イランと長年対立するサウジアラビアやイスラエルの対米不信は再び高まるだろう。

中東各国へのアプローチを強める中国

特に、オバマ政権と微妙な関係にあったサウジアラビアは、最近になって中国支援のもと北西部に核兵器にも転用可能なウラン精鉱施設を建設していることが報じられた。サウジアラビアがバイデン政権に不満を強め、中国へ傾斜すれば、中東地域を舞台とした米中対立が激しくなる。

中国は一帯一路構想に基づき、イランやイラクなど中東各国へのアプローチも近年活発化させており、トランプ大統領同様、対中国では厳しい姿勢で臨むバイデン氏もそれには強い警戒心を示すことだろう。

また、サウジアラビアが核兵器への意欲を示せば、イランや中東で唯一の核保有国であるイスラエルも行動をエスカレートさせ、中東の軍事大国間で核を巡る競争、威嚇合戦が激しくなる恐れもある。

以前、サウジアラビアのムハンマド皇太子は、「イランが核爆弾を開発すれば、我々もできるだけ早く同じようにする」との意思を示したことがある。バイデン政権の誕生で、米イランリスクは低減されたとしても、新たな中東リスクを生む可能性がある。

和田 大樹